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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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 清泉 北都(いずみ・ほくと)は仲居として和ゴスで受付をしたり白銀 アキラ(しろがね・あきら)は客の荷物運びや掃除をメインに朝から来て宿の手伝いをしていた。
「ぬりかべさん、廊下塞いじゃダメだよ!?」
 北都は廊下を塞いでウトウトするぬりかべに声をかけたり
「悪いが小豆は置いて湯に入ってくれ」
 白銀は温泉に小豆を持ち込んで入浴しようとする小豆洗いを止めたりとあっちこっちで忙しく働いていた。
 そんな時、
「…………(酷い騒ぎが起きてどうにも止められないのでお願いしてもいいですか)」
 女将が無い血相を変えて北都達の所にやって来た。
「騒ぎ?」
 執事としての察し能力と『エセンシャルリーディング』で北都は女将の慌てぶりを読み取った。
「……(実は)」
 女将は手振り身振りで廊下で二口女と猫又が暴れており、女将が止めに行くも上手く止める事が出来なかった事を伝えた。
 北都達は、急いで現場に向かった。

 現場。

「さっさと羊かんを返すにゃー」
 雌猫又ミッカは日本髪を乱れさせ目を見開き、爪剥き出しに二口女双葉に襲いかかる。
「羊かん一個に本当に意地汚い猫又ですね」
 双葉は黒髪で掴んだミッカから盗んだ羊かんを見せつける。
「前はまんじゅう、その前はういろう、その前は餅にゃ、どっちが意地汚いにゃ」
「一つぐらいいいでしょうに」
 これまでに横取りされた食べ物を列挙するミッカと呆れる双葉。
「おい、北都。あいつらって」
「猫又の方は桜見で騒いでたね」
 その光景を見た白銀と北都には見覚えがあった。ただし交流はした事は無いのだが。
「本当に、にゃー、にゃーうるさいですね」
 双葉は近くにある椅子を黒髪で掴み、ミッカにぶん投げながら馬鹿にする。周辺には様々な物が転がっていた。
 それを軽やかに回避したミッカは
「もう今日という今日は怒ったにゃ、本気を出すのにゃ。その髪を切り裂いてやるにゃ」
 目を剥いて毛を逆立て妖気を発しながら跳躍するなり双葉に襲いかかった。
「やれるものならどうぞして下さいな。こちらも今日こそは皮を剥いで素敵な三味線にしてあげます」
 双葉もいくつもの髪の触手をミッカに向け、迎え撃つ。

「羊かん一個に大騒ぎだな」
「止めに行くよ」
 原因に呆れる白銀と惨事になる事を容易く想像する北都。
 二人は急いで止めに行った。

「おい、そこまでだ」
 白銀は『神速』でミッカの前に立ち霊断・黒ノ水でミッカの爪攻撃を受け止め
「他のお客に迷惑だから待った」
 北都は双葉の前に立った。
「そこをどくにゃ、このままだと腹の虫がおさまらないにゃ」
 ミッカは血走った目で羊かんをこれ見ようがしに自分に見せつける双葉をにらみ、白銀の制止を力づくで突破しようとする。
「おいおい」
 必死に食い止める白銀。
「ふふふ」
 双葉は笑みを浮かべるなり後頭部にある口に羊かんを放り込んだ。
「うまい、うまい」
 老婆のような声と共に羊かんは消えた。
「あー、羊かんを……ゆ、許さないのにゃ」
 盗まれた挙げ句に食べられた自分の羊かんにミッカは目を三角にする。
「落ち着け」
 白銀は何とかミッカを落ち着かせようとするも効果が無い。
 その時、
「親分、いい加減にして下さい!!」
 紅達の協力でミッカを捜し出したシロウの厳しい声がこの場を震わせた。
「こ、この声はシロウかにゃ?」
「あら、お出ましですね」
 ミッカと双葉は一様に動きを止めた。
「土産を大量に買い込んだと思ったら行方不明になって挙げ句は他のお客さんに迷惑をかけて、強いくせに本当に食べ物とか絡むと駄目猫又になるんですから。もう、当分ご飯作りませんから、好きに食べて下さい。迷惑を掛けた方にきちんとお詫びをして親分を捜すお手伝いをして下さったこの方達にもお礼をして下さい」
 厳しく言い放ち、背を向けて行ってしまった。
「シロウ、悪いのは双葉の奴にゃ。シロウのご飯は美味しいから待つにゃ」
 ミッカは先ほどとは打って変わって憐れな声で子分を心変わりさせようと必死。
「……もう騒ぎを起こさないようにね」
「厳しい子分だな」
 警告する北都とミッカ達のやり取りに苦笑を浮かべる白銀。
 二人の声が耳に入ったミッカは
「……迷惑を掛けてごめんにゃ……後、シロウを手伝ってくれてありがとうにゃ」
 北都達に丁寧に謝り、紅達に礼を言ってから急いでシロウを追いかけた。
「……いいえ、その……仕事……ですから」
「大変だな」
 紅は小さく気にしてないと気持ちを示し、廉は苦笑していた。
 残った双葉も
「……騒ぎを起こしてしまってごめんなさいね。あの猫をからかうのが面白くてつい」
 丁寧に詫びてからこの場を離れた。
 去る双葉の背中を見送りながら
「ひとまず解決だな」
 解決に胸を撫で下ろす白銀。
「あの二人、本当は仲がいいのかも。喧嘩するほど仲が良いと言うし」
 北都は、二人が聞いたら速攻で否定するような事を口走った。
 ともかく、北都達と廉達で荒れたこの場を片付けてからそれぞれの仕事に戻った。

 仕事を終えた北都達は男湯でまったりと疲れを流した。
「……しぶといな」
「根っからという感じだね」
 白銀と北都の視線の先には
「……我は……イッタンである……こんな目に遭ういわれはないのである……」
 無意識の中、ぶつぶつつぶやく破廉恥な一反木綿がいた。
「後で解放してあげようか」
「だな」
 あまりにも憐れな様子と客の気分が盛り下がるため北都と白銀は温泉を楽しんだ後、イッタンを解放した。
 その後、部屋でゆっくりと過ごした。夜中の呼び出しにも応対出来るようにはしていたが、枕返しの悪戯ぐらいで何も無かった。ちなみに枕返しについては客の寝相で誤魔化した。
 白銀はいつの間にかいなくなっていたが、
「……妖怪と酒盛りでもしているかな」
 と予想がつく北都は気にしなった。

 その白銀は夜行性の狼の獣人であるためか
「……おいおい、何やってるんだ」
 宿を歩き回り、一人酒盛りをする妖怪を発見した。ちなみに狼姿である。
「いや、酒を卸しに来たのはいいんだが間違って一つだけ強いもんを持って来ちまって。仕方が無いからわし一人で飲んでいるんだ」
 酒好きの獣妖怪しょうじょう酒助(さけすけ)は間違えた酒を飲んでいた。
「強いってどれほどだ?」
 興味を持った白銀は訊ねた。
「妖怪以外なら一口で体内破裂で入院になるかもしれねぇ。水で割ったらお前さんでも飲めると思うが、比率間違えたらヤバイ」
 酒助は酒臭い気を吐きながら危ない事を口走る。
「ヤバイって一か八かとは妖怪の酒はすげぇな」
 思わず一言洩らす白銀。だからこそ気になったりするのだが。
「心配すんなって狼の兄ちゃん、わしが比率を間違える事はねぇから」
 酒はカラカラと笑い飛ばし、酒を飲んだ。
「それなら一杯貰うか。すぐに水を持って来るから待ってろ」
 白銀は水を持って来るため一度この場を離れた。
 すぐに水を持って戻って来るなり酒助に割って貰った。
「ほら、飲んでみろ。多分、大丈夫だ」
 酒助は水でかなり薄めた酒を白銀に勧めた。物騒な言葉を付け加えた。
「……多分って」
 曖昧な酒助の言に白銀は、一瞬ためらうも意を決して一口飲んだ。
 そして、
「おっ、なかなか刺激的な味だな。口や体が焼け付く感じもする」
 無事であっただけでなく口の中に広がる味を楽しんでいた。
 白銀は酒助と酒盛りをしながら彼の愚痴を聞いて夜長を過ごした。
 翌日の客の見送りもきちんとこなした。