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リアクション
序章 祭りの前の騒がしさ
「薔薇の学舎主催の雅、ですか……これは絶好のチャンスですっ!
今回こそ、キロスさんを呼び出して私の気持ちを伝えてみせますっ!」
頬を赤くさせ、緊張しているのはアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)。
彼女は手紙を胸の前で小さく握りしめると、そっとポストに手紙を投函する……
◇ ◇ ◇
「んっ、手紙か? どれ、内容は……っと」
『前略キロスさん。
近々、タシガンの孤島で「雅」というイベントがあるそうです。
宜しければ、そのイベントに二人で行きませんか?
プールや温泉もあるそうですから、水着を持って来て頂ければ幸いです。
あっ、もちろん剣もお忘れなきよう! いつもと違った雰囲気で「勝負」ですっ!
楽しみにお待ちしておりますね!
アルテミスより』
「またこのパターンかよ!」
キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)は、いつも通りの果し状に頭を抱えていた。
「こういうのってのは、もっとこう! デートのお誘いとかじゃねぇのか普通!?
は〜、やっぱ俺にリア充は遠いのかもな……」
そう言いつつ、水着を探し始めるキロスであった。
◇ ◇ ◇
イベント前日、施設「雅」では準備が進められていた。
ここ縁日・屋台スペースと盆踊り会場の設営を行っているのは
大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)
フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)、讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)の4人だ。
「薔薇の学舎の学生として召集がかかったから、そこはしゃーない。お仕事お仕事。
せやけどな、パーティリーダーの僕がなんで一番ドカタ仕事の割合多いねん!?」
「だって僕は芸術家だし」
「我は元より、下つ方の労働には向いておらぬ」
フランツと顕仁がそれぞれ反論する。
「それを言うならレイチェルもでしょ?
僕はちゃんと土木建築の特技を生かして櫓や屋台の設営を監督してるよ」
「レイチェルはしゃーないやん、レディやねんから。そないな事よりフランツ、
僕とか顕仁は日本人やから夏に盆踊りは違和感ないけど、フランツなんかからしたらどうよ、コレ?」
「う〜ん……できる事なら、薔薇学の美意識に沿った、盆踊り歌の新曲を作曲したかったところだけど。
身体は一つしかないからなぁ。 日本の舞踊って、基本的に「摺り足」で地面から飛び上がらないし、
そういう音楽、音やリズムの運びになってるんだよね。 西洋音楽や舞踏ともかなり違って聞こえるのが面白いよね」
楽しそうに語るフランツに奏輔はガクッと肩を落とす。
「音楽の話やのーてやな……」
「雅と……盆踊りは、ちと我の美意識にも、難しい喃。 生きた時代の空気の差であるかな」
「顕仁までそないな感じなんか……もうええ! 君らがのり気やないんやったら、僕がやるさかい!」
そうして奏輔は、フランツと顕仁を置いて設営作業に加わっていった。
「…おぼえとれー、僕は忘れんよぉに日記につけとくからなー!」
「……あーあ、怒っちゃった。 それじゃ少しは真面目に働きますか」
「うむ。 それにしても、レイチェルは一体何処に行ったのじゃ」
◇ ◇ ◇
その頃、レイチェルは屋台の地割を行っていた。
「こんな場所になってしまって申し訳ありません」
「私達は大丈夫です! ねっ、羽純くん?」
「ああ、元々手伝いで来た身だ。 気にしないでくれ」
そこは縁日会場の最も端の部分、
遠野 歌菜(とおの・かな)と月崎 羽純(つきざき・はすみ)の屋台が
出店される事になった場所である。
「さすがに規模が規模ですから、屋台の場所取りが中々収拾を付けられなくて…助かります」
「困った時はお互い様だ。 ほら、向こうでまだ揉めてるぞ?」
羽純が目で指し示すと、
薔薇学生とタシガン地域枠で手伝いに来てくれた商人が言い争っていた。
「だからここより端に回されたんじゃ、利益が見込めねぇんだよ!」
「大変申し訳ないが、こちらもこれ以上中心部から離されては、薔薇の装飾が映えない」
「んだと!?」
「ここでは美が正義なのだ」
そんな様子を見て苦笑いを浮かべるしかない歌菜。
「まったく…すみませんが失礼します。 明日は宜しくお願いしますね」
それだけ言い残し、レイチェルは彼らの仲裁に走っていく。
「色々大変なんだな」
「あはは、そうみたいだねー……と、とにかく! 早く準備すませちゃお!」
「分かった。 頑張ろうな」
「うん!」
◇ ◇ ◇
「……よし、っとー。 調子はどうだい? ランダム」
「問題ない。 けど……どうして私、馬の役?」
「こりゃ随分変わったなー、本当に馬になっちまうとは」
一方、馬場では堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)が
ランダム・ビアンコ(らんだむ・びあんこ)を馬型に改造していた。
それを見たダニー・ベイリー(だにー・べいりー)は驚きの声をあげる。
「これ、確かに機晶姫の私にしかできない」
「ゴメン。 だけど今回はうちの学校がホストな訳だし、乗馬体験でお客様に
ケガさせるわけにはいかないだろう? 後でちゃんと直すからさ、許してくれないかな?」
「一寿の心配、分かる。 でも……」
「まぁ明日だけだしな、お前も我慢してやれよ」
「……うん」
そこにヴォルフラム・エッシェンバッハ(う゛ぉるふらむ・えっしぇんばっは)がやってくる。
「ダニー、こんな所にいたんですね。 明日のためにも、あなたは早く自分の乗る馬の状態を見て慣れ親しんでおくべきです」
「そう焦んなさんなって。 昔の勘は鈍っちゃいねぇからよ」
「そうかー、2人ともこうして馬と触れ合うのは久しぶりになるんだね」
「そうなりますが私は騎士、常日頃から馬に乗っていましたから、感覚は鈍ってはいませんよ。
きちんと馬に挨拶も済ませましたし、明日はお任せください」
「俺もヴォルフラムと同じでずっと乗ってたからな、まぁなんとかなるだろう」
「なら安心だよ。 明日は2人とも宜しく、ランダムもいいね?」
「分かった」
その頃、クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は
ウェルチ・ダムデュラック(うぇるち・だむでゅらっく)と共に、馬場会場を飾り付けていた。
「ウェルチ、パートナーと一緒の担当じゃなくて良かったの?」
「だって彼今回の運営代表だから忙しいんだよね。 今回のイベントで唯一危ない事があると
すればここでの事故だってことで、自分じゃ手が回らないから様子を見守るようにって言われたの。
だからボクはここの担当になってるわけ」
「色々忙しんだね」
今回、雅の総責任者を任されたのは、ウェルチのパートナーフェンリル・ランドール(ふぇんりる・らんどーる)。
彼もまたイベント地域各部署の最終準備に追われているのだ。
「だから明日は宜しくね?」
「うん、こちらこそ」
◇ ◇ ◇
そしてランディが最後に回ったのは、喫茶「彩々」。
「以上だ。 ここと馬場は特に多くの来客が予想される、しっかりと頼むぞ」
「はーい、任せといてくれ!」
元気に返事をするテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)に対して
パートナーである皆川 陽(みなかわ・よう)は何やら浮かない様子でいた。
「どうした陽? なんか元気ないなー」
「……別に。 まぁ明日はせいぜい頑張ってね」
「頑張って、って一緒にやるのに変な言い方するなよ〜」
「ボクは裏で皿洗い、キミは表でウェイター。 頑張んなきゃいけないのはそっちでしょ?」
「なっ、役割分担はこれから決めるんだろー!?」
「こういうのは、『薔薇学生』のイメージに沿ったキミみたいなのがやれば良いんだよ」
「なんだよーそれ?」
「お客さんも正統派の白人美形を求めてるんだよ! 分かった?」
「う〜ん…そこまで言うなら別に良いけど……」
「どうした、北都?」
「……ちょっとね」
そんな様子を、清泉 北都(いずみ・ほくと)と
白銀 昶(しろがね・あきら)は遠くから見つめていた。
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