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第二章:夏の青春18禁きっぷ

 さて。
 皆さま、これよりしばし賢者のお時間です。
 心の準備はよろしいでしょうか。苦手な方はおられませんね?
 
 では、続けましょう。


 不穏な影が水中から様子を見つめていた。
「……くくく。少し遅れたが、ようやく辿り着いた」
 クラゲたちの群れに混じって島に接近していたのは、触手を持った蛸型ポータラカ人のイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)だ。
 皆と同じように事故に巻き込まれこの島までやってきていたのだが、彼は目前の浜辺に上陸しようとはしなかった。馴れ合いは嫌いだ。ああいった連中は海の底で静かに眠るのがふさわしい。来るべき襲撃に向けて、偵察にやってきていたのだ。
 イングラハムのマスターや、頼りになる心強い味方たちは、今だ海の上で悪戦苦闘している。今頃、彼からの情報を待っていることだろう。
「ちょっと、仕掛けてみるかな……」
 本番前に、島の戦力を知っておきたい。イングラハムは引き連れていた海モンスターのパーティーをけしかけることにした。
「さあ、ここからが天国だ……!」
 ニヤリと笑うと、イングラハムは海底へと消えていく……。

 悪が、蠢き始めたようだった。



 さて……。
 反対側の岸には、多くの椰子の実が流れ着いていた。
 たわわに実った肉弾フルーツは、長い間海を漂っていただろうに全く色艶が衰えていない。新鮮取れたての天然物は、今が食べごろなのかもしれなかった。
「あら、思っていたより良さそうなところじゃない。これは、楽しませてくれるのかしらね?」
 ぷりっぷりに弾けんばかりの椰子の実を胸で弾ませながらこの無人島へ流されてきたのは、百合園学園生のクリームヒルト・オッフェンバッハ(くりーむひると・おっふぇんばっは)だ。
 金髪ツインテイルの聖騎士である。存在感抜群の胸だ。見る者を圧倒するほどの抜群のプロポーション。ほっと一息つきながらも、しっとりとしめった髪をかき上げる仕草は色っぽい。
 見ていてよだれが出てきそうな美少女だ。
「一休みしたら、食べ物を取りに参りましょう。……少しお腹がすきましたわ」
 はにかむような表情で答えたのは、クリームヒルトのパートナーのアンネリース・オッフェンバッハ(あんねりーす・おっふぇんばっは)だ。
 これまたマスターに負けず劣らずの見事な胸の持ち主で、背は低いがバランスの取れたシルエットを誇っている。几帳面な性格らしくメイド姿をきちんと保っており、いい仕事をしてくれそうな美少女だった。
「あ〜あ。おかげで全身ぐちょぐちょに濡れちゃってるよ。気持ち悪いから、この場で女子力開放しちゃっていいよね?」
 さっそく脱ぎ始めたツワモノは、同じくクリームヒルトのパートナーの翔月・オッフェンバッハ(かづき・おっふぇんばっは)だ。
 真っ赤なポニテより映えるのは、やはり肉感あふれる胸。脱ぎ捨てた衣装の下から現れたのは、隠すことを放棄したとしか思えない紐下着。細っそい紐の下で、磨き上げられた肉体が輝きを放っていた。
「まあ、遭難しちゃったけど、何とかなるでしょ。他にも人いるみたいだけど、あたしたちだけで始めちゃいましょ」
 クリームヒルトは楽観的な口調で言って辺りを見回した。どこでも魚は取れそうだ。
「ねえねえ、向こうの深いところにしようよっ。色々いそうだよ」
 様子を見に行っていた神月 摩耶(こうづき・まや)が戻ってきた。
 彼女も、クリームヒルトと共にこの島にやってきたのだ。さすがに仲間だけあって、胸の大きさも負けていない。しかも、泳ぐときに邪魔だったらしく衣装はすでに捨てており下着姿だ。この島は温かいからこの格好で大丈夫らしい。力強い発言だ。
 髪はピンク。ここだけの話(?)、ピンク髪は萌えヒロインの証である。思い出してみるといい。あの子もこの子も、ピンク髪美少女はヒロインだった。そして摩耶も例外ではないはずだ。
 そんな摩耶の背後からおずおずとついてきていたのは、パートナーのリリンキッシュ・ヴィルチュア(りりんきっしゅ・びるちゅあ)だった。
 彼女も、摩耶に倣って下着姿で、大きな胸を恥ずかしそうに腕で隠している。
「大変な目に遭いました……。摩耶様もクリム様もアンネ様も翔月様も、皆はぐれることなく無事で何よりでしたが……」
「そうね。みんなで力をあわせれば、怖いものなしだよっ。救援がくるまで、ゆっくり待とう」
 摩耶はそんな風に締めた。
 胸の大きな美少女たちが一同に会し、ドキドキワクワクの大冒険が始まるのだった。
「にしても、この島って変わった所が多いよね。もしかしたら、なんていうかこう……」
 無人島の雰囲気を伺いながら、摩耶はちょっと言葉をとめる。何か思いついたように可愛く微笑んだ。
「どうしたの?」
 クリームヒルトが装着品を外しながら尋ねた。濡れてもいいように、スケスケの赤レース下着のみの姿になる。二段構えのお色気演出だ。
「いや……、なんでもないよ。早速海底探検に出発〜!」
 もしかしたら、ちょっとえっちい生き物などがいたりして……、期待に胸を膨らませる摩耶だが、口には出さない。ヒロインは恥じらいが大切だ。
「助けがくるまで生き延びるためには、食料を確保しなきゃね」
 クリームヒルトは、海産物を取るために海の深いところに入っていった。
「ボクたちも行くよ!」
 摩耶が、もう一度海水に飛び込んだ。何かいそうな気配……。本能の赴くままに沖へと泳ぎを進めていく。
「ま、摩耶さま……!? 慎重に行動しないと危険なのでは……?」
 リリンキッシュは躊躇っていた。引っ込み思案で運動が苦手な彼女が、海中で積極的に活動できるとは思わなかった。
「あ、あっぷ……。あう……」
 ばしゃばしゃ……。危うくおぼれそうになりながらも、仕方なくついていくのだが。
「すごく深くなってるところがあるわね。あの辺りなら獲物も多そうよ」
 色とりどりの魚の群れと泳ぐクリームヒルトは、否応にも目立った。芳醇な果実に吸い寄せられるように、深海の奥から怪しい影が迫ってくる。
「?」
 一緒に泳いでいた魚たちがいっせいに逃げ出したのを見て、クリームヒルトは水中で泳ぎを止めた。辺りを見回すも、おかしなことはなさそうだった。どうしたのだろう……? 考えるより先に……。
「!?」
 不意に、クリームヒルトの足首に何かが絡みついた。太くてぬめった長い触手だ。海底に目をやって、彼女はごくりと唾を飲み込んだ。
 ギラギラと欲望に光る目を輝かせた巨大なイカが、深い海の底から彼女らを狙っていたのだ。いや……、これをイカと呼んでいいのだろうか。海の色に絶妙に溶け込んだ迷彩と、二十本はありそうな足の数、奥へと引きずり込む力の強さはかなりのものだ。間違いない、海モンスターだ。
「……!」
 とっさのことに、クリームヒルトはガボリと水を飲み込んでしまった。咳き込んで力が抜けている間に、触手は彼女の腿辺りまで伸びてきた。
 必死で水面から顔を出して呼吸をする。
「きゃあああああっっ!」
 向こうでも悲鳴がした。
 こまめに呼吸をしながら離れたところを泳いでいた摩耶も、同様の海モンスターに絡めとられている。
「いやぁぁぁ、早速なんか変なのきたー!」
 ばしゃばしゃと抵抗するも、イカ型モンスターがありったけの触手を摩耶に向けて伸ばしてきた。
「あ、危ないんだよ! 主殿、摩耶殿!!」 翔月が割って入ろうと海モンスターに急接近する。身を挺してクリムや摩耶を庇うつもりだった。
「主殿から、その汚い触手を放せ!」
 翔月は、クリームヒルトの脚に巻きついている触手を剥ぎ取ろうとする。そんな翔月に、イカモンスターが触手を伸ばしてきていた。柔らかい玉の肌に気持ちの悪い感触が這いよってきて、彼女はビクリと身を震わせる。
「な、何をする、放せ……!」
 色っぽく腰をくねらせながら、翔月は抵抗しようとする。腕も足もあっという間に触手に絡みとられており、身もだえするたびに拘束はきつく彼女を戒めた。
「や、やめっ……! ああんんっっ!?」
 翔月は悲鳴を漏らしながら海中へと引きずり込まれていった。イカの触手が全身をまさぐり始める。
「くっ……、拙者がこのような攻撃に動じるとでも……、ひいいいいっっ!」
 触手が、翔月の股の内側から下着をこじ開けて伸びてきた。長い触手だが、先のほうだけ硬く太くなっていてごつごつの瘤が無数に盛り上がっている。それだけで単体の生き物のようにドクンと脈打ちながら、前ぶりもなく撫で回した。
「あふっ、……だめぇ、いきなりそんなところ……っ! 優しくしてよぉ……」
 翔月は、先ほどまでの勢いも主を守る使命も忘れて歓喜に打ち震えた。紐の水着はすでに剥ぎ取られ、胸や腰周りにまで触手が這いずり回っていた。彼女の性癖を知っているかのごとく、モンスターの触手は、乱暴に弄び始める。
「んああ……、あああっっ!」
 激しく責め立てられて、嬉し涙を浮かべながら恍惚とする翔月。
「あら? こ、これは……摩耶、チャンス到来かしら!?」
 そんな様子を、クリームヒルトは期待に満ち溢れた笑顔で見つめていた。船に乗る前からおあずけで身体が疼いていたのだ。内心こんな出来事を待っていたのだった。
「クリムちゃぁぁぁんっ、どうしよう……触手が外れないよぅ……」
 どうしよう、などと言いながら摩耶は明らかにそのぬめった感触を楽しんでいた。海モンスターと格闘しながらも、確実に水中へと引きずり込まれていく。
「らめぇぇぇ、そんな所触らないでよぉ……。……ひうっ、あんっっ……!」
「摩耶!?」
 そう叫ぶクリームヒルトにも、別のイカモンスターが触手を伸ばしてきていた。
「だめぇ! 放してぇ……っ!」
 クリームヒルトの悲鳴はには甘いものが含まれていた。下からの攻撃を警戒している隙に後ろから伸びてきた触手に胸の水着が剥ぎ取られていたのだ。見事に実った胸の果実を、触手が舐るように這いずり味見をしてきた。弾力を確認すると、一気に巻きついてきた。
「あはぁん♪ こ、こんなのぉっ♪ おっぱいが、あたしのおっぱいがぁぁっ♪」 クリームヒルトの火照った全身に、痺れるような快感が駆け抜けていた。海面から空気を貪りながら、歓喜の悲鳴を漏らし続ける。
 イカモンスターは、彼女の弱点を知っていたかのごとく、執拗なまでに胸を攻め立ててきた。官能が激しく刺激され喜びの声が漏れ出した。
「いいっ、いいよぉっ……、あ、あたしダメになっちゃうぅぅぅっっ」
「んはぅあああっっ、クリムちゃんが感じちゃってるぅ……っ、ボクもイッちゃいそうだよぅ……」
 摩耶は潤んだ瞳でクリームヒルトの艶姿を見つめながら、自身も全身を苛む快感を堪能していた。
「ああっっ……拙者が不甲斐ないばかりにぃっ♪ ふあぁぁ、それ駄目だよぉぉっ♪」 翔月も合わせて嬌声を上げている。
「あ、あぁ……、何と言うことでしょうか。摩耶様が触手に絡め取られあんなことやこんなことに……!」
 呆然と事態を見つめていたリリンキッシュは我に返った。
「い、一刻も早くお助けせねば……」
 飛び出そうとしたリリンキッシュを、アンネリースが押しとどめた。
「リリン様。わたくし達まで絡まれたら一大事ですわ。迂闊に近寄れば二の舞になることは目に見えております」
「ですが、アンネ様。このままでは摩耶様達が……!」
 リリンキッシュはそう言うものの、魅入られたようにイカモンスターのプレイを見つめていた。アンネリースと二人でガン見しているうちに、なんだか身体が熱くなってくるのがわかった。
「ひああああっっ、アンネ様何をするんですか?」
 リリンキッシュは悲鳴を上げた。三人を見つめているうちに興奮してきたアンネリースが、たまらずにリリンキッシュの身体をまさぐり始めたのだ。
「だめですぅ、やめてください……。ひっ……!?」
「ふふふ……、はぁ、はぁ……あぁ、リリン様ぁ♪」
 そんな二人にも、海は漏れなくプレゼントを用意していた。
 さらに大きなイカモンスターが、二人の背後から迫っていたのだ。油断していた二人を不意打ち気味にあっという間に触手に捕らえていた。
「って、こ、今度は私にまで……! あぁぁぁんっ、いや、そ、そこはお止め、んはぁぁぁぁぅ♪」 リリンキッシュは、抵抗する暇もなく官能の渦に巻き込まれていた。あっという間に昇天しそうなほどの手練た動きだ。触手にあらぬ処を刺激され敏感になってるリリンキッシュは快感にびくびくと肌をわななかせた。
「あひぃぃぃっ♪ そ、其処はぁぁっ♪」 アンネリースが弱点の尻をたっぷりといたぶられて嬉しそうに顔をゆがませていた。
 
 そんな彼女らの天国はしばし続いて……。
 ドォン!
 轟音とともに、クリームヒルトの『ライトニングランス』が、イカモンスターを切り裂いていた。
「はぁー、はぁー……。あぁ、こういう展開もたまには素敵よね〜♪」
 一通り思う存分弄ばれた彼女は、荒い息を吐きながらも、満足そうな表情を浮かべる。
 心なしか、肌の色艶もツヤツヤに輝きを増し張りを取り戻したようだった。
「ああ、ありがとう……、モンスターさんたち。ボクも生気が漲ってきたよ」
 摩耶も、十分楽しんで充実の時間を送ったようだった。
「……今まで見逃してた意味、教えてあげないとねぇ♪」
 彼女は、『適者生存』を発動させた。あれほど元気だった巨大イカが一瞬で萎縮した。『荒ぶる力』で攻撃力を上げ、素手でボコボコに殴りまくってやる。武器なしとはいえその威力は強力で、イカたちは黒い墨を吐き散らしながら単なる肉片に砕け散った。
「えへへへ……。お昼はイカ焼きだね」
 リリンキッシュを含めて他の三人も助け出した摩耶は、程よい大きさに切り裂かれたイカを回収する。貝なども拾えば、それなりの量になりそうだ。
 クリームヒルトも、精気を充満させて元気溌剌だ。近くにいる魚たちも一緒に取ってみんなで一緒に食べることにする。
「しばらくは、この島で楽しめそうね」
「うん、みんなでご飯にしよー」
 クリームヒルトと摩耶が顔を見合わせて笑ったときだった。
「……!!!!?」
 背後から強烈な闇の瘴気を感じて、全員が一斉に振り返る。
「 夏の海は楽しかったでありますか、リア充ども 」
「ひっ……!?」
 摩耶は思わず悲鳴を上げていた。先ほどのイカモンスターの時とは全く違う、背筋が凍りつくような恐怖の叫び声。
「 相手が誰であれ、仲間同士楽しく充実した時間を送れば、それ即ちリア充であります。恵まれない、ぼっちの自分に少し遊び時間を恵んでくださいよ? 」
 恐るべき、圧倒的な負のオーラを纏って、彼女は立っていた。
 海面に浮いたダンボール箱の上で。
 これまでのモンスターなど、モンスターのうちに入らない。
 最悪のフリーテロリスト、シャンバラ教導団の爆弾魔葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)。世の中を恨みつくした怨嗟に燃える瞳が爛々と輝いている。本物の怪物だ……。
 彼女のダンボール箱はアイテムに含まれない。『歴戦のダンボール』のスキルの一部なのだ。海の上に浮いていても、誰も気づいていなかった。そろそろふやけそうだが。
 黒い殺気に包まれながら、吹雪もまた衣装すら身に着けずパンツ一枚だった。
『裸拳』……、裸に近づけば近づくほど攻撃力が上がる格闘術。一切の容赦もせずに楽しく過ごす連中を叩き潰すための当然のスキルだ。
 そこに理屈も理由もなかった。ただ、島で楽しそうにしている連中を襲いに来ただけの狂人。まだ少し早いが、“本番”のための準備運動だ。
「……なによ、あなた? 遊んで欲しかったの? いいわよ、わたし男でも女でもイケるし」
 吹雪の姿を見て、クリームヒルトは嫣然と笑う。変な雰囲気だけど、よく見たら結構可愛い女の子だった。気合も乗ってきたし、みんなでおいしくいただいて……。
 ゴオオオオッッ!
「きゃああああああっっ!?」
『エンヴィファイア』も乗せた吹雪の嫉妬攻撃に、クリームヒルトたちは吹っ飛んでいた。
「な!?」
 吹雪の見てくれに騙されてはいけなかった。彼女はゆうに100レベルを超えている。クリームヒルトの倍以上は余裕であるのだ。経験値が全く違う。
「 勘違いしてるでありますか? 自分は、楽しそうな連中を一方的にツブしに来ただけでありますよ 」
「な、なにするのよ……!?」
 さすがに怒って飛び出そうとする摩耶は、海中から現れた触手に絡み取られた。これまた、あんなイカモンスターなどではない。吹雪のパートナーにして蛸型ポータラカ人のイングラハムだ。こいつもほぼLV80。まともに戦って勝てる相手ではなかった。
「逃げるのよ、みんな……。こいつは、ガチでやばい……!」
 クリームヒルトは、真っ青になって叫ぶ。狂気をはらんだ吹雪の目に見据えられ、膝が噛み合わずガタガタ震えていた。かろうじて立っているのは、聖騎士としてのプライドとこんな悪は見逃せないという正義感からだけだ。だが、それも直ぐに崩される。
「ひああああああっっ!?」
 吹雪に力任せに豊満な胸をつかみ上げられ、クリームヒルトは目に涙を浮かべ硬直していた。全身を貫く激痛、それと同時に脳天から抗いがたい快感が沸き起こってくる。
「 こういうのが、好きなのでありましょう? 自分の準備運動につきあうでありますよ……? 」
 吹雪は口の端を歪めて笑った。これは確かにやばい。かつてないほどの悪役ぶりだった。
「だ、誰があなたなんかの、思い通りに……! 勘違いしているのは、あなたのほうよ。調教して躾けるのはあたしなの!」
 クリームヒルトの気勢もそこまでだった。容赦なく責め立てられ、その場にぐったりと倒れこむ。
「ああああ……」
 叫び声を上げる、アンネリースたち。イングラハムとモンスターたちがパートナーたちを弄んでいる。優しさのかけらもない冷酷な攻めだ。
 吹雪は、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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「はぁ……はぁ……。お願い、もっと欲しいの……。もっとヒドいことしてぇ……」
 クリームヒルトは、聖騎士のプライドもぼろぼろにされて涙ながらに懇願していた。憎むべき敵に思うがままに蹂躙されて。心が拒絶しているのに身体が言うことを聞かない。こんな体験は初めてだった。
「 腕を奥まで突っ込むでありますよ。 」
「ひいいいいいっっ、らめぇぇぇぇぇぇ!」
とりあえず、俺の携帯ゲーム機返せや、ゴルァ!!
 なんということだろう!
 あろうことか、突如、この状況で空気を読まずによくわからない台詞を叫びながらシーンに乱入してきた男がいた。
「俺の、限定配信レアモンスターを返せぇぇぇぇぇぇ!」
 吹雪をも上回る怒気。大海原を漂流中に、テロリストに携帯ゲーム機を奪われた アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)の渾身の攻撃が、吹雪に炸裂していた。
「  おのれ、あの時のリア充でありますか…… 」
 吹雪はアキラに向き直った。容赦のない攻撃を繰り返しながら、アキラは言う。
「俺はリア充じゃねぇ! むしろ、ぼっちを楽しむソロ充だ!」
 アキラは、『ダイパニック号』のパーティーに携帯ゲーム機を持ち込んでいたのだ。他の荷物はいいとしてもこれだけは置いてくことができなくて、往生際悪く一緒に持って海に飛び込んだのであった。限定配信レアモンスターをゲットしており、ある意味宝物だった。
 一緒に波に投げ出されたパートナーのアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)がいなければ、アキラは今頃携帯ゲーム機を嵐から守り抜き、無人島で快適なぼっちライフを送ることができたろう。
 だが、そうはならなかった。アリスは身体がとても小さく、荒れ狂う波はとてつもない驚異で、波に攫われないよう必死でアキラにしがみつき、アキラもアリスだけは決して離すまいとお互いかばい合って嵐を乗り切りろうとしていたのだ。
 その時までは、まだ携帯ゲームは彼の手に中にあった。
 同じ方向に流された吹雪が、固く抱き合うアキラとアリスをリア充と誤認識して攻撃してくるまでは。
 アリスを庇いながら戦うのは不可能で、アキラは泣く泣くゲーム機を諦めたのだった。
「あのゲームに、俺は毎日コツコツ500時間かけたんだぞ!」
「 ……!
 吹雪は、チッと舌打ちした。
 携帯ゲームに500時間も費やした、ソロ充だと……? ダメだろ、それは明らかに……。面倒なのが出てきた。ぼっち特有の負のオーラを感じる。
 ここで粘るのは得策じゃないと吹雪は判断した。今回は顔見せ。自分にはもっとやるべきことがあるのだ。
「……」
 仕切り直しだとばかりに、吹雪は海に潜っていった。ダンボールごと姿を消す。パートナーのイングラハムも一緒だ。
「あっ、待てオイ! この俺に、リアル・モンスターハントをやらせろ! もちろん、相手はテメエだこのヤロウ!」
 怒りの収まらないアキラは、吹雪の去っていった海に向かって叫び続ける。
「……アキラ、お姉ちゃんたちが……」
 ついてきていたアリスが、吹雪たちに弄ばれていた摩耶たちを心配そうに伺う。彼女らは、精魂絞りつくされてぐったりとしているようだった。
「ああ、俺のレアモンスター……」
 アキラは、まだ落ち込んでいた。失った物の大きさに比べれば、裸のねーちゃんくらい何ぼのもんじゃ。
「はいはい……、こんなところで寝ていたら、沈んじゃうぞ。いい子たちだから、岸に上がろうな」
 アキラは、意識の朦朧としているクリームヒルトたちを一人ずつ海中から救い出し浜辺の片隅に寝かせていく。
 もしかしたら、海に消えた携帯ゲーム機がゴミと一緒に流れ着いているかもしれない。それを探すついでにだ。『トレジャーセンス』で入念に探索するが、とりあえず見つかった金属はフライパンだけだった。
「アキラ、魚を何匹かCaptureしたヨ。お腹すいたから、一緒にたべようヨ」
「俺の携帯ゲーム機はCaptureできなかったのか?」
「まだ言ってるの? いい加減give upしなさいネ」
 そんなことを言っていると、クリームヒルトたちが目を覚ましてきた。彼女らは、状況を把握すると、前すら隠さずにアキラに視線を向けた。
「あ……、あなたが助けてくれたの……」
「俺の携帯ゲーム機見なかった?」
 アキラは聞いたが、返事はなかった。火をおこして魚を焼きながら続ける。
「メシ作ったから食べるといいよ。携帯ゲーム機は見つからなかったが、手に入れたフライパンで出来るだけのことをするさ」
「ありがとう……」
 緊張気味だった摩耶たちが表情を崩した。彼女らは、顔を見合わせて何やら目配せしていたが、お互い頷くとアキラに声をかけてきた。
「ねえ、私たちと遊ばない……?」
「そんな気分じゃないんだ」
 アキラが興味なさそうに答える。携帯ゲーム機以外で遊ぶつもりはなかったのだが、彼女らは遠慮なく近寄ってきた。
「ゲーム機なくしたんでしょ? いいゲームあるわよ。無人島に漂着した男とそれを取り巻く美少女たちのリアル・ギャルゲーなんだけど……」
「お、オパーイ!?」
 アキラはぴくりと反応する。
「Oh my god……」
 アリスが機嫌を直してくれるまでしばらく時間が必要のようだった。



 実のところ。アキラの携帯ゲーム機は無事に保護されていた。別の人物の手によって。
「ゲーム機より生身の女の子を取るなんて、ソロ充を名乗る資格すらないよ」
 あの時、流されていたアキラの携帯ゲーム機を拾い上げ、自分の持っていた端末もろとも大切に保護しながらこの島まで流されてきていた“伏見・栄(ふしみ・さかえ:♂)くん”は言う。彼は、機器類を日光に当てて乾かしているところだった。
 彼は誰……?
 あの、ガイド中でタブレットで天気予報を見ていた契約者の一人だった。
“伏見くん”は、あの後自分のタブレットも流されずにすんだ。アキラがアリスを守り抜いたように、彼も大切なものを守り抜いたのだ。
「“北森セレナ”は俺の嫁だからな」
 よくわからないが、タブレットのゲーム中の萌えヒロインの名前らしい。“伏見くん”は、このキャラを愛しているのだった。すでに妄想世界内では一緒に住んでいて、無人島から帰ったら結婚するつもりだった。
“伏見くん”はタブレットの電源を入れる。いつでも外でプレイできるように、携帯ゲーム用ソーラー電池も持ってきたのだ。2021年にはゲーム用ソーラー電池くらいあるだろう、まあ多分……。
「おっ、動いたぞ。神はオレを見捨ててなかった」
「無人島に来てまでタブレットって、何なの? バカなの、死ぬの?」
 突っ込みを入れてきたのは、あの時一緒に騒いでいた女子で“今池・千種(いまいけ・ちぐさ:♀)さん”という名らしい。ちょっと気が強そうだが、悪くない外見の女の子だ。
 二人とも、ここだけのモブキャラなので名前すら覚える必要はない。
「ねえ、あっちへ行きましょうよ。もう、みんなそろそろ合流しているわよ」
“今池さん”は、“伏見くん”をしばらく見つめていたが、返答がないのを知ると、ふんっと鼻を鳴らして去っていく。
「……」
“今池さん”は一度だけ“伏見くん”を振り返るだが、彼は気づいてすらいないようだった。
「セレナ……、一緒に海見ような」
「おはよう、栄。顔色悪くないわね。元気みたいでよかったわ」
 ディスプレイから立体で飛び出したセレナが微笑みかける。2021年のタブレットゲームは、立体映像なのだ。本物の女の子より可愛いかもしれなかった。プレイヤーの体温や脈拍、息遣いまでセンサーで感知し、ゲーム内の台詞や表情に生かされるのだ。……まあ、多分。最低でもそれくらいのゲームは出てるだろう、と10秒くらい前に思いついて適当に書いた。
 とにかく、“伏見くん”は今のままで十分に幸せだった。現実世界に友達や恋人が欲しいとは思わなかったし、リア充を見てもなんとも思わなかった。むしろ、関わり合いになりたくなかった。
「一人ぼっちで充実ライフ。これからはソロ充の時代だぜ。なあアキラ……」
 日光で乾いたアキラの携帯ゲーム機は返事をしなかった。