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学生たちの休日13+

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学生たちの休日13+

リアクション

    ★    ★    ★

「あら、お帰りなさい。また朝帰り? で、今度のお相手はどうだったの?」
 マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)が、なんだかぼーっとした感じで帰宅した水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)に訊ねました。
「んっ……、な、感じ……」
 その気のない返事に、マリエッタ・シュヴァールが、またはずれだったのねと察します。
「あれ、首にキスマークついてる……」
「えっ、えっ!?」
 マリエッタ・シュヴァールの言葉に、水原ゆかりが、あわてて鏡で自分の首を確認しました。
 それを見て、マリエッタ・シュヴァールがおかしそうに笑います。
「からかったわね」
 水原ゆかりが、ぺしりとマリエッタ・シュヴァールを叩きました。
「いいじゃない。淋しいお留守番の、ちょっとした楽しみよ」
「悪かったわよ。放っておいて。おわびに、なんでもつきあうから」
「じゃあ、せっかくのバレンタインだし、チョコでも作りますか」
 マリエッタ・シュヴァールの提案で、二人はチョコレートケーキを始めることになりました。どうせ暇潰しなのですから、なんでもいいのです。
「実は、材料は買ってあったのよ」
 そう言って、マリエッタ・シュヴァールがキッチンに積みあげられたチョコレートを水原ゆかりに見せました。それを見て、間にあってよかったと水原ゆかりがホッとします。マリエッタ・シュヴァールだけに任せていたら、キッチンがどんな惨状になったかは想像もできません。
「じゃあ、ザッハトルテでも作りましょうか」
 そう言うと、水原ゆかりがテキパキとケーキ作りを始めました。マリエッタ・シュヴァールには、極力アシスタントに徹してもらいます。水原ゆかりだって、食べられるケーキを作りたいものです。
 レシピを確認しながら、ほとんどは水原ゆかりが作っていきます。マリエッタ・シュヴァールには、チョコレートの粉砕とか、無難なところだけ任せるようです。
 湯煎したチョコレートを混ぜたスポンジケーキを焼き上げますと、アプリコットジャムを塗った上に、作っておいたフォンダンショコラをかけて完成です。
「できたー? じゃあ、私、味見担当ね」
 待ち構えていたマリエッタ・シュヴァールが、フォークを片手に言いました。
「ふふふふ、甘いわね。作っている途中で、すでに味見は済ませているわ」
 勝ち誇ったように、水原ゆかりが言いました。
「ふふふふふ……。材料の段階で、すでに囓っているのよ」
 私の勝ちだと、マリエッタ・シュヴァールが答えました。
 ともあれ、二人一緒のティータイムの始まりです。

    ★    ★    ★

「ふう、楽しかったわね。お土産もたくさんもらったし」
「あ、ああ……」
 ヴァイシャリーからの鉄道からヒラニプラ駅に降り立ったルカルカ・ルーが、たくさんの紙袋を手に提げて言いました。
 ダリル・ガイザックもたくさんの紙袋を持っていますが、こちらは、留守番のパートナーたちのために買ってきたヴァイシャリー産の駅弁です。
 それにしても、なんだかダリル・ガイザックの様子が、少し落ち込んでいるようにも見えます。
 それもそのはず、せっかくの工芸菓子でしたが、食べないお菓子はお菓子ではありませんわと言うラズィーヤ・ヴァイシャリーによって、あっという間に分解されて見学者に配られてしまったのでした。お土産に渡されたチョコレートの入った紙袋には、ハートマークの中に填め込まれた静香の写真が印刷されています。さすがはラズィーヤ・ヴァイシャリー、手回しのいいことです。
「まあまあ、せっかくだから、食べてみる? はい、あーん」
 紙袋を一つ開けると、ルカルカ・ルーが、でっかいチョコレート板をダリル・ガイザックに差し出そうとしました。
 パキン!
 その大きなチョコレート板が、突然粉々に砕け散ります。
「ふっ、リア充、許すまじであります」
 ピルの屋上に身を潜めた葛城吹雪が、スナイパーライフルのスコープをのぞきながらつぶやきました。
「何? またぞろ、バレンタインのリア充を逆恨みした秘密結社のテロ?」
 さすがに、ルカルカ・ルーが身構えます。
「哀れな連中だな。かといって、放置することもできないだろう。近くの団員に警告を発した方がいい」
 ダリル・ガイザックが、ルカルカ・ルーに進言しました。
「さすがに、もう動いているとは思うけど。情報は大事よね」
「その通りだ」
 ルカルカ・ルーの言葉に、ダリル・ガイザックが実感を込めてうなずきました。

    ★    ★    ★

「ぐあああ、どこからや!?」
 後でメルヴィア・聆珈に渡そうと買っておいたチョコレートの入った紙袋を撃ち抜かれて、瀬山裕輝が悲鳴をあげました。
「何? 面白い。ちょうどいい暇潰しね」
 楽しそうに、メルヴィア・聆珈が目を輝かせます。
 あちこちで、チョコレートが狙撃されているらしく、悲鳴をあげるカップルの回りで市内警備の教導団員が走り回っていました。
「狙撃地点を絞り込め! 何? 近くを試験飛行している機があるだと。命令下におけ。上空から索敵させろ!」
 部下たちにむかって、ジェイス銀霞が細かく指示を飛ばしていました。

    ★    ★    ★

「いきなり実戦か」
 鳳凰に乗った朝霧垂が、面白そうにつぶやきました。
 指示された狙撃予想ポイントを、順に索敵していきます。
「見つけた!」
「見つかったでありますか!?」
 コックピットの中の朝霧垂と、ビルの屋上にいた葛城吹雪が同時に叫びました。
 あわてて逃げようとする葛城吹雪にむかって、ホバリング状態の鳳凰が、マウイセを横に振って素早く機首をむけました。同時に、葛城吹雪にむかって超電磁ネットを発射しました。みごとに、命中して葛城吹雪を捕縛します。
「うぎゃああ、もはやこれまでであります。しかーし、いくつかのチョコは粉砕したであります。我が嫉妬に一片の悔いなーし!」
 そう叫ぶと、葛城吹雪がばったりと倒れました。
「ようし、あそこだ。確保!」
 ジェイス銀霞の指示で、多くの者たちが葛城吹雪のいるビルにむかいます。当然、チョコレートを粉砕されたカップルたちも一緒です。
 はたして、葛城吹雪は生き残ることができるのでしょうか。