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リアクション
アルディリス
「これ……ニルミナスの広場にある像と同じものだよね?」
遺跡都市アルディリス。その中心部にある広場で清泉 北都(いずみ・ほくと)は女性を型した像を見つける。その造形はニルミナスの広場にあるミナス像と瓜二つだ。
「みたいだな。あっちは確かいなくなったミナスが帰ってくるのを祈って作られた像だっけか」
北都と同じように像を注意深く観察しながら白銀 昶(しろがね・あきら)はそう答える。
「えーっと……読めた。この像は『祈りのミナス』……街の象徴たるミナスが街のために祈る姿を模したものみたいだねぇ」
古代文字を解析して分かったことを北都は伝える。
「『祈りのミナス』……ねぇ」
大仰な名前だと昶は思う。
「街の人がミナスへ祈るための場所だったみたいだね。ミナスにこうしてほしいああして欲しいって像へ向かって願うとここからミナスのいる部屋まで届く仕組みみたい」
「……なぁ、北都。その願いが届く部屋ってミナスがいた部屋だけなのか」
「え? 一応、ここに書いてることによるとそうだけど……どうかしたの?」
「確かに意思伝達用だと見られる魔術の形跡は見られる。でもその意志の送り先は1つだけじゃない。反対方向にもう一つ送り先がある」
像を観察しながら気づいたことを昶は言う。そう言った魔術の匂いがまだそこに残っている。
「その辺りはよく分からないけど……とりあえずこの像をサイコメトリしたら一番新しい強い記憶を引き出せそうだね」
この像は人々の祈りの中継点にあるものだ。おそらくサイコメトリの対象としてこの像以上のものはないだろう。そしておそらくそれにより引き出されるのは……
「……アルディリスが滅んだ時の記憶か」
既に静かに集中して像にサイコメトリしている北都のことを昶は待つ。
「……ふぅ」
「何か分かったか?」
「分かったと言ったら分かったけど……とりあえず言えるのはひどい光景だったよ」
「……どんなだ?」
「その時が来た瞬間、街に住む人達は例外なく遺跡病に倒れて、そのまま個人の差はあっても一日持たずに死んだよ。倒れるのは本当に皆一緒だった」
サイコメトリで見た光景を北都は伝える。
「たぶんあれが『恵みの儀式』、その『破産』なんだろうね」
「もし、ニルミナスで同じことが起こったら……」
「……あんまり想像したくないかなぁ」
少しだけ気分を悪そうにしながら北都はそう言った。
「そろそろ時間ね。そっちはどう? カルキ」
アルディリスの探索。そのタイムリミットを前にルカルカ・ルー(るかるか・るー)は手分けして探したパートナーの調子を聞く。
「こっちも多分ルカと同じようなもんだと思うぞ」
カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)はそう答える。
「てことは、あんまり重要そうなデータは手に入れられなかったんだ」
「ああ、ダウンロードできるデータは端末から片っ端に拾い上げてきたが……プロテクトのない情報にそんなに価値があるとも思えないしな」
当て上げだとカルキノスは手を挙げる。
「時間がなかったから仕方ないかしら」
「まぁ、アルディリス中を回らないといけなかったからな。……おかげで主要な施設はどこにあるかとかはちゃんと分かったしいいんじゃねぇか」
病院や図書館、役所など。そういったものがアルディリスのどこにあるか……どこにあったのかを地図に書き込むことは成功していた。
「もし次にここを調査することがあったら、行き先を絞って調べたほうがよさそうね。……魔法的にも機晶技術的にも思った以上に高度みたいだし、片手間じゃおちおち調べてられないわ」
「ルカは施設の中で気になった場所はあるか?」
「北にある一番高くて白い建物かしら。地下都市の天井にぎりぎり届くか届かないかのあれ」
「なんかあったのか?」
「特に何もなかったわ。……でも、あそこからならきっと街中を見渡せたんだろうなって。カルキは?」
「特に施設がどうこうってのはなかったが、歴史の重みを感じてた」
「……カルキの方は結構時間に余裕あったみたいね」
「おう。人生生き急いでも仕方ねぇ」
「それでそれをつまみにお酒飲むんでしょ?」
「よく分かってるな」
分かるも何もいつものことだ。
「ま、時間だし帰ろうぜルカ。……ルカ?」
呼びかけに反応がないことを不思議に思ったカルキノスはルカルカの方を見る。ルカルカは白い塔の方をじっと見ていた。
「どうかしたのか? 何もなかったんだろ?」
「確かに何もなかったけど……でも、あそこでなにか大切なことがあった。そんな気がするのよね」
「ふふふ……今度こそお宝を手に入れるであります」
遺跡都市アルディリス。その手には宝のある場所をマークした地図(ただしただの勘でつけた)を持ってその入り口に立つのは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だ。何度目になるかわからない宝探し。一攫千金を目指し吹雪は遺跡へと潜っていた。
「ほとんど手つかずの遺跡……そしてたくさんついた宝のマーク。今日こそはお宝が見つかる気がするのであります」
毎回同じようなことを言って失敗しているような気が吹雪はするが、その考えは頭に一瞬と、とどまることなくお宝の匂いに流される。
『くすくす……お宝探しかしら? 頑張ってね』
「応援に感謝であります。今日こそはお宝を見つけるのであります」
声援にそう返しながらも吹雪の頭にはお宝のことしか無い。
「時間は限られているのであります……そうなると一攫千金を狙って一番大きな宝の匂いがする所に行くべきでありましょうか。それとも近くから地道に行くべきでありましょうか」
『多分どれも外れだから大きな宝の匂いがするところでいいんじゃないかしら』
「助言感謝であります。早速行くのであります」
荷物をまとめて走ってそのポイントへ向かう吹雪。その走っている途中。
「はて、自分は一体誰と話していたのでありましょうか」
その疑問もお宝の前に一瞬で流される吹雪だった。
「絶対この奥に何かあるの! どうにかして開けたいの!」
一つの開かない扉を前に及川 翠(おいかわ・みどり)はそう言う。
「……なんかつい最近も同じような光景を見た気がするんだけど……」
頭痛を感じながらそう言うのはミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)。
「あはは……でも私も気になりますね。この先に何があるか」
冷静さは失っていないながらも扉の先が気になる様子なのは徳永 瑠璃(とくなが・るり)。
「扉……開かない……封印さんなの?」
扉を前に好奇心が抑えきれない様子でそう言うのはサリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)。
「やっぱり封印さんなの!? 解きたいの!」
サリアの封印という言葉に大きな反応を示す翠。
「ああ……完全に一緒になった」
はぁと息をつくミリア。
「あはは……大丈夫ですかミリアさん」
「別にこっちに気を使わなくても大丈夫よ瑠璃ちゃん。……封印、気になるんでしょ?」
その言葉に甘えて瑠璃はお礼と謝罪をして翠やサリアと並んで封印解析に当たる。
(……どうしてこうなったのかしら?)
ミリアはここまでの経緯を思い出す。最初は普通に遺跡の中を探索していただけだった。けれど……
最初、翠が落とし穴に落ちた。それを追いかけて3人も落ちる。そこから登ることは難しそうで仕方なく落とし穴の先にあった道を進む。
次に、サリアが壁にあった変なスイッチを押した。すると道の一部が沈むように更に下へ。地下道のさらに地下に潜ることになる。
最後に、瑠璃が隠し扉を見つける。そうして進んだ先に見つかったのが今三人が嬉々として挑んでいる封印された扉だ。
(確かに、あの扉の先に何かあるのは確かでしょうね)
ここまで苦労して見つけた扉だ。そうであってもらわないと困る。
(いや、重要でも重要じゃなくてもどっちでもいいから、正直もう帰りたいんだけど)
好奇心に浮かされた三人にお目付け役はちょっとやそっとのことじゃない。自分以外じゃ面倒見切れないんじゃないかとそう思うくらいだ。
「力押しで開かないの?」
「力押しで開くなら封印の意味が無いと思いますよ」
翠の疑問に瑠璃の解答
「えっと……この封印さんは遺跡の入口にあった封印さんとは違うよね?」
「そうですね。あちらは古いながらも見覚えのある封印式でしたけど……こっちは完全にこの遺跡独自のものみたいですね」
サリアの疑問に瑠璃の解答
「つまり……肉体言語なの?」
「違いますから翠さんハンマーはしまってください」
「むぅ……あの時は入り口の封印さんはハンマーで叩いたら開いたの」
「結果的にはそうですが全くもって違います」
翠の暴走を止める瑠璃。
「瑠璃ちゃん、魔法で封印さんを吹き飛ばすのはダメ?」
「多分封印吹き飛ばせるくらいの魔法使ったら私達生き埋めですからやめてください」
サリアの暴走を止める瑠璃。
(……なぜでしょうか。封印の解析は全く進んでいないのに疲労だけが……)
集団の中で苦労をするのはその中で真面目な人、あるいはその中で一番常識を持っている人。つまりミリアが抜けた三人組で瑠璃が疲れるのは仕方のない。自然の摂理だった。
「そろそろ時間ね。帰らないと」
「えっ、なぁに、お姉ちゃん?」
後ろで見守っていたミリアが突然やってきたことにサリアは驚く。
「そろそろ二時間……帰らないと行けないわ」
「あ、時間制限あるんだっけ……」
すっかり忘れていた様子のサリア。
「? 時間制限って?」
一方、この期に及んで時間制限を思い出さない翠。思い出すだけサリアは救いがある。
「でも、お姉ちゃん。封印さん全然解けてないよ?」
「そうね。……でも今回はこの扉を見つけただけでも大発見だと思うわ」
帰らせるための方便ではなくミリアはサリアにそう言う。
「だからこの先はまた今度」
その時は制限時間いっぱい封印解除に当たればいいとミリアは言う。
「うぅ……今回の封印さんも強敵なの! でも絶対に解きたいの!」
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