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【闇】

「な、何!? 今の音!?」
 エントランス、爆発音を聞いた佳奈子が言う。
「凄い音……どうやら近くみたいよ!?」
 エレノアがそう言った直後だった。
「!? 停電!?」
 頼りないが確かにあった電灯の明かりが、消えたのであった。直後、ガラスが割れる音がする。
「佳奈子!?」
「ご、ごめんさっきの音に驚いて手離しちゃったみたい。でも玄関は壊れ――」
 佳奈子の言葉が詰まる。気配を感じたのである。
 ここに、エレノアと自分以外の誰かが居る。
「佳奈子! 【光術】!」
「う、うん!」
 エレノアと佳奈子が慌てて【光術】を使う。だが出た光は普段とは違う弱々しく小さな光。しかもすぐに消えてしまう。そうなると支配するのは闇である。
「駄目よ止めたら! 続け――」
 そこでエレノアの言葉が詰まった。
「エレノ――」
 佳奈子がエレノアの名を呼ぼうとしたが、叶わない。
 それは自分が何かで頭を覆われたからだということに気付くのは、もう少し後である。

「……どうしたんでしょうか」
「さあ……音がしなくなったけど」
 エントランスから少し離れた場所、牡丹とレナリィは様子を伺う様にエントランスを見る。
 突如起きた爆発音に停電、そんな中起こった佳奈子達が争うような物音はいきなり消えてしまった。
「うーん……あんまりよく見えませんね……」
 目を凝らす様にしてエントランスを牡丹は見てみる。【ダークビジョン】を使用しているのだが、効果が薄い為か闇の中もうっすらとしか見えない。
「……ね、ねぇ、アレなんだろう?」
 レナリィが牡丹の裾を引いてから指さす。
 指さす方向に目を凝らしてみると、何やら黒い影が見えた。
 影は三つ。二つは地面に伏せてもがいているようであった。
 そしてその二つをまるで物を引き摺る様に、一つの巨大な影が運んでいた。四角い長方体の頭は、人間の頭部とは違う。
「まさか、アレが?」
 牡丹がそう言った時だった。
「く、来るよ!」
 レナリィが叫ぶ。直後、エントランスにいたはずの影が、手を伸ばせば牡丹とレナリィに届こうかという位置にいたのである。
「レナ! 【光術】絶やさないで!」
 そう言いつつ牡丹が【光術】を放つ。弱々しい光がその場を照らすと、影――怪人が動きを止めた。
「レナ走って!」
 二人がエントランスに向かって走り出す。その間交互に【光術】を絶え間なく放ち、光を絶やさないようにしていた。
 それが功を為したのか、入り口まで辿りついた二人は佳奈子が壊した扉から外へと飛び出し、そのまま中庭へと向かう。
 中庭にある外灯はまだ点いていた。
「ど、どうするのこの後?」
「ひとまずあのシンボルツリーまで行きましょう! そこで息を整え…‥て……」
 牡丹が見えてきたシンボルツリーを指さして、足を止める。
「え? どうした……」
 少し遅れて、レナリィも気づいた。

 シンボルツリーには、何人もの人間が吊るされていたのである。
 頭をずた袋で覆われた人間が手足を縛られ、縄で首を吊るされている。
 しかも皆首に食い込む縄の苦しさから逃れようと、縛られながらも全身でもがいている。誰もまだ死んでいない。生きているのである。
 苦痛の呻き声を上げ、逃れようともがき、更に食い込む縄が苦痛を生む。まるで地獄である。

 その光景に、牡丹とレナリィは気を取られてしまった。
 地獄のような光景は二人から思考能力を奪うには十分すぎた。
 そして、それが命取りになった。
 
――外灯が消えた。二人がこの地獄の仲間入りを果たすまで、そう時間はかからないであろう。