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第二章 楽しいお仕事・1


 海の家【避暑の家 蒼水】。

 賑やかな騒ぎが始まる少し前。
「今日は海で素材採取や魚竜釣りでそうですよ。だから、ここにも大勢のお客さんが来るはずだからみんな頼むですよ!」
 普通のビキニ姿のレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が家族を集め、気合いを入れていた。
「繁盛するように頑張るよ。それで何をしたらいいのかな?」
 ピンクの花柄パレオを着たリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)が自分達の役目を訊ねた。
「接客を頼むですよ」
 レティシアはリアトリスの仕事を決定。
「分かった」
 リアトリスはうなずいて了承。
「あちきは料理の腕を振るいましょうかねぇ」
 レティシアはエプロンを装備しながら言った。
「ボクはママのお手伝いをするよ」
 紫のワンピース水着を着たユウキ・ブルーウォーター(ゆうき・ぶるーうぉーたー)が元気に手を挙げてレティシアの調理補佐に名乗りを上げた。母親と同じく料理上手だから力になれると思ったのだ。
「ユウキちゃんがいれば、百人力ですぅ」
 レティシアは嬉しそうに笑みを浮かべながら言った。
「ありがとう、ママ。絶対に成功させようね!」
 母親に褒められ、ユウキは嬉しそうにしてから両拳を作って言った。
「もちろんですよ。それでミスティは会計を頼むですよ」
 ニカっとユウキに笑いかけた後、レティシアは役目についていないミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)に重要な役目を託した。
「会計……慣れていて嫌いじゃないけど……」
 ミスティはなぜだか複雑な顔をしていた。
 そこに
「ティーお姉ちゃん頑張って」
 ユウキがにこにことミスティを話しかけた。
「えぇ」
 ミスティは、会計担当はもう自分以外にいないと悟り頑張る事にした。
「それじゃ、看板を営業中に変えて来るよ」
 打ち合わせが終了した所でリアトリスは急いで看板を“準備中”から“営業中”に変えに店外に行った。

「家族でお仕事って何かわくわくするなぁ。たくさん、お客さんが来るといいね」
「そうですね〜、頑張って来店するお客さんを笑顔にするですよ」
 リアトリスを見送りながらユウキとレティシアは営業前から楽しそうにしていた。
 夏の思い出にと海の家を出店したのだが、もうすでに思い出の1ページが記されたようだ。

 浜辺。

「カーリー、潮の風が気持ちいいわね。海に来たって感じね」
 可愛らしいワンピース水着姿のマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)は頬に触れる潮風に表情を和らげていた。
「そうね。少し騒がしいけど」
 麦わら帽子にパレオ付きの水着姿の水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)はうなずきつつもゴーレムに追いかけられている双子に少しだけ溜息。
「確かに。でもすっかり馴染みの光景に思えてきたわ」
 マリエッタはうなずきつつ双子に視線を向けた。言葉通り騒ぎに慌てる様子は無く受け入れている。
「……確かにそうかも。それよりもそろそろ依頼された素材採取をした方がいいわね」
 ゆかりは仕事を思い出した。実は夏休みを満喫するためにエリザベートに誘われ来たのだが、偶々素材採取の話を聞いて水中散歩がてらに手伝う事にしたのだ。
「そうね。海を楽しみつつ素材採取ね」
 ゆかりの言葉でマリエッタは海に和み忘れそうになった自分達の目的を思い出した。
 採取を開始する前にゆかり達はゆっくりと浜辺を歩いて採取場所を探した。

 採取場所を探し始めて少し経過後。
「カーリー、この場所でいいのよね」
 マリエッタはゆかりが当たりを付けた箇所の海を見ながら確認した。
「えぇ、聞いた素材はこの周辺の海の中にあるはずよ。ただ潜って採るだけじゃつまらないから水中散歩をしながら片付けよう。ちょうど役立つ物を調薬友愛会に貰ったし」
 『博識』を持つゆかりは海の色から目的の素材の生息場所を予測したのだ。そして、調薬友愛会が希望者に配布していた水色のタブレットを口に放り込んだ。数分だけ海中での呼吸が可能になる物である。
「水中で少しの間呼吸が出来るタブレットね。折角だからのんびりと楽しまないともったいないわね。採取するのはすぐに見つかるような危険度の低い物だから簡単に終わると思うし」
 マリエッタもタブレットを口に放り込び、水中散歩の準備を整えた。
「それじゃ早速行きましょう」
「えぇ、水中散歩に」
 ゆかりは麦わら帽子とパレオを脱ぎ捨てて海の中へ。その後ろをマリエッタが続いた。

 海中。
 水面から差し込む光、青く染まる視界、ゆらりと泳ぐ色鮮やかな魚達、淡い光を発する珊瑚礁。心地良い水温の冷たさ、静かで幻想的な世界。

「……綺麗ね。現実なのにまるで別世界のよう」
 ゆかりは光差す水面を見上げたり、魚の群れを目で見送ったりゆるりと海の中を漂い楽しんでいた。
「……本当に……幻想的」
 隣のマリエッタは感動の余り言葉少なになり静かにうなずいていた。
 この後、二人は海に身を任せそれぞれ漂ってのんびりと時間を楽しんだ。
 遠くから魚竜との戦闘が繰り広げられているのか騒がしい音がするが、ゆかり達にとっては遠い世界の出来事であった。

「ああ……このまま海の中をただよっていたいわ」
 海を漂い自分達の存在など意に介さずのんびりと泳ぐ魚達を眺める内にささくれ立った心が優しく癒されるのを感じ、ゆかりは時間が流れている事を忘れそうになる。
 しかし、
「……でも頼まれた仕事はしなければ……それにもうそろろそろ効果が切れる」
 責任感のあるゆかりはしっかりと仕事の事を覚えており、早速作業を始めようとすると同時にほんの少し息苦しさを感じ、タブレットの効果が消え始めている事を知った。
 ゆかりは貝類や海藻ハーブの採取をしつつマリエッタの様子を見に行った。タブレットの効果が消えつつある事を海に癒されて忘れているのではないかと心配して。

「…………」
 マリエッタは漂っているうちにすっかり仕事を忘れ、ぼんやりと海の癒しに包まれて海に溶けて一つになっていく心地良い感覚を楽しんでいた。そのためタブレットの効果が切れた事にも気付かなかった。
 気付いたのは、
「……(マリー)」
 後ろから自分を心配して来たゆかりに肩をとんとんと叩かれた時だった。
「……(カーリー)」
 マリエッタはゆっくりと振り向いた。その時に軽い息苦しさを実感。今まで気付かなかったのはそれほどまでに青の世界に飲み込まれていたからだ。
「……(仕事をするわよ)」
 ゆかりは手振りで言葉を伝えた。
「……(分かったわ)」
 マリエッタは軽く笑み、手振りで了解と答えた。

 早速、素材採取開始。
「……(必要な海藻ハーブはこれで間違い無いわね)」
 『博識』を持つゆかりは自分が持つ情報と目の前の海藻ハーブが間違い無いか几帳面に隅々まで確認してから呼吸困難に陥らないように気を付けながら回収していた。
 一方、マリエッタは
「……(両方似てるわね。どちらが必要素材かは陸で確認したらいいわ。それより次の素材を……)」
 見た目がそっくりな二種類の海藻ハーブを念入りに確認はせず、大雑把に回収していた。
 この後もゆかり達は海藻ハーブや貝などの回収を片付けつつ海の静けさ暖かさに癒されていた。