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リアクション
と。
突然、辺り一帯のホログラム達を巻き込むように、ブリザードが吹き荒れた。
あっという間に複数体のホログラムが雲散霧消する。
「朱鷺も加勢いたしましょう」
驚く蓮華たちの前に現れたのは東 朱鷺(あずま・とき)だ。隣には、ホログラムで映し出された雪比良 せつな(ゆきひら・せつな)の姿もある。
「サクシードの戦い方というものを、朱鷺に見せてください」
眼鏡型HCをくいっと持ち上げて、朱鷺はせつな・ホログラムに命令を下す。せつなのホログラムはこくりと頷くと、右の手にフリーズブレイドを纏わせて敵ホログラムのただ中へと突っ込んで行く。
せつなはゲーム中でかなりの高レベルに設定されているだけあって、強い。
左の手に蒼氷花冠を咲かせ、相手からの攻撃を受け流したかと思うと、流れるような動きでそれを投げつけてホログラムの一体を消し去る。
せつなのホログラムは一騎当千の強さでばったばったと敵をなぎ倒し、一気に形勢逆転! ――と、なるべき場面で。
突然せつな・ホログラムは動きを止めると、使役者である朱鷺の方を振り向いて立ち尽くした。
いかな強力なキャラクターとはいえ――いかなホログラムが実体化しているとはいえ――中身はゲーム上のキャラクターだ。
むろん、AIシステムは搭載されているから、ごく簡単な指示を出せばかなりフレキシブルに動いてくれる。
だが、何も指示しなければ動けない。
「――」
発話機能がないホログラムだが、しかしそれでもせつな・ホログラムの瞳はものすごーく何か言いたそうに、朱鷺の方を見て居る。
その視線に気付いた朱鷺はとっていたポーズを解除してせつな・ホログラムに向かい合う。
「どうしたんですか? 頑張ってくださいね、せつなさん」
それだけ言うと、再び朱鷺はなにやらカッコイイポーズを取り始めた。
そして、ああでもないこうでも無いと、ポーズを変えては首を傾げる。
使役者の行動と言動から、指示の内容を読み取れなかったせつな・ホログラムは――つかつかと朱鷺の元に戻ってくると、何か言いたげな眼差しを朱鷺に突き刺す。
「何をしているのです? 朱鷺はちょっと凜々しいポーズの練習をせねばなりませんので――」
ホログラムに発話機能が付いているとしたら、せつな・ホログラムはこう言っていただろう――なんでやねん。
――口調が違うか。
「なんですか? 凜々しいポーズの研究というのは、案外重要ですよ。これは必要に迫られてやっているのでして」
朱鷺が、冗談なんだか真面目なんだか解らない、真意の読めない表情でのらりくらりと言い訳を並べる。
「というわけで、朱鷺は朱鷺がやるべき事をやりますから、あなたもあなたの使命を遂行してくださいね」
言うだけ言ってポーズの研究に戻ってしまう朱鷺。しかし、行動指針を与えられなかったせつなは動けない――
そんな漫才みたいなやりとりを繰り広げているうちにも、消耗したジェイダスと雅羅のホログラムが、それでもせっせとザコホログラムをやっつけている。
せつな・ホログラムが積極的に戦闘に参加できるなら圧倒的有利になったろうに。
しかし、誰もわざわざ突っ込みに来る程の余裕は無い。皆自分のやることで手一杯だ。
「もう限界です、避難急いで!」
蓮華が叫んだ、その時だった。
ぬうっと威厳に満ちた姿勢で、シャンバラ教導団団長、金 鋭峰(じん・るいふぉん)――のホログラムが姿を現した。その横には、清泉 北都(いずみ・ほくと)の姿がある。
「お願いします、みんなを助けるのに力を貸してください」
自分が使役しているホログラムとはいえ、団長の姿形をしているものに命令するというのは気が引けるらしい。北都は丁寧に団長・ホログラムに「お願い」する。
すると団長のホログラムは鋭い目線で周囲を見渡し、的確に状況を分析した――らしい。そして、周囲に居るホログラム達に、指示を出した――らしい。
なにぶんホログラムには発話機能がないので、ホログラム間でどのようなやりとりがあったのか、厳密には解らない。
――『金鋭峰』さんからのメッセージが入っています。市民の避難誘導に協力するようにと。
その代わり――なのかどうか、その場に居た蓮華やフレンディスたちのDSSのナビゲーションが告げた。
無論、反対する人間が出るわけも無い。――団長に心酔している蓮華などは、ことさら積極的にキャラクターの指揮権を明け渡したほどだ。
団長のホログラムは、音声こそ発しないが、視線と身振りとで周囲の味方ホログラム達に連携を促し、消耗している者には市民の盾となるよう陣形を組ませた。消耗しているホログラム達でも、隊列を組み、守備に徹すれば市民の避難を効率的に進められる。漫才に巻き込まれて充分な力を発揮できずにいたせつな・ホログラムもまた思う存分力を奮い始める。
士気高揚の効果も手伝ったか、市民も恐怖に陥ること無く、落ち着いて避難を開始した。
そして団長ホログラム自身は、従者のホログラムを生み出し、彼らが操作する大砲でもって敵ホログラムの殲滅に当たる。
流石に最高クラスの強さを持つだけあって、見る間に敵ホログラムは消滅していく。今や戦況はすっかりこちらに有利だ。
「ああ……戦う団長、格好良い……写真撮っちゃお」
ちゃっかり蓮華が、その姿を写真に収めたりしている。
気がつけばいつの間にかホログラムが新たに沸き出すのは止まったらしく、殲滅は時間の問題だろう。
「もう大丈夫、落ち着いて進んでくださいねぇ」
枯れそうな声で精一杯市民を誘導していた柚にかわり、今度は北都が声を掛ける。
「まだ空京内は危険ですから、空京外へ退避してください」
超感覚によって、北都は他にも戦闘の気配を感じている。
時々戦闘の余波を防ぎきれずに軽い怪我をする人間が出たりするが、すかさず北都と柚の二人が分担して応急処置を行う。
そうしているうちに、団長・ホログラムの指揮の下、こちらの軍勢により敵ホログラムは一体残らず消滅した。
「ありがとうございます」
北都は団長のホログラムにむけてぺこりと頭を下げた。
――だが、まだ戦闘の気配は続いている。他にも残っている一般人が居る可能性は高い。
一同は他にも要救助者がいないかどうか確認するため、空京の街へと散っていった。
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