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リアクション
エピローグ
「さてと……村長。そろそろお別れの時間だ」
ずっと契約者とミナホのやりとりを見守っていたユーグは苦々しい気持ちを隠しながらそう言って前に現れる。
「待って! ミナホちゃんが死ななくてももう村は滅びないの」
レオーナはユーグからミナホを守るように立ってそう主張する。
「そうだな。お前らが出した答えで……村長が最初から知っていた答えで『破産』は回避できただろうさ。……魔女の襲撃で村が破壊されていなければな」
「あ…………」
恵みの儀式の対象になっている場所では破壊と思われる行為でできた損傷は自動的に修復される。今回の戦いで出来た村の損傷は、魔女が襲撃に使った衰退の力よりも大きい。……修復が行われれば破産は確実に起こり、その修復はほどなく始まる。
「もう時間の猶予はない。それでも……村の奴らが契約者以外全員死ぬと分かって、それでもお前らは俺を邪魔するのか?」
ユーグの言葉。
「それでも……それでも私はミナホちゃんに死んでほしくない。大勢の人が死ぬことになっても。その罪を背負うことになっても」
それにレオーナは迷わず答える。ずっと悩んでいたのだ。ミナホを取るか大勢の命を取るか。前村長に聞かれてから考えなかった日はない。迷い、あがいて、その上で選んだ答えなのだ。
「……そうか。お前は俺の敵だな」
ミナホを殺さない。その罪を背負おうとするのがレオーナなら、ユーグはミナホを殺す罪を背負う。
(悪いな……俺はお前らを守れそうにない)
自分に契約者を退けミナホを殺すような力はない。きっと、レオーナたちがミナホの元へくることを止めなかった時点で……前村長が自ら死のうとしていることを気づかなかった時点でこうなることは決まっていたのだ。
「ちょっとまったー!」
レオーナとユーグ。二人がぶつかろうとしているのを郁乃は飛び出して止める。
「なんか、村長を殺すとか殺さないとか話してるけどちょっと待って! ミナスの書見つかったから!」
そして郁乃はこれまでの事情を説明する。
「……で? ミナスの書は見つかったけど、肝心の破産を回避する方法は見つからないと?」
瑛菜は半眼で郁乃を見る。アテナも苦笑い気味だ。
「……郁乃さん。ミナスの書の中に『儀式対象範囲の変更』に関して記されているところはありますか?」
自分の考えた方法では村を救えなくなってから近遠は高速で村を救う方法を考えていた。そして思い出すのは前村長から聞いた話。
『儀式の対象となる村や街の規模に借りられる繁栄の力、正確には借りても破産しない力の量は影響されます』
それの意味するところは、儀式の対象を広げることができるのならそれにより『儀式の対象が借りられる繁栄の力の上限があがり、今現在借りている繁栄の力は破産を起こすほどではなくなる』。
「えっと……あるよ。儀式の対象の変更方法。……でも、すごく難しい術式だよ」
自分にできるだろうかと郁乃は思う。
「主。あたしの力を任せたのは……あたしの力を使っていいのは主だけです」
「マビノギオン……」
郁乃は周りを見渡す。瑛菜やアテナたち契約者は期待した眼差しを自分を見ていた。ユーグはバツの悪そうな顔でそっぽを向いていた。ミナホは……ミナホは訳の分からない様子で涙を流していた。
「……うん。そうだよね。私がやるよ」
術式を丁寧に展開させていく中、郁乃は思う。この場にいない前村長やミナはどこかで見ているだろうか。ゴブリンキングは村を救った私を褒めてくれるだろうか。ミナスは……私を森の守り手として認めてくれるだろうか。
術式が起動し、光が村を、森を、遺跡都市のある鍾乳洞を……その先まで届く。
それは術式の成功を。恵みの儀式の対象が広がったことを。……ミナホとミナが死なずに村が滅びの道を免れたことを意味した。
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