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リアクション
第5章 ヒトを捨てた災厄の僕の手 Story4
「相変わらず無茶するね、君という人は。私も同じようなものだけど」
エースに付き合っている時点で、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)も同じような苦労を背負い込んでいた。
「クマラはその娘を連れてワイバーン・オルカンへ」
「うん。…オイラの手、掴んで!」
「おねぇちゃんは一緒じゃないの?」
「あのお姉ちゃんといれば平気だよ。だからきみは、オイラとおいで」
優しく手を握り、メシエのワイバーン乗せてやる。
「やはりエースから狙う気だね」
弥十郎へ視線を移し、“示してもらえるか”とアイコンタクトを送った。
僅かに口元を綻ばせた彼は、小型の銃を気配の元へと向けた。
「フンッ、無駄なことを」
「知ってるよ」
小ばかにしたように笑う相手に表情を崩さず、トリガーにかけた指を引く。
気配は構わずミストをくらいエースに迫る。
「ばかな…!?」
弥十郎から受けたダメージはさほどなかったはずだが当然足を止め、その原因はクマラにあった。
ペンダント使いでない少年に不可視である自分の位置を知られ、紫色の雨に魔法防御力を奪われ冷静さを描く。
「慌てんなよ、何か手を使ったにちげぇね」
彼の仲間のボコールのほうは平静さを保ち、術を当てられたカラクリを知ろうと回りを見回す。
ゆっくりと見つける余裕をもらえるはずもなく、弥十郎がミストを撃ちだしてくる。
だが自分への決定打に値する手とは到底思えない。
“あ…”とカラクリを理解した時には遅く、酸の雨にうたれてしまった。
「そうか、…お前が!」
「当たり♪」
「だがな、まだ止まるほどじゃねぇぞ!」
「(だろうね…)」
パートナーへ目を向けると蘇生術を続けていた。
急かすわけにもいかず、彼らの接近を許さないように、ひきつけ役もしなければならない。
“これは持久戦になってしまうかな”
そう覚悟し始めた時、斉民が“弥十郎、弥十郎!!”と忙しく呼ぶ。
何事かと思いちらりと見やると、彼女は歓喜でいっぱいの笑みを浮かべていた。
目の先にいる死者だったはずの人間が、口元を動かしたからだ。
時の流れが生きていた時間へと戻り、脳の損傷もすっかり消えていた。
「やっと成功したようだね」
ワイバーンの背から器へ戻ってきた存在を見下ろし、メシエもほっと息をつく。
「喜んでばかりはいられないな。二人とも、“彼らが集まっている”という場所へ案内してもらえるかな?」
「分かったわ。セレン、行くわよ」
安堵しきり気が抜けそうな恋人の脇を、肘でつっつく。
「え、…えぇ。けど、あいつらはどうするの?」
「せっかく助かった人間まで、危険に晒すわけにはいかないわ。この状況じゃ、やつらから離れることが正解ね」
取り込まれたエアリエルを開放するに至るまでの手段はない。
ここは離れて一輝たちと合流するほうが妥当かと考えた。
疲弊している斉民には心苦しいが、“もうひと頑張りしてちょうだい”とセレアナが声をかけた。
「ワイバーンは置いていくしかないね。クマラは、その子を連れてくるんだよ」
「ちゃんとオイラが守るにゃ!君、背中に乗って、落ちないようにつかまっててね」
「うん…」
「お姉ちゃんも一緒だから安心してにゃん」
目覚めきれていない姉のほうばかり見る少女に言い、自分の背に乗せる。
「魔性を開放しないまま離れるのは不本意だけど。頼んだよ、斉民」
「ふぅ、仕方ないね。起きたばかりで悪いけど、全力で走って」
深いため息をついて立ち上がり、町娘の手を握る。
まるで状況が分からない彼女は頷くしかなく、言われるがままに斉民についてく。
不可視の者たちは大声を上げながら彼らを追うが、時の宝石の力に敵わず見失ってしまった。
斉民が仲間と共に一輝たちと合流した頃には疲弊しきりっていた。
「ごめん、少し休ませて…」
「ありがとう。ごくろうさま、斉民。さて、粗方ジュディさんが、校長に報告してくれていたし。ここら辺でもう一度、報告しておくかな」
弥十郎は携帯を開き、“町中でボコールたちの存在を確認しました。町の人の誘導のため、彼らの位置、人数を探知しようと思います。”とメールを送った。
「といっても回復してもらってからじゃないとね」
これ以上パートナーに無理させられないし、今は回復に徹してもらうしかなかった。
「やたらと動くべき状況ではないな」
アーリアの力を使い過ぎたエースも、精神を疲労しきっていた。
「あの、…あげたくないけど。マイマスターのためよ」
メシエの顔を見ずに、ツンとした態度で香水を渡す。
「大切に使わせてもらうよ」
「ふん、当たり前でしょ!」
素直ではないが悪い子でもないか…と小さく笑う。
「(しかし、見せしめだけで町を襲うかな)」
今回のような報復でなく、災厄を復活させて真っ先にエリドゥを消す理由はなんなのか。
ふと疑問に思ったメシエは低く屈み、 姉とべったりくっついている少女に話しかける。
「ところで小さなお譲さん。この辺りに、古い建造物とかはないかい?」
「…知らない」
小さな娘はかぶりを振り、姉を見上げた。
彼女の方も聞いたことがなさそうな顔で首を傾げた。
「(特に、狙うべきものはないということだろうか)」
単なる見せしめとして手近なここを襲う気なのか。
大きな力を手にしたならどこかで試したくなる。
ただ、それだけのことらしい。
「本当に破壊欲のためかな。エース、君はどう思う?」
「うーん…。セレアナさんたちと合流する前に、道の草たちにそれとなく聞いたけど。人を狙ったり、破壊目的ばかりらしいよ。可視の相手の行動のみしか彼らも見えないから、そこまでしか分からないな」
「ふむ。どちらにしろ、放置できるものではないね。それと…いつの間にやら、3人を見かけないのだけど」
先程まで何やらせっせとと組み立てていた一輝とプッロ、2人の傍にいたコレットがいなくなっていた。
「トンネル設置に行ったらしいな」
「―…ほう。まぁ、ボコールの探知をできる者が2人いるからよいけどね」
避難してきた人々を放って人員を分割するわけにもいかず、待っているほうがよいかと小さく息をつく。
一輝たちのほうはトンネル設置の作業に入り、掘った砂の上に通路を転がし落としている。
「もっとピッタリくっつけるんだ一輝。隙間があると、そこから砂が入るぞ」
「うぅ……っ」
掘った砂の上に降りた一輝は、力いっぱいトンネルを押してくっつける。
予想以上に重く、二人だけではかなりの重労働だ。
砂は山のように宿の中へ捨ててあり、後のことを考えるとずっしり疲労感が襲ってきそうで、見ないようにしている。
「わぁ〜、片付け大変そう」
コレットはというと魔性祓いを担うため、肉体労働は一輝とプッロに任せて待機の状態だ。
「もう少しで完成だ、…くっ!」
境目の銅版の蓋を外し、宿の床へどっかりと置く。
「はぁ、はぁ…。トンネル造りがこんなに大変なものとはな」
「知識と技術、両方必要だということだ。本来、しっかりしたものは数日必要だぞ、一輝」
簡易のものだから長く持つものではないとプッロが言う。
「出口のほうは大丈夫だろうな?」
「あぁもちろん」
念のため連中に見つからないように、出口のほうは迷彩塗装を施しておいた。
町の人々を誘導するべく集合場所へと戻る。
「順番に並んで、喋らずに進んでくれ」
静かに呼びかける一輝の声に、彼らはおどおど怯えつつトンネルへと入っていく。
「オヤブン、歩いてると見つけられる可能性が高くならない?」
「んー、確かにな。…皆、走って進んでもらえるか。ただし、前の人を押したりなどはしないように」
大人1人余裕で通れるが2人だとスペースがきつく、騒がずに1人ずつ走るようにと促す。
「そんなに長く造ってはいないから、もうすぐ出口のはずだけど。なんだか、かなり遠く思えるな…」
プッロのヘルメットのライトで僅かに先が見えくらいに思え、造った出口が遥か遠くに感じた。
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