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リアクション
第3章 喫茶「彩々」
その頃、喫茶「彩々」は多くの客でにぎわっていた。
客層の殆どが女性という、薔薇学にしては異様な光景に、湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)は
少し面を喰らいながらも入店する。
「へぇ、ここがあの彩々か〜。 なんかオシャレな雰囲気で素敵じゃない」
そう言ったのはベルネッサ・ローザフレック(べるねっさ・ろーざふれっく)。
「ばっ、薔薇学は謎も多い男子校でこういう機会はそうそうないですからっ!
今日はた、たくさん取材しまちょ!?……つぅ」
「≪早速舌噛んじゃって……緊張でガチガチじゃないのさぁ〜。
まぁ、あたしはそんなのを楽しませてもらいましょうかねぇ〜≫」
カメラ越しに、凶司を見つめるセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)は
男らしくない様子に内心呆れていたが、同じくらいこの状況を楽しんでいた。
「≪タイトルは……二次オタ童貞は恋で人生を変えられるのか!? ってとこかねぇ≫」
こうして蒼空学生徒会広報の、恋の戦い?が始まった。
◇ ◇ ◇
席へと案内された凶司達。
「何にしようかしら?」
「べる、ベルネッサ!? ここだとえっと……タシガン! タシガン珈琲が有名で、
それから! えっと、その……」
「あなた何焦ってるのよ? 取材なんでしょ? 時間はあるんだしゆっくりと頑張りましょ。
せっかく声かけてもらったんだから、私も手伝うわ」
「そそそうだね! 僕としたことがつい焦っちゃって。 あははははは!!!」
そう笑う凶司の内心はというと………
「≪やっべぇぇぇ〜〜〜〜〜〜!!! 落ち着け、落ち着くんだ……。
恋愛ゲーなんて山ほどやったでしょうが。 ここでいいとこ見せて、ベルネッサの心を…ああ…
こんな僕に優しく話しかけてくれるなんて……ベルネッサぁぁ〜〜〜!!!!≫」
「はいはい、そろそろ現実に戻りましょうねぇ、凶司ちゃん?」
「…はっ!? セラフ、ありがとう」
タシガン珈琲を楽しみながら、ベルネッサとのトークは続く。
「今日はこの後、遊園地の方に、行ってみようと思ってるんですけど……」
「あら、そんな場所もあるのね」
「は、はい! えっと、何でもここに隣接していて遊び終わった後などに
すぐ休めることとか、プールあがりにそのまま遊園地に…なんて遊び方も
できるのが良いみたいですね! なので、その、あの、一緒に
泳いだりとか……し、しません?!」
「でも取材もしないといけないわけでしょ?」
「取材のカメラはあたしは回しとくから。お二人はごゆっくりぃ〜」
「≪セラフさんナイスフォロー!≫」
セラフのフォローに思わず「さん」がついてしまうほど喜ぶ凶司。
「そんな、セラフにだけ働かせて、私達が楽しむわけにはいかないわ」
「うふ、気にしなくていいのよベル? わたしは下手なアトラクションより、二人見てる方が楽しいわよん?」
「2人とも…ありがとう。 でもやっぱりわたしの事気遣ってくれてるんでしょ?
久しぶりにあなた達に会えたわけだから、私だって目一杯楽しみたいけど、2人は広報の仕事で来てるんだから
邪魔するわけにはいかないわ! こうして声をかけてくれただけで私はすごく嬉しいし満足よ」
「≪あぁぁぁ〜〜〜!!!! そんな風に微笑みかけられると、ものすごく眼福だけど
デートの口実になればって仕事どうでもいいと思ってた分なんだか逆に申し訳ないぃぃぃぃ!!!
ああ、今はそんなことよりで、デートプランを……遊園地がダメになったんなら次は…これか?
これでいいのか!? あああ、落ち着け自分!!??」
「そういえば…どうして凶司は私を誘ってくれたの?」
「へっ!? いや、だってこうして好きな人と出かけるチャンスなんてそうそうないですし!」
「好きな……人?」
「……あ」
その場にいた3人の空気が一瞬固まった。
「あは、あは、あははははは…………ちょっとトイレに!!!!!」
そういうと同時に凶司は全速力で走って行った!
「……」
「≪何ゲームかアニメみたいな告白してるのよぉ〜! しかも逃げ出して……≫」
頭を抱えつつもセラフは取り敢えず、と行動を開始する。
「えっと〜…ベル、今のはねぇ〜」
「私、告白された……ってこと?」
「まぁそうなるだろうねぇ」
「そっか…………ふふっ」
「あら〜、まんざらでもない感じねん?」
「人に好かれるって嫌な事じゃないでしょ?
なんだか弟に告白されたみたいな感じで、ちょっとびっくりだけどね」
「≪まだ恋愛対象にはなってない感じかねぇ……≫」
彼の恋はまだまだこれからなのかと思いつつ、
ベルネッサと凶司の復活を待つセラフなのであった。
◇ ◇ ◇
「お待たせいたしました」
「わぁ! 美味しそうなケーキだ〜!」
高原 瀬蓮(たかはら・せれん)が彩々の特製ケーキを前に嬉しそうに言う。
そんな様子を小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とアイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)は
微笑みながら見つめていた。
「瀬蓮ちゃん、今日はアイリスのお祝いなんだからねっ?」
「あう〜…だってー」
「まぁいいじゃないか。 このサイズ、足りないことはないだろう」
今回、美羽はアイリスを祝うために、彩々を訪れていた。
薔薇学生達の計らいで個室スペースへと案内された彼女達の元には、紅茶とケーキのサービスが贈られたのだ。
ケーキには1本の大きなロウソクと共に『アイリス、校長就任おめでとう』と書かれたチョコ板が乗せられている。
「それにしてもすごいものだな…これは、飴細工か?」
「うん、お店の人に頼んでおいたの! すごいよね〜!」
さらにケーキの上では可愛らしい飴細工の美羽と瀬蓮が、苺の隙間からアイリスに笑いかけていた。
「さぁーて、アイリス。 ロウソクの火を消してね」
「分かった」
彼女がロウソクを吹き消すと、消えていた部屋の照明が明るくなり部屋のカーテンが自動で開け放たれる。
そこに咲く薔薇と百合のコントラストは、思わず目を奪われるような美しさであった。
「「おめでとう!アイリスーーーー!」」
瀬蓮と美羽の言葉に、お礼をするアイリス。
「ここまでしてもらって……美羽と薔薇学に感謝しなければならないな」
「本当、すごい御もてなしだよね〜」
「私もこんなに用意してもらえるとは思ってなくてビックリだよ! スゴイね〜」
ケーキと紅茶を堪能しながら、会話をする3人。
「瀬蓮ちゃん、アイリス、キマクの生活はどう?」
「う〜ん、やっぱり百合園の頃とは違うよ〜。 でも、楽しくやれてるよ」
「瀬蓮が悪いものに影響されないといいが、問題ないだろう。
気にかけてくれてありがとう。 いざとなれば、美羽の事を頼らせてもらうよ」
「もちろんいいよ! 私2人のためなら何でもするからねっ!」
「ありがとー美羽ちゃん!」
「うん! アイリス、今日はパラ実の校長就任祝いってことなの。 ということで〜……
校長先生に抱負を語ってもらいたいと思いま〜す!」
「なっ? 抱負か? 抱負…そうだな」
少し考えるも、話を続けるアイリス。
「本当は、許されれるのなら……地球で静かに暮らそうと考えていたんだ。
だが、今となってはそれを行うのはまだ先でも良いのではないかと考えている。
他の2人の校長と共に、これから私達は何をすべきなのか……前校長、石原肥満が何を残していったのか……
それを考えながら大切にしていきたいと思う。 瀬蓮には苦労をかけてしまうな」
「そんなことないよ! 瀬蓮はアイリスとずっと一緒だもん! ね、美羽ちゃん?」
「そうだよ! もちろん私もね?」
「……ふっ。 ありがとう、2人とも」
こうして、アイリスのパラ実校長としての新しい日々が始まっていくことになった。
側にいるのは、欠けがえのない大切な人達。 彼女の決意がより強いものにかわったこの日は、忘れられることはないだろう。
◇ ◇ ◇
凶司や美羽が思い思いの時間を過ごす頃、彩々の店内をだいぶ混んできた。
そんな様子を見ながら陽は皿洗いをしていた。
「すごい人の数だね……皆そんなに長居して楽しいのかな…」
ここに来た客の殆どは食事や休憩を優雅に楽しむというより、
憧れの薔薇学生と話せる事を楽しみにしているのか、1団体あたりの
店内にいる時間が長かった。 なので裏方である陽等はそこまで忙しくなかった
のだが、接客担当の方は半ばホストクラブの様に働かされていた。
もちろん、そう感じさせないのは彼らの振る舞いが気品にあふれているからである。
横目でテディが接客する様子を盗み見てみる。
「テディ様もっとお話ししましょうよ〜」
「……分かりました。 あなたがそういうなら、この僕がいつまでも付き合うよ」
「キャーー!」
「≪あんな風にキャッキャして……別にテディが鼻の下伸ばしてるわけでもないけど、
なんか気持ち悪い。 でも、あんな風に女の人と普通に話せてるのは……いいよねー……≫」
そんな陽だったが、あまりの店の込み具合に普通の食事等を楽しみたい人への
接客が、回らなくなってしまったために接客に出るように頼まれた。
「自分みたいなのが他学生の見える場所にいたら、薔薇学生のイメージが壊れるじゃないですか」
「でも人手が足りないんだよ」
陽と薔薇学生がもめているところに北都が声をかける。
「皆川君、だったよね? どうかしたの?」
「清泉さん……」
その場を引き継ぎ話をする北都。
「ボクは、他の皆さんと違ってこんな地味な見た目だし……こんなの来たらお客様だってがっかりするだろうし…」
「なんだ、そんなことなんだね」
「そ、そんなことって…!?」
「確かにそういう顔のいい人を見に来てるお客様も多いと思うよ。 だけど君だって薔薇学の1人でしょ?
そんな風にいじけてる姿を見る方が、よっぽどお客様に失礼だよ」
だがそこに薔薇学生が来て北都に声をかける。
「清泉! 悪いがあっちのお客様を頼む!」
「分かりました。 ……自分がダメだと思ってるうちは、ダメなままだと思うよ?」
そういうと北都は去っていく。
何も言い返せずただ北都を見つめる陽。
「いらっしゃいませ。 2名様ですか?」
「ああ」
「かしこまりました。 それではご案内致します」
北都が接客しているのは海と柚の2人。 水着の上からTシャツを羽織っている。
「結構水着で歩いている人も多いですね」
「だな。 この辺りは施設もつながってるし、その方が楽でいい」
「そうですね」
「さ、柚は何が食べたい?」
「あっ、えっと、あっと…そうですね〜海くんは何がいいですか?」
注文を考えながら夜の予定を考える2人。
北都の案内した席は彩々の周りに植えられた花々を見られるカウンター席。
2人は自然と隣同士に座ることとなり、柚はとても嬉しそうだ。
そこに北都が飲み物をもって現れる。
「こちらをどうぞ」
「ん? 俺達まだ何も注文していないが…」
「ホットティーです。 お気に召さないようであれば他の品と交換いたします。
見た所、ご主人様達はプールからあがってこちらに来られたようですので、僭越ながら
用意させて頂きました」
「私達の髪が濡れてたから…?」
「さすが薔薇学、ってことか。 貰っておくよ」
「ありがとうございます。 それでは、美しい一時をご堪能下さいませ」
そうしてまた別の接客に向かう北都。
「≪清泉さん……すごい≫」
背筋をピンと伸ばしお辞儀も決められた角度できちんと決める。
だが決して機械的などではなく、あくまで自然な振る舞いであるその様に、
陽はただただ見とれていた。 また、美形の客が目当てでも、それをうまく表現できないような
客に会えば、そっと自分と他の薔薇学生とで担当を変える。
北都も決して美形という部類に入るわけではないが、
だからこそ客も緊張せずに彩々での時間を楽しめているようであった。
「≪………や、やれって言われたんだし…仕方ない、よね……≫」
陽は北都に声をかける。
「清泉さん、ボクも……」
「期待してるよ。 一緒に頑張ろう」
だが、その時何か大きな音が外から聞こえてきた。
「ボクが接客しますから、清泉さん行ってください」
「ゴメンね、悪いけどよろしく」
◇ ◇ ◇
「くっそ〜〜〜〜!!!! なんだここは!? リア充しかいないのかよ〜っ!」
「リア充しかいないのなら、爆発させるまででげす!」
2人組の男がそう叫びながら持ってきた爆竹で彩々を襲撃しようとしていた。
だが、そこに1匹のオオカミが背後から飛びついた。
「ぬぅぁ!? ちょ、おま! 痛てぇ!? やめてくれ〜!!!」
「なんでげすかコイツは!?」
彩々の入り口付近とあって、騒ぎを聞きつけた人だかりが出来始める。
だが、オオカミはただその2人組とじゃれあっているようにしながら、爆竹を確保しようとしていた。
「顔をなめるなっ!?」
「あっ、それはとっちゃダメでげすよ!?」
揉み合いの中で飛び出した爆竹を、誰かがそっとキャッチした。
それは会場美化のためにここに来ていたリュミエールであった。 もちろんそばにはエメもいる。
そこに北都が合流し、3人は目で合図する。
「さぁ皆様、ショーの始まりですよー!」
リュミエールの声に合わせて【ホワイトアウト】で辺りを白く包み込む北都。
その隙にオオカミは爆竹を男達の手から奪うと北都にパス。
同時に霧の中でエメが男達の服を整え、彼らが暴れた影響で乱れた花を取り除くと
用意しておいたプリザーブトフラワーで空いたスペースを埋める。
霧の中で作業が行われている間、リュミエールが蒼薔薇を片手にダンスを披露する。
そして霧の中にリュミエールも入り………
「これはプリザーブドフラワーなんだ。 今日の思い出と共に、ずっと傍に置いてくれると嬉しいな」
霧が晴れた時、そこには男達の手を取りながらにっこりと薔薇を差し出すリュミエールの姿。
彼が作り出した雰囲気は、まるでお嬢様に愛を語らう執事を連想させた。
それと同時に清泉が彼らの頭上で爆竹を爆発させる。
「おおっ! 結婚おめでとー!!!!」
「ひゅ〜アツいね〜!」
様子を見ていた人々は笑いながら、拍手喝采で楽しんでいた。
「くっそ〜!」
「お、オムコに行けないでげす〜〜〜!!!」
そう喚き散らしながら、去っていく男達。
エメとリュミエールは『ショーを見てくれたお礼』として
プリザーブトフラワーを配り歩いた。
「ショーを見て下さってありがとうございました。 宜しければこれをどうぞ。
飾っている華はお持ちになって下さっても大丈夫ですよ。 お気に召してくださったなら嬉しいです」
「楽しんでもらえたら嬉しいよ。 さ、これを受け取って」
◇ ◇ ◇
「エメさん、助かりましたよ」
「清泉君もお疲れ様。 まさかあのような方々が紛れ込んでしまうとは……人手がやはり足りませんね」
「まぁおかげで僕のパフォーマンスを楽しんでもらえたようだけどね」
そう言いながらリュミエールがくすりと笑う。
リュミエールがこうしてパフォーマンスで楽しませる間に、エメが会場の美化や持たなくなったプリザーブドフラワーを交換するのが
彼らの担当の仕事であった。 エメが花を取り換えたことにより、花につけておいた香水の香りが辺りに優しく広がっていた。
「白銀君もお疲れ様でした」
入り口付近でお客さんと戯れるオオカミ。
獣人である昶は『マスコット狼』として客寄せをしていたのだ。
先程の事件の一件もあり、すっかり大人気である。
昶はエメの言葉にそっとウィンクで答えるのであった。
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