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 第三章
 
 
 ここ二日は天気がよかったが、今日の空模様は曇り。予報では夕方から雨が降り出すらしい。しかも今日は満月。噂の雨の日と満月の日、この二つが重なることはなかなかない。今夜必ず何かが起こる。そう考えると全員に少なからず緊張が走っていた。

「いよいよ今夜だね〜。今からドキドキしてきたよ!」

 及川 翠(おいかわ・みどり)がぐっと拳に力を入れて呟く。

「そうよ、今夜にかかっているのよ。猫たち……いえ、もふもふたちを助けられるかは私たちの手にかかっているのよ!」

 と熱弁するミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)の言葉に、スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)ティナ・ファインタック(てぃな・ふぁいんたっく)も目を輝かせる。

「今日こそ、もふもふを我が手にっ!」
「おー!」

 盛り上がる三人をにこにこと見つめるスノゥ。そんな四人のもふもふ探しの旅は始まったばかりだった。

「はっ! もふもふの気配!」

 ミリアのもふもふ察知が働いて、その近くへと四人は急ぐ。しかし、そこにあったのは確かにもふもふだが、もふもふ違いばかりだった。
 ぬいぐるみ、手芸屋さんに納品されようとしている大量の綿、詩亜が携帯していたわたげうさぎ型のHC、散歩中に逃げ出してしまった犬。スノゥと翠が飼い主にリードを渡して手を振って見送っている間、ミリアは少ししょんぼりとしていた。

「どこにいるのかしら……もふもふ」
「最近ノラネコも見たっていう人もいないみたいだし……本当にどこにいっちゃったのかしら」

 ミリアとティナ二人で溜息をついたその時、もふもふセンサーに引っかかるものが複数存在した。

「これは……今までにないもふもふの気配……!」
「本当なの?!」
「もふもふー!」

 急いで意識を集中させれば、その複数の気配はここからそう遠くない。というよりも段々と近付いてきている。

「裏の路地よ! 皆急いで!」

 ここからすぐ裏手の路地は行き止まりで、他に抜け道はない。つまり、袋のネズミだ。

「つかまえたわよ! もふもふ!」

 路地に飛び出して四人が見たものは、紛れもないもふもふ。
 その誘惑には抗えず、スノゥの制止を振り切ってミリアとティナはもふもふへと飛びついた。

 ――みゃー!!!

「…………あ」
「あら」

 四人に遅れて路地に現れたのは七尾とアキラに霧島だ。先に路地を調べにいくと突っ走っていったミャンルーたちとディオ。見た目も愛らしいもふもふ具合である彼らは見事にミリアたちの手によってこれでもかというくらいにもふられていた。

「はぁん、もふもふー♪」
「やめるのみゃ!」
「……ふわふわ」
「あはは! 耳はくすぐったいよ!」

 ミリアとティナはもふもふを堪能している。翠も一緒になってもふもふしている様子を、スノゥは少しだけ困った顔で笑いながら見つめていた。

「じ、じゃあ俺は向こう側の路地を見てくるよ」

 そんな様子を見て、ほんの少しだけ怯えた様子を見せた腕の中の飼い猫のスミレをそっと抱えたまま、七尾は踵を返した。