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リアクション
プロローグ
「どうです? 瑛菜さん。私、ちゃんと覚えていますよね?」
ニルミナス。ウエルカムホームと呼ばれる契約者の拠点にて。ミナホ・リリィ(みなほ・りりぃ)はこの一年の思い出話を終えてそう言う。
「……ま、そうだね。あんたがあたしらのことをちゃんと覚えてるのは確認したよ」
ミナホの言葉を受けて熾月 瑛菜(しづき・えいな)は少しだけ割り切れない様子でそう返す。
「? 瑛菜さん?」
「うん。そうだね。ミナホちゃんがアテナたちのことをちゃんと覚えてて安心したよ」
アテナ・リネア(あてな・りねあ)も瑛菜に続けてそう言うが、言葉に反して少しだけ寂しそうだ。
「……っと、そろそろいかないといけないかな。アテナ。そろそろ行こうか」
「うん。他にもいろんなところを回らないといけないもんね」
「そんなに忙しいんですか? でしたら今日じゃなくても正月が終わった後にでも来て頂けたらよかったのに」
あんまりお構いできなくて申し訳ないとミナホはそう言います。
「ま、正月の途中か正月が終わった後にも顔出すと思うよ。……でも、今日しか守れない約束だったからね」
「はい? 私、なにか約束をしていたでしょうか?」
「ううん。ミナホちゃんとの約束じゃないよ」
そう言って瑛菜とアテナは立ち上がる。
「それじゃね。リリィ。おめでとう」
「うん。リリィちゃんおめでとう。またね」
「? おめでとうって……何の話ですか? それにリリィって……」
ミナホの疑問に瑛菜とアテナは寂しそうに微笑むだけで答えない。手を振って部屋を出て行く。
「……何か祝われるようなことあったでしょうか?」
ミナホにはそれが何か分からなかった。
「瑛菜おねえちゃん……良かったの? 何をお祝いしたのか伝わってなかったみたいだけど」
「いいんじゃないか。あたしらが前村長に頼まれたのは誕生日を前村長の代わりに祝うこととリリィって呼ぶことだけ。……それ以上は少し辛いよ」
「……前村長は自分が死ぬって分かってたのかな?」
「さあね。あの男がいつから死のうとしてたかは知らないけど。少なくともあたしらに頼んだ時から死にたがってたのは確かだよ」
こうして考えてみれば前村長が死にたがっていた合図のようなものはあった。けれど、いつも飄々としているあの男の態度とその合図は繋がらなかった。
「とにかく終わったことさ。あたしらにはもう後悔しかできない。……後悔するのが嫌なら先に進むしか無い」
「……うん。そうだね」
そう言いながらも瑛菜は後悔する。前村長のことをもっと信じることが出来たなら。なにか違った結末に辿りつけたのではないかと。
瑛菜とアテナはこの村ではまだ先に進むことが出来そうになかった。
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