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涙の娘よ、竜哭に眠れ

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  エピローグ 人身売買ルート


「鏖殺寺院……またあの組織ですか」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が、静かに立腹していた。
 星辰異常にまつわる騒動は一段落ついたようだが、まだ解決していないことがある。
 人身売買ルートの特定、および殲滅だ。
「如何なる組織であろうと、人身売買のような非道を許す訳に参りませぬ」
 フレンは、アトラスの傷跡にいる契約者たちと連絡をとって、売買ルートの情報を集めていた。
「申し訳ありませんが、マスター。調査のご協力願います」
「ああ。それは構わねぇが」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が頭をかきながら言う。
「相手は一筋縄ではいかねぇ連中だ。より一層、慎重に動く必要がある。くれぐれも無茶するんじゃねぇぞ?」
「はい。承知しております」
 彼女はそう応えるが、ベルクから不安は消えなかった。

 フレンディスはその純真さ故から、憎んだ悪を断罪するために、自らより大きな悪となることがある。
 単純に実力を計れば、ベルクの方が上かもしれない。それでも彼が、恐怖に近い感情を抱くのは、フレンには『殺る事に迷いがない』からだ。

 集めた情報を整理しながら、ベルクは思う。
 殺しを躊躇しない者は、強い。
 しかし。それが人としての強さと呼べるのか。ベルクは、ほのかな懐疑を抱いていた。
(ま。フレンが選んだ戦いなら、彼女に任せるしかないけどな)
 心のなかでつぶやくベルクが、資料を整えていたとき。

「あっ、忍さん。お帰りなさいませ」
 密偵に出ていた下忍の『下山忍』こと、忍さんに向けて、フレンがぺこりと頭をさげる。
 情報収集に長ける彼女は、人身売買組織における、重要なルートを押さえていた。
 なんでも、最近になって、えらく危ない水着をきた少女が攫われたのだという。
 忍さんのルートをたどれば、鏖殺寺院のとあるアジトに辿りつく。
「マスター。ここへ向かいましょう!」
 彼女たちはすぐに支度をして、寺院のアジトを目指していった。



 所変わって。
 ここは、ニルヴァーナにある児童養護施設。
 施設内は、パラミタに暗躍する『人さらい』の話題でもちきりだった。
 子供たちの中心には、ターバンを巻いた端正な顔立ちの、少年とも少女ともつかない子がいた。
「オレのマスターも戦ってるんだ。心配いらないって」
 そう仲間に告げるのは、ジブリールである。この子は、実験体にされていたところを、フレンディスによって救われた過去を持つ。
「ジブリールくんより、強いやつがこの世にいるのかよ」
「ああ。マスターはすげー強いんだ。しかも、マスターのマスターもいるんだぜ」
「ひえ〜」
 ジブリールは、どこか誇らしげだった。

 ちなみに、ジブリールのフレンに対する『マスター』は師弟関係を表し、フレンディスのベルクに対する『マスター』は主従関係を表しているため、ニュアンスの違いには注意が必要である。

 ジブリールの話をきいて、施設の子供たちは、みんな落ち着きを取り戻したようだ。
「ジブリールちゃんが言うなら、なにも心配いらないね」
「そうだね。なんせ、ジブリールくんのマスターがいるんだから」

 その中性的な容姿のために、周りからの呼称が安定していないジブリールであった。