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ヒルデガルト・フォンビンゲン(ひるでがるど・ふぉんびんげん) ミディア・ミル(みでぃあ・みる) カリギュラ・ネベンテス(かりぎゅら・ねぺんてす) 月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)



マジェステックに住む、旧知の老婆、ミスMことジェーンの家を訪ねたカリギュラ・ネベンテスは、変わり果てた家の惨状に、言葉もでなくなっていた。

ジェーンが誰かに襲われた? まさか、なんやこれは。

「ジェーンどこや。
カリギィやで。どないしたんや。
ジェーン。おらんのか」

以前、きた時にはこぎれいに片付いていた家の中が、いまは家具は倒され、カーテンも引き裂かれ、床には割れた花瓶が転がっている。

なにがあったんや。また危ない事件に1人で首つっ込んだんかな。

家の中をくまなくまわりながら、カリギュラはジェーンの姿を探した。
かすかな足音をきき、振り返る。

「誰や」

「誰やとは失礼だにゃ。おまえこそ誰かと思えば、大阪弁だにゃ。
ドアが開けっ放しだったので入ってきただにゃ。
ミディはみた、だにゃ。大阪弁は石庭で空き巣狙いをするほどの悪党だっただにゃ。
これはあゆみに嫌われても、当然だにゃ。
ミディはすぐに戻って、あゆみにたちにこの事実を知らせるだにゃ」

そのまままわれ右して帰ろうとしたネコ獣人のミディア・ミルの首ねっこをつかんで、カリギュラはミディアを強引に持ち上げた。身長40センチほど小さなネコの姿をしているミディアは、手足をばたばたさせて抵抗するが、カリギュラはかまわず、自分の顔の前にミディアの顔を持ってきた。

「放すにゃ。大阪弁は、大阪弁もいい人のフリもどっちもニセモノだにゃ」

「あんなぁ。誤解の嵐やで。かんべんしてくれ。
ボクはな、ジェーンのところへ事件についての参考意見をききにきたんや。
したら、これや。
強盗だなんて濡れ衣やで」

「悪人はすぐにそういうウソをつくにゃ。そうだにゃ。首を持ったりしないで、ミディを肩にのせてくれたら、ちょっとだけ信じてやってもいいにゃ」

「しょんないのう」

カリギュラは、ミディアを肩にのせてやる。
2人は百合園女学院推理研究会を通じての知り合い同士だ。

「あけみやヒルデは今日は、おらんのかいな」

「2人はキューレットのところでまだお話してるにゃ。
ミディだけが先に1人でここにきたにゃ。
機械わんこでもいるのかと思ったら、大阪弁がいて、ジェーンはいなかったにゃ。
ミディはついてないにゃ」

「ついてない、言うなや。ヒルダから伝言でもないんかいな。
あの人、未来がわかるんやろ」

「ヒルデかにゃ。

行く手からとりのぞくわけにいかぬものの声
それは不埒無惨の有様でそこにあり
悪意の稲妻が走り雷鳴が轟く国
真実に眼は盗み見し
耳は欲望にのみ形をなし
鼻は貘のように嗅ぐ
口は人を殺し
手はその4倍殺す
足は場所を変える
根をはり災いは四散する

光は明滅します

どちらを選ぶかレンズに訪ねるより前に
己の生のレンズで見る癖を

根の先は心臓へ続くもの
細くとも真実へ続く確かな熱をもつ血管


とか言ってた気がするにゃ。
大阪弁、ミディの記憶力にまいったかにゃ。
これをどう考えるかは大阪弁次第だにゃ」

「これ、キミ、意味がわかって言っとるんかいな。
ヒルデは美人さんやけど、意味は自分で考えてください、では、占いと一緒であたるも八卦、あたらぬも八卦やで」

難しすぎてボクの頭ではようわからんが、ほんとのとこやろうけど、しかしな、もっとわかりやすいアドバイスはないんかい、

大きくため息をついたカリギュラの頭をミディアは、ぽんぽんと片手で叩いた。

「ヒルデの言葉がわからなくても、ジェーンは探せるにゃ。大阪弁、休んでないで早く探すにゃ」

「そやな。悩んどってもはじまらん。行動あるのみや。まずは近所に聞き込みにいこか」

これだけ家が荒らされていれば、隣近所の人も物音をきいたりしているはずや。

「近所ならキューレットの仕事場もここから近いにゃ。あそこにいけば、あゆみもヒルデもいるにゃ」

そうやな。
人数がいたほうが聞き込みが、ん。

行く手からとりのぞくわけにいかぬものの声
それは不埒無惨の有様でそこにあり

さっき聞いた言葉がカリギュラの心によみがえった。

「どうしたにゃ。大阪弁。いつもヘンな顔がもっとヘンだにゃ。
まずいものでも食べたかにゃ」

「えか。ミディ。そこの床をみてみ。濡れてるやろ」

カリギュラは、床の、割れた花瓶の周囲に水を指さす。ミディアは、カリギュラの肩から降り、手の平で水をさわり、においを嗅いだ。それから、手招きをして、カリギュラに肩の上に戻させた。

「水だにゃ。花を入れてあった花瓶が割れたんだから、水と花が床にあっても普通だにゃ」

「そやな。水はいつかは乾くもんやけど、まだ乾いてないちゅうことは」

「ジェーンがいないから、床を拭く人がいないにゃ」

「ちゃうやろ。

行く手からとりのぞくわけにいかぬものの声
それは不埒無惨の有様でそこにあり

やで。
水はここにあって正解なんや。小さな花瓶の破片と一緒にある、ほんの少しのこの水が、まだ乾いてないちゅうことは、花瓶が割れてからいままでそんなに時間が経ってない証拠。
なのに、この家と目と鼻の先におるご近所のキューレットはんは、ここの騒ぎを知らない。
キューレットはん以外でも、ここは密集地や。
怪しいやつがきて暴れて、ジェーンをさらったちゅううんなら、誰かが気づくはずや」

「ジェーンがさらわれたあとで地震があって割れたのかもしれないにゃ。
もともともっと広く濡れていたのが、いまは乾いてそれだけになったんじゃないのかにゃ」

「さしてあったガーベラも、まだ瑞々しいし、切り口も乾いてへんで」

「ミディに反抗するとは、大阪弁のクセに偉そうにゃ。
説明がヘタクソにゃ。
早く先を話すにゃ」

「見えたで。ありがとさん。ヒルデの言うとおりや」

「笑ってないで、早くにゃ」

やや得意げに笑うカリギュラの頬をミディがかるく叩く。

悪意の稲妻が走り雷鳴が轟く国

マジェのことやな。

真実に眼は盗み見し
耳は欲望にのみ形をなし
鼻は貘のように嗅ぐ
口は人を殺し
手はその4倍殺す
足は場所を変える
根をはり災いは四散する


これはな、犯人やのうて、ジェーンのことなんや。

つまり、結論は」

「大阪弁。そこから人のにおいがするにゃ」

再び、カリギュラから飛び降りると、ミディアは床のうえを歩き、ある一カ所で足をとめた。

「ここにゃ。この下にゃ」

「最後まで言わせてくれんのかな。はい。はい。いま、開けるから待っとけ」

カリギュラは床に膝をついて、手探りで折りたたみ式のとってを探すと、引きおこし、隠し戸のようになっている床の一部を持ち上げる。

光は明滅します

ジェーンはでたりはいったりすよ、っちゅう意味やねん」

「死んでるにゃ」

「ほんなことあるか」

意外に広い床下の空間には、シンプルなニットワンピースの女性が、あおむけで目を閉じ、横たわっていた。

「そうかしら。カリギィ、私ももういついなくなっても、おかしくないトシなんですよ」

女性はまぶたを開けると、カリギュラがのばした手をつかんで体を起こし、床下からでてきた。

「下できいていたんですけどねぇ、愉快な推理だったわ。
私もまさか第一発見者がカリギィだとは思ってなくて、ほんとうにびっくりしたのよ。
自分でこれだけ用意して、そこに隠れたのに、でていってしまおうと考えたくらい」

ほがらかで上品な感じの老婆、ジェーンは、ミディに、はじめまして猫ちゃん、と会釈をする。

「こんにちは。にゃ」

「2人とも、私になにか御用かしら。カリギィがまたきてくれてうれしいわ。
猫ちゃんもミステリはお好きなの。
話はあとにして、簡単にお掃除してお茶でもおだしするわね。
びっくりさせてごめんなさい」

マイペースで話しながら、ジェーンはてきぱきと部屋を片付けだす。

「あんなジェーン、お茶もええけど、なんで床下におったんや。部屋を荒らしていたのはなんでや」

「あら。カリギィ。私の居場所をあてられたのに、理由はわからないの。まだまだ修行がたりないわねぇ」

「そうだにゃ。未熟者にゃ」

ミディがジェーンの言葉尻にのっかる。

「わかるわけないやろ。身の危険でも感じて隠れとったんか。1人で探偵しとんのやろ。なんぼ名探偵ちゅうても、淑女の細腕でがんばりすぎるのは、よくないと思うで」

「淑女だなんて、こんなおばぁさんに、いまでもそう言ってくれるのは、あなただけですよ。
でも、それは正解よ。
メロンブラックの沈没騒ぎの時にマジェにはたくさん廃墟ができたでしょ。
そのうちの1つに幽霊がでるって話があってね。昨夜、そこをのぞきに行ったんですよ。
そうしたら、誰もいないはずの半分以上焼けたアパートメントの部屋がね、薬屋さんになっていたの。
薬屋さんというか、製薬所かしらね。
外からみてその部屋だけあかりがついていたから、すこし離れたところから、オペラグラスで窓から中をのぞいたのよ。
人は誰もいないようでしたけれど、試験管やビーカー、薬のはいっている小瓶のようなものがたくさんあって、実験室みたいにもみえましたね。
私ったら、きになってしまってしばらく見ていたの。そうしたら、周囲に人の気配をかんじて、あわてて逃げだしたのですけどね、ずっと誰かにつけられている気がして、家に帰っても不安でしょうがなかったんでー石庭の警備員のケビンさんに怪しい人が家のまわりにいるわって言って、昨日は1晩、みまわりを強化してもらっていたのだけどーしまいには家の中を自分で荒らして、床下で寝ようとしたの。でも、どきどきして寝られなかったわ」

「そないな大冒険せんでもええやんか」

カリギュラがつい大声をだすと、ジェーンはちょこっと舌をだした。

「私の予想ではね。カリギィや猫ちゃんが私のところへきたのも、薬屋さんの件と関係があると思うのよ。
薬屋さんはね、何回もマジェにきて悪い人たちを集めて、すごく悪いことばかりをしている、あの人と関係があるんじゃないかしらね。
マジェの人も石庭の人も大声では言わないけれど、最近、みんな、そんな噂をしてますよ」

「悪い人たちを集めて、すごく悪いことばかりをしているやつがいるのかにゃ」

「ああ。おるで。
そんな噂があるんやったら、放っとけんな。ジェーン。薬屋さんの場所を教えてくれへんか」

カリギュラが頼むと、ジェーンは掃除をしていた手をとめて、にっこりとほほ笑んだ。

「あらあら。やっぱりカリギィも興味があるのね。猫ちゃんもご一緒にどう?
私ももう1度行きたかったのだけど、さっきカリギィに怒られたし、どうしようかと思ったの。
カリギィがついてきてくれるなら安心だわ」

壁にかけてあった帽子をかぶり、上着をはおったジェーンは、

「お茶もおだしできなくてもうしわけないわね。
でも、善は急げと言うでしょ。あれは、ウソではないのよ。
チャンスの神様には前髪しかないの。
さ、急ぎましょう」

ドアを開け、自分が先頭に外にでた。