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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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第11章 黒のテスカトリポカ Story2

「(自分から率先するようになるとはな…)」
 非社交的なリオンだったがグラルダが仕留め損なったボコールを、すぐさま倒しにかかったところを見ると相手から求められたわけでもなく、自ら行動するようになってきていた。
 アニスのほうは相変わらず、人の中へ入っていこうとしない。
 女子供が相手ならおどおどしながらも、話すようになってきているものの、人以外とばかり話していた。
「“皆”、うにゃうにゃぁした場所とかないかな?」
 淀んだようなところはないか、神降ろしで呼び出した者たちに聞く。
「ん〜、わかんないかー…」
「アニス、サンダーバードが鳴いているようだが」
「なんだろう、逃げちゃおうとしてるの見つけたのかな?でも、ちょっと騒がし過ぎる気が…」
 リオンの声にアニスはハテナと首を傾げる。
「ううむ。確かに、何やら違う気がするな」
「むー…。ああ!リオン、あの子のところに気配が集まってるよ」
 アークソウルの反応に驚き、囮のグラルダのほうへ集中していると声を上げる。
「気配が2つくっついた感じのもいるね」
「あの者のパートナーだけでは荷が重そうだ。アニス、教えてやってはどうだろう?」
「えぇー…リオンが教えてあげてよ」
「それでは遅い」
「悪いことはだめだよって言えば、向こうも分からないかな?」
「却下だ、ありえん」
 人外なら饒舌に話せるし、好かれることもあるからというアニス的な言い分なのだろう。
 だが、いくらなんでも相手が悪過ぎる。
 得た力による破壊、他者を利用することしか考えない連中に、何を言っても無駄だとリオンも十分過ぎるほど理解していた。
 痛い目を見ないと学習しないのだろうか。
 そう思ったが、今はそんな場合ではなかった。
「彼女らの補助スキルが破壊されてしまったぞ」
 シィシャとグラルダがディスペルをかけられ、守りの気を粉々に散った瞬間が視界に入った。
 目に見えぬ存在らは、彼女らに罪と死を放ち反撃にでた。
「武器と属性攻撃か!」
 グラルダは足に鈍い痛みを感じながらも踏み止まる。
「アークソウルなしでは、限界があります」
 アニスのほうへちらりと目をやるが、少女は黙したまま何も告げようとしない。
「和輝や私を介しては伝達が遅れてしまう」
「ふぇぇえ、だってだってー」
「やれやれ、どうしたらいいものやら」
 あまり強く言うと泣き出してしまいそうで、どう言えば動いてくれるのか悩んでしまう。
「リオンさん、これでは囮でなく的だよ。ボクらも彼らの位置を教えてもらえないと、対処しようがない」
「しかしアニスが…」
「なんとかならないかな?」
「うーむ…」
 和輝との精神感応で、代わりに伝えてもらうしかないかと考え込んでいると、彼からテレパシーを送られる。
「(非常に困ったことになってしまった、和輝)」
「(アニスには悪いが、これもショック療法のようなものとして、やってもらうしかない)」
 自分を介してでなく直接相手に伝えたほうがよいだろうと言う。
「お願いだ、アニス。せめて、グラルダとシィシャに教えてやってはくれないか?」
「むぅ〜、分かったよリオン…」
 頼みの和輝にもかぶりを振られ、しぶしぶ了解した。
「ええっとね、…アマティーから左60度に見えないやつと…、ちょっと後ろの上の方にもいる」
 おどおどしながらもアークソウルの探知にかかった位置を教える。
「あたしの足に縄がっ」
 蹴り解いている隙に、罪と死による闇の刺が迫る。
「クローリスくん、キミの花で守ってあげて」
「しょーがないわねぇ、もうっ」
 相変わらずの態度だがクリストファーの頼みに、グラルダに花びらを舞い散らせる。
「それだけじゃ防ぎきれないよ!ポレヴィークさん、植物の蔦をお願い」
 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)も囮である彼女が無用に傷つかないように守ってほしいと頼む。
「クリスティーさんがそう望むのなら」
 小さく笑みを浮かべてグラルダの周りに植物の蔦を伸ばし、ロッドからは離れたスキルの物理ダメージ部分を防ぐ。
「ふむ。確かに罪と死は、武器と闇黒属性魔法によるダメージだが、このような手段もあるのだな」
「リオンってば冷静に分析してる場合じゃないよ」
「うむ、そうであったな」
「んとね…もうちょっとだけ、蜘蛛を進ませて」
「よいのか?」
「うん…ていうか早くっ」
 人に対して慣れきったわけでないが、一緒に行動している人が皆倒れてしまうと結果、和輝のお役に立ちきれていないみたいに思えた。
 大蜘蛛をもっと前へ進ませるよう彼女の袖を掴んで急かす。
「むぅ、逃げようとしてるのがいる。…アマティー、右斜めのほう…もうちょい先、…そこっ。……狙って」
「逃走者なら裁きの章がいいか」
 アニスの指示に従い、エターナルソウルの加速で接近する。
 少女のおかげで的確に狙いを定めることができ、相手の声を耳にして手ごたえを感じた。
「リオン、アマティーの後ろにいるよっ」
「(ぬ、やはりか)」
 連中も黙ってやられるはずもなく、囮のグラルダの僅かな隙を狙ってくるだろうと想定し、酸の雨を降らせて返り討ちにしてやる。
「支援するよ、グラルダさん」
 クリスティーはエレメントチャージャーをはめた手でニュンフェグラールを掲げ、妖怪の少女・猫又を召喚する。
 現れた猫又は“にゃんにゃん”と大地の気を手招きし、哀切の章へエネルギーを送り込む。
 大地の恩恵を受けた祓魔の術を、逃走しようとするボコールたちに目掛けて放つ。
「むむぅー、まだ気配が重なってるのがいる」
 不可視化するほどの能力はなく、抵抗力も失いつつあるだろうがエアリエルはまだ内に捕らわれたままだった。
「(和輝、逃げちゃわないように捕まえちゃって)」
「(粗方片付いたか?)」
「(うん!―…ああっ、サンダーバードがあっちのほうに、何かいるって)」
 砂嵐から少し離れた方向をずっと見ているらしく、きっとよくないのを見つけたんだと判断する。
「(報告にあったディアボロスかもな。向こうも宝石使いくらいいるはずだ、俺たちは逃走者が出てこないか監視しなくてはならないしな)」
 監視を怠っては最悪の場合、また町を襲いに行かれるかもしれず、留める選択しかなかった。
「皆、砂嵐に入ろうとしている者を、アニスのサンダーバードが見つけた。確証はないが、ディアボロスかもしれない。黒のテスカトリポカを取りに行った者たちのほうへ、誰か加勢にいけないだろうか」
「私が参りますわ。この中でだいぶ余力ありますから」
「あぁ、頼む」
 和輝たちは侵入口前で待機し、綾瀬たちを見送った。



 グラキエスの携帯のバイブ音に気づいたエルデネストは、“鳴っていますよ、メールでは?”と声をかけた。
「テスタメントか。…ディアボロスが、こっちへ向っているらしい」
「おや、急いでここを離れなければなりませんね」
「ベースを狙っている者がいると、感づいているようだったと…」
 黒狼のスカーの口にいる存在が、まさにそれだった。
「それではエリドゥへ戻れませんね」
 取り戻しにやってくると容易く想定でき、町の人間をまた危険に晒してしまうことになる。
「まったく、噂をすれば影ってやつか」
 アークソウルに探知範囲に踏み入れた存在にベルクが舌打ちをする。
「いない間に取っていくなんて泥棒だよ!」
「返すつもりはないが?」
「ふぅ〜ん、ぶったおしけどいい?」
 ベルクをひと睨みした後、太壱にウィンクする。
「なっ、何だ!?」
「さぁーてねぇ」
「気味がわりぃな」
「早く傷治しなさいよ、タイチ」
「言われなくたってやるって」
 すぐとはいかなくとも、命のうねりで回復できるだろうと治療を始める。
「ぬぁあ、傷が広がっていく!?」
 傷を癒すどころかどんどん悪化していき、自分の身に何が起こっているのかまったく分からない。
「あっははー、おかしーのー。自爆しちゃってるよ♪」
「タイチ、ウィンクされて術にかかったんじゃないの?」
「へ!?マジかよ」
「特に意味は無いよ、気づかれてないだけだし」
 ウィンクなんかまったく関係ないと告げる。
「太壱君、肌の色が変色しているね」
「げ、どういうこったこりゃ!!?」
 死人のような肌に目が飛び出そうなほど驚愕する。
「って冷静に言ってんなよ、親父っ!」
「騒いだところでどうにかなるってわけじゃないよ」
「ふむ、呪いではなさそうですね」
 エルデネストはホーリーソウルで治せるか試みるが、呪いの気配をまったく感じられない。
「会議で言われていた黒魔術だ、バカ息子。解けるまで我慢しろ」
「こんな気候でそりゃ無茶すぎるだろ…、ちょくしょうっ」
 照りつける太陽と一面砂漠地帯のせいで、血が止まらず傷口が焼けるように痛みだす。
「マスター、太壱さんが!」
「やべぇなこのままじゃ……」
 普通の人間なら気絶するか死に至るものだと一目で分かるほどだった。
「私とアキラ、小娘の3人でやつを引きつける。その間に、バカ息子の治療を頼む」
「出来る限りのことはやってみるが、無理はするなよ。…仕方ねぇ、フレイ背中に乗れ」
「え、ぇえ!?そ、それはさすがに恥ずかしいです、マスター!」
「恥ずかしがっている場合じゃないだろ」
「は…はいっ」
 顔を真っ赤にしつつ、砂地に降りたベルクの背に乗る。
「(いったんやつから離れねぇと…)」
 炎の翼に時の宝石の効力を乗せ、背後から太壱を抱えてディアボロスから離れた。