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学生たちの休日11

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学生たちの休日11

リアクション

 

    ★    ★    ★

「さて、諸君、ついにカイザー・ガン・ブツが完成したのだ!」
 組み立てがほぼ終わり、マネキ・ングが高らかに宣言した。
「おー」
 パチパチパチと、願仏路三六九が歓声と共に拍手する。
「しかし、こんな観光名物を作ってどうすることやら」
 せいぜい、遊園地のランドマークだなとセリス・ファーランドが言った。
「むしろ、象徴となるのであれば、本望と言えるではありませんか。世は、混沌に満ち、グランツ教やらなんやら訳の分からないものが世にのさばっているではありませんか! これは許せません。民は、救済者たるワタシの到来を望んでいます。ワタシは、その想いに応え、このカイザー・ガン・ブツの力で立ちふさがる障害を排除しなくてならないのですよ!」
 願仏路三六九が言い切る。
「いずれにしろ、このカイザー・ガン・ブツは、このテーマパークのシンボルとして、がっぽがっぽお布施を……」
「レーダーに反応、これは……、スーパーオリュンポスキャノンです!」
 悦に入っているマネキ・ングにむかって、メビウス・クグサクスクルスが叫んだ。
 直後に、カイザー・ガン・ブツにスーパー・オリュンポスキャノンが命中する。
「せっかく完成した、カイザー・ガン・ブツがああ!!」
 マネキ・ングの叫びもむなしく、スーパー・オリュンポスキャノンの直撃を受け、カイザー・ガン・ブツの胴部中央が吹っ飛んだ。マネキ・ングたちの乗るコックピットがある上半身が、ビームアイを無差別に照射しつつ、斜めに崩れ落ちていく。むきだしになった下半身部分からは、荷電粒子砲と堕天がむきだしになっていた。そこを、崩れる上半身から放たれたビームが横切り、荷電粒子砲が爆発した。それによって、堕天が誘爆し、無数の多弾頭ミサイルが無差別に天にむかって発射されていった。

    ★    ★    ★

「未来、よくやったわ。これで、オリュンポス・パレスは無力よ!」
 最後のコマンドを、キーボードを叩きつけるようにして入力した高天原鈿女が叫んだ。
 それによって、発射カタパルトにまさに装填されようとしていた、ビッグバンブラストが中途半端な形で停止する。
「あなたたち、いったい何をしたの!?」
 今さらに、高天原鈿女が何かをしたことに気づいた紫月結花が叫んだ。
「よそ見をする余裕はないですよ!」
 その一瞬の隙を突いて、夢宮未来の放った錬気が、紫月結花を壁際まで弾き飛ばした。

    ★    ★    ★

「どうした、なぜ発射しない!?」
 何度発射スイッチを押しても反応しないビッグバンブラストに、ドクター・ハデスがいらだちを顕わにした。
「システムがハングしています。マニュアルに切り替えます」
 素早く状況を確認して、天樹十六凪が答えた。
「発射装置を手動に切り替えた。戦闘員は、訓練通りの持ち場につけ!」
 すぐに、指示が変更される。
 戦闘員たちが、大きな歯車を人力で回し始め、止まっていたビッグバンブラストの装填装置を動かしていった。弾頭が、発射装置に装填される。
 ゼイゼイ言いながら戦闘員たちが別の歯車を回すと、ゆっくりと発射口が開き始めた。
「まずい!」
 それを見たベアド・ハーティオンがあわてるが、イコン戦は敵味方入り乱れる混戦となっており、それぞれが他の機体を牽制し合っていて、発射口を狙って攻撃することができなかった。
「よし、今度こそ発射だ! 邪魔する物は全て吹き飛ばしてくれる!」
 ドクター・ハデスが発射ボタンを押したまさにそのときであった。どこからか飛んできたウィッチクラフトライフルの弾体が、吸い込まれるようにしてビッグバンブラストの発射口に吸い込まれていった。川村詩亜たちが最初に乱射した物の一発だ。
 発射管の中を弾かれながら奧へ達した弾体が、ビッグバンブラストに命中する。当然、オリュンポス・パレス内で大爆発が起こった。
「何が起こった!?」
 突然の爆発と共に、全体が斜めにかしいだオリュンポス・パレスにドクター・ハデスが唖然とする。
「ビッグバンブラストが自爆を起こしたようです。もう一発に誘爆が起きないように、非常隔壁を閉鎖します」
 ブラックアウトしたいくつかの館内モニターを見て、天樹十六凪が答えた。
「各ブロック、防護隔壁全閉鎖! 内圧排出口全開! 自動消火装置、自動コーキング装置作動!」
 さすが場爆発慣れしていると言おうか、オリュンポス・パレスのダメージコントロール機能が次々と作動していく。
「ええっと、これはまずいわね。唯斗兄さんに会うためにも、ここは脱出よ」
 また落ちるのだろうと察した紫月結花が、夢宮未来との戦いを放棄して単身小型飛空艇乗り場へと逃げた。
「あっ、待て!」
 追いかけようとする夢宮未来の前に、戦闘員たちが立ちはだかる。
「未来、もういいわ、私たちも脱出よ」
 それを見て、高天原鈿女が夢宮未来をうながした。
 一方、外では、黒煙を上げて傾くオリュンポス・パレスを見て、ベアド・ハーティオンや、魔王ベリアルや、柊恭也たちが唖然としていた。
「おのれ、僕のプリン貯蔵庫まで破壊するとは……」
 中破したオリュンポス・パレスを見て、魔王ベリアルが唸った。
「あのー、それですが、プリンを食べたのは、デメテール様ですわ」
「なんだってえー!!」
 衝撃の事実を中願寺綾瀬から知らされて、魔王ベリアルが叫んだ。
「なら、長居は無用だ。ドクター・ハデスには、後で防衛協力費とプリン代とプリンを食べられたことによる精神的苦痛を受けた慰謝料の請求書を送っておけ」
「承知しました。――それでは皆様、今日はとてもよい退屈しのぎになりましたわ、またお目にかかりましょう。ごきげんよう」
 そう他のイコンに伝えると、サタナエルがその場から忽然と姿を消して離脱していった。
 直後である。
 戦場全体の上空に、多数の飛来物が現れた。
「高熱源体接近!」
 魂剛のレーダーを埋め尽くす輝点に、エクス・シュペルティアが叫んだ。
「この状況、この数は無理だ!」
 ダスティシンデレラの攻撃の回避に手一杯だった紫月唯斗が答えた。
「やってやる、迦具土の全砲門開け、迎撃だ!」
「ちょっと、この馬鹿者、本気で言ってるの、ちょっと待て……」
 柊唯依が止める間もなく、柊恭也が迦具土の全武装を飛来してくるカイザー・ガン・ブツの堕天のミサイル群めがけて発射した……はずだった。だが、バランスを崩して半漂流状態であったオリュンポス・パレスが、迦具土と堕天のミサイル群の間に流れてきた。
「ぐわあ!」
 誰の悲鳴とも分からぬ悲鳴が辺りに響き、上下から思いっきり被弾したオリュンポス・パレスがいつものように地上に墜落した。その周囲でも、さすがに堕天の面攻撃は回避できず、全てのイコンが被弾していったん動きを止めて地上に落ちる。
「よく生きてたよね」
 ぼろぼろになったダスティシンデレラの中で、マイ・ディ・コスプレが驚いたように言った。各イコンの防御力のおかげだが、よくも助かったものだ。堕天の攻撃にしては、密度にムラがあったのが助かった要因のようだ。死角のない飽和攻撃だったら、ひとたまりもなかっただろう。
「BMI、BMIユニットだけは外して脱出よ。あれは、そうそう落ちてないんだから」
 コンソールのハッチを開けて、メイ・ディ・コスプレが叫んでいる。
「あーあ、みんなスクラップですぅ。はっ、これは、もしかして拾い放題の大放出タイムサービスでしょうか。そうと決まれば、拾いに行くですぅ」
 ずっと観戦していたアン・ディ・ナッツが、今こそ自分の出番だと、光学迷彩で姿を隠しながら、擱坐しているイコンや機動要塞の元へと急いだ。
 だが、そんなアン・ディ・ナッツの上に巨大な影が落ちた。見あげると、上空を伊勢が現場へむかって飛んでいく。
「ふはははは、ラッキー♪ 大荒野で模擬戦が行われると小耳にはさんでやってきたでありますが、これほど大規模なものだとは思ってもいなかったであります。しかも、全機中破していて、周囲にはパーツが落ち放題であります。これは、自分たちに拾ってもよいという、国家神の思し召しなのでありますよ、きっと」
 伊勢のブリッジで、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が顔をニマニマさせて言った。
 目的は、アン・ディ・ナッツとまったく一緒である。
 伊勢の第三期改装計画を打ち出したまではよかったのだが、圧倒的資金不足からコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)らに大幅な計画の見直しを迫られていたのだ。だが、拾い物の武装を取りつけるだけであれば、原価はほぼ0ゴルダである。
「おお、あそこに落ちているのは、ビッグバンブラストの弾頭であります。ラッキー、これで、伊勢は後十年は戦えるであります」
「何を言ってるのよ、まずは居住性の向上の方が優先事項でしょうが。そばに、ユニットバスとかシステムキッチンとかは落ちていないの?」
 まるきり改装のビジョンもコンセプトも違うコルセア・レキシントンが、葛城吹雪に突っ込んだ。
 なにしろ、現在の伊勢は過剰兵装のおかげで、通路を歩くのも一苦労という有様だ。
ジェファルコン特務仕様、出る」
 落ちているパーツを拾いに、笠置 生駒(かさぎ・いこま)シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)がイコンで伊勢を発進した。
 新規のオリジナルイコンを作るために、今回、葛城吹雪と手を組んだのである。うまくすれば、新規にイコン一機組み立てられるほどのパーツが手に入るかもしれない。
「ほら、あそこ、アンチビームソードが落ちとるやん。あっちには、レーザービットのユニットとか、はは、拾い放題や」
 モニターで周囲を捜索していたシーニー・ポータートルが嬉しそうに言った。
「ようし、拾いまくるよ」
 笠置生駒が、喜んで拾ったパーツを順次伊勢へと運んでいく。
「ちょっと、それ、私が後で拾おうと思っていたのよ!」
 これだけは渡してなるものかとBMIユニットのコア部品をかかえたメイ・ディ・コスプレが地上で叫んだ。
「先を越されないうちに、早くこっちも拾おうよ」
 いつの間にか到着していたマイ・ディ・コスプレが、メイ・ディ・コスプレたちを急かした。
「おっ、これは、ビッグバンブラストじゃない。大物ゲット♪」
 笠置生駒が、墜落したオリュンポス・パレスの装甲の裂け目にビッグバンブラストの弾体を見つけて小躍りした。当然、さっそく失敬して持ち去る。
「なんだか少し焦げてるみたいやけど、大丈夫なんか?」
 ちょっと心配そうに、シーニー・ポータートルが言った。
「大丈夫、中古だし、こんなものだよ。取り扱いさえちゃんとすれば……あっ」
 言っているそばから、笠置生駒がジェファルコン特務仕様の手からぽろりとビッグバンブラストを取り落とした。落ちた弾体が伊勢の飛行甲板を突き破って中に落ち、そのまま起爆する。
「うわあああ」
「だから言ったやろがー」
 爆風でジェファルコン特務仕様が吹き飛ばされ、伊勢も左側のイコンデッキが跡形もなく吹き飛んだ。そのまま横転して墜落していく。
「何が起きたでありますか!」
 手近なものにつかまりながら葛城吹雪が叫んだ。
「わーい、パーツ取り放題だ。いこー、みんな」
 それを地上で見たメイ・ディ・コスプレたちが、わらわらと墜落した伊勢に群がっていった。