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【ダークサイズ】謎の光の正義の秘密の結社ダークサイズ 壱

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【ダークサイズ】謎の光の正義の秘密の結社ダークサイズ 壱

リアクション


「おー、マジで瓜二つだなぁー」

 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が、上空のアナザ・ダイダル卿の本体から彼らを見下ろすアナザ・ダイソウトウを見上げる。
 その隣では、膝をついたダイソウ トウ(だいそう・とう)に手を当てて、五月葉 終夏(さつきば・おりが)が【金色の風】で傷の回復を試みる。

「ダイソウトウ、大丈夫?」
「すまぬ」
(たった一撃で、こんなに傷ついてるなんて……)

 終夏は、アナザ・ダイソウトウから受けたダイソウの傷の深さに驚く。
 ダイソウの傷がほぼ完治したのを見て、アキラはアナザ・ダイソウトウを見上げる。

「おーい、アナザーさんよー。ザーさん聞こえるー? ちょっと聞きてーことあんだけどさぁ」
「フン……こちらの者は、上に立つ人間を敬うことを知らぬようだ。まあよい。今世の思い出に答えてやる」
「そういう言い方、イラつくけど悪人としてはいーんじゃねーの? あのさ、そっちの秋野 向日葵(あきの・ひまわり)、俺らからしたらアナザ・向日葵はどーしてんのよ? そっちのを娶れば万事解決じゃね?」

 異なる時間軸に存在する別の世界。
 そちらに別のダイソウトウがいるなら、別の向日葵も存在してしかるべきだ。
 アキラは一応、穏便な解決を試みる。
 しかし、アナザ・ダイソウはアキラを小馬鹿にしたような失笑を漏らし、

「まあ、知らぬもの仕方あるまい。結論から言えば、秋野向日葵は存在せぬ」
「え!? あたし、いないの!?」

 アキラの代わりに、向日葵本人が驚いてそう言った。
 アナザ・ダイソウは向日葵に目を移して言葉を続ける。

「全ての時間軸に、同じものが全て存在しているとは限らぬ。異なる時間軸の世界全てに、各々何かしらの『欠損』を持っている。私の時間軸には、『イコン』と『秋野向日葵』が欠損していたというわけだ。そちらの私には、悪のリーダーとしての『能力』が欠損しているようだがな」

 アナザ・ダイソウは、ダイソウと違ってかなり傲慢な性格を有しているようで、説明ついでに相手を貶める言葉を吐く。
 アキラはそれは気にせず、今度は向日葵に、

「向日葵的にはどうなのよ?」
「え、何が?」
「思い切ってザーさんに嫁いじゃえば?」
「はあー!? やだよ!」
「だってよ、あいつの嫁になったらニルヴァーナ征服は確定だぜ? 空京放送局で上司にへーこらしなくていいし、ゆくゆくはニルヴァーナの女王じゃん? 未来が約束されてるなんてすごくね?」

 確かにアキラの言う通り、向日葵がアナザ・ダイソウに嫁ぎイコンを渡せば、秋野ひなげしが持ってきた写真の通り、ニルヴァーナをダークサイズ(アナザ・ダークサイズ)が征服することは間違いないだろう。
 ひなげしは写真を見つめてつぶやく。

「俺の未来でニルヴァーナを支配したのは、アナザ・ダークサイズだったのか……」

 向日葵は首を横に振る。

「ないないないない! だいたいおじさんに興味ないしダイソウトウのせいであたしの人生めちゃくちゃだし、それにあっちのダイソウトウってばすっごいヤな性格っぽいじゃん! 女王様になったって、絶対幸せになれないよー!」

 アナザ、とはいえ、向日葵としてはダイソウトウは自分の人生を脅かした敵なのだ。
 異性として見るなど論外、といった感じで向日葵は拒否する。
 アキラはそれを聞いてこくりと頷き、

「おっけ。なら俺たちの立場も決まりだわ。向日葵は渡さねー。こっちのダイソウトウは守る。イコンも守る。で、あんたをぶっ倒す。こんなに同時にやらなきゃならねーってのは、幹部の辛いとこだね」
「なかなか威勢は良いようだ」

 アキラの宣言に、ダイソウは余裕の笑みを浮かべたままだ。
 アキラはまた向日葵を向き、

「しっかし向日葵、お前もやるねえ。地位と権力より人外との愛を取るとは」
「え、何のこと?」
「そんなにスライムスク水がいいのか。そうかそうか」
「ちょ、あれはちが……」

 ずっと以前のことだが、向日葵はスライムでできたスク水で弄ばれたことがある。
 いや、純潔は守られているのだが、スライムとの愛を深めただの、ひなげしは向日葵とスライムのあいの子だの、さんざんな目にあっている。

「そういうわけで、向日葵はスライムと相思相愛。こんな立派なお子さん(ひなげし)までこしらえた! 言っとくが、お前の入り込む余地はすでにないんだぜ!」

 アキラはそう言って、びしりとアナザ・ダイソウに人差し指を向ける。
 そんな精神攻撃のダメージを受けるのは、アナザ・ダイソウではなく向日葵ひなげし母子である。

「な、何言ってんだあんたー! 何で俺の半分はスライムでできてるんだよ!」
「冗談じゃないわよ!」
「そうだぜ! 冗談じゃねえぜ!」

 二人と同じようにアキラにクレームをつけるのは、ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)

「何を隠そう! ひなげしは俺様の子! スライムはおろかアナザ・ダイソウトウも、お呼びじゃねーんだぜ!」
「お前もないわあー!」

 向日葵が、脊髄反射でゲブーのモヒカンをグーで殴る。
 しかしゲブーはすぐさま顔を上げ、向日葵の両肩をつかむ。

「おっぱい、いや、向日葵!!」
「は、はい……」

 ゲブーの真剣な声と目の強さに、向日葵は思わずぎょっとしてゲブーを見る。
 彼は今までにない真剣なまなざしで向日葵を見つめながら、

「いいか。てめーが奴と結婚したら世界が終わりなんだぜ。これまでみてーに俺様をぶん殴ってる場合じゃねー。ま、照れ隠しだってことは、十分わかってるけどよー。でもよ、いいか向日葵。今日ばかりは俺様も真剣なんだぜ。今日も俺様をぶん殴ってるようじゃ世界は……終わる!」
「ううっ……」

 向日葵はなぜかすっかりゲブーの勢いに飲まれている。

「てめーがひなげしを産むっていう未来は決まってるようだぜ。だが幸い、ひなげしの父親が誰かっていう未来は確定してねえ。つまり、てめーの選択でひなげしの父親が決まるってことだぜ。ひなげしをアナザ・ダイソウトウの子供にしちまっていいのか?」
「たしかに、それだけはヤだな……」
「ひなげしを守るためだぜ。向日葵、こいつを薬指にはめろ」

 と、ゲブーが【きれいな指輪】を向日葵に見せた。

「こいつを向日葵の薬指にはめる! そしてもう一つの指輪を俺様の薬指にはめれば……」

 ゲブーは指輪を向日葵の指にはめ、もう一つのきれいな指輪を取り出すと、自分の薬指にはめようとする。

「これで俺様と向日葵の結婚は確定だぜ……こいつをつけたら、さっそくおっぱいのおっぱいを堪能した上で合体! ひなげし作りに励むこととするぜーっ!」
「だめえーっ!」
「うげーっ!」

 ゲブーと向日葵の結婚が成立する直前、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)のアッパーカットがゲブーのあごに炸裂した。
 さらに宙に浮いたゲブーを、アナザ・ダイソウが放った波動がゲブーを直撃する。

「ほげえーっ!」
「こわっぱが! 我が妻を汚すことは許さぬ」

 ゲブーが吹き飛ばされ、彼がはめ損ねた指輪が地面に転がる。
 ノーンが向日葵の胸をぽかぽか叩きながら、

「ばかばか! サンフラワーちゃんのばかあー。やけくそになっちゃだめじゃないー!」
「はっ! あ、危なかった……」

 と、向日葵も我に返る。

「はいっ」

 そしてノーンは、いつものごとく御神楽 陽太(みかぐら・ようた)からの手紙を差し出す。
 向日葵が手紙を広げる。

向日葵さん、お元気そうでなによりです。
今回も向日葵さんに危機が迫っていると聞き、ノーンを送ります。
ダークサイズが正義の味方になったとも聞き、そちらには正直驚いています。
俺の『野生の勘』(スキルではない)は、ひなげし君は君とダイソウトウの子だと言っています。
が、そうなるためにも、君を守り切らなければなりません。
ともあれ、ノーンのスキルは君を守るのに役立つはず。無事をお祈りしています。
P.S.妻との間に娘が生まれました。
妻によく似て世界で一番の美女になりそうです。あ、一番は妻ですが
で、娘ははいはいするときに……


 陽太の手紙は本文より追伸がその数倍も長くなっている。
 ともあれ早速ノーンは【聖獣:エンゼルヘア】を召喚し【幸運のおまじない】を使って、向日葵の手を引っ張る。

「サンフラワーちゃんはあっちのダイソウトウちゃんに捕まったら大変だから、今は逃げなきゃダメだよ」
「で、でも」
「いや、ノーンの言うことはもっともだ。サンフラちゃん、行くがよい」

 ケガから回復したダイソウが言った。

「サンフラちゃんを奪われるということは、我々のニルヴァーナも奪われるということだ。それだけは避けねばならぬ」

 向日葵がダイソウの言うことを理解してノーンと逃げようとする。
 しかし、アナザ・ダイダル卿の上からそれを見ていたアナザ・ダイソウ。

「妻よ。私から離れることは許さぬ」

 アナザ・ダイソウは向日葵の行く手を阻むついでに、地上のダークサイズに向けて、続けざまに手から波動を放つ。

「きゃああ!」
「どわー! むちゃくちゃだぜあいつ!」

 まるで連射されたミサイルが着弾するように、そこここで爆発が起こり、岩岩がはじけ飛ぶ。
 それが戦闘開始ののろしとなって、アナザ・ダイソウが率いるモンスターたちがひしめき合ってアナザ・ダイダル卿から飛び降り始める。
 飛んだ岩の破片が、流れ弾となって向日葵を襲う。

「きゃあ!」
「サンフラさん、危ない!」

 キャノン モモ(きゃのん・もも)が向日葵を突き飛ばし、代わりに岩をまともに食らってしまった。

「ううっ……」
「も、も、も……モモちゃああああああああん!!」

 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が取り乱し、モモに駆け寄る。
 レティシアが抱き上げると、モモの頭から血が流れている。

「モモちゃん! 大丈夫ぅ!?」
「……」
「モモちゃん! モモちゃぁん!」

 ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が急いで【命の息吹】をモモにかける。

「モモさん! 当たり所が悪かったのね。重傷だわ」
「ミスティ……モモちゃんをお願いしますねぇ」
「レティ……?」

 ミスティが、立ち上がったレティシアを見上げる。
 レティシアはアナザ・ダイソウを見上げながら、

「光だの闇だの正義だの悪だのはどっちでもいいんですよぉ。面白ければねぇ。あちきは混沌の守護者ですしねぇ……ふふふ」

 と、彼女は乾いた笑いをもらす。

「まぁ、シリアスなんてものは、ダークサイズの邪魔でしかないのですよぉ? あっちのパチもんはそれを分かってないようですねぇ。そういう空気読めないちゃんはぁ、速やかに消えてもらいましょうねぇ。どの道モモちゃんに手をかけた罪は万死に値しますよぅ」

 にっこりと笑うレティシアを見て、ミスティの背筋に悪寒が走る。

(本気で……怒ってる……!)

 走りだしたレティシアと同様に、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)和泉 真奈(いずみ・まな)イシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)がアナザ・ダイダル卿の上を目指す。
 ミルディアがダイソウの手を引き、まずはアナザ・ダイダル卿の真下まで連れてくる。

「とりあえずここなら、直撃はしないよね」
「ううむ、予想以上の攻撃力だな」

 と、いつも通り全く表情には出ないものの、アナザ・ダイソウの力に辟易するダイソウは、真奈に言う。

「で、やつの攻略はどうするのだ」

 真奈は専門分野の解説に、きらりと目を光らせる。

「【根回し】は上々ですわ。すでにイコンの守備、向日葵様の護衛、モンスターの排除。布陣は展開済みですの。あなたと共にアナザ・ダイソウトウを攻撃する方々は移動を開始。上空へ上る術がない方はわたくしの【小型飛空艇】でピストン輸送が可能ですわ」
「てりゃあああああ!」

 作戦会議のすぐ後ろで、さっそく襲ってくるモンスターに、【龍の咆哮】を放つミルディア。
 イシュタンは両腕を振ってミルディアたちをせかし、

「ねーねー! 早く行こうよっ。私たちの攻撃がほんとに効かないのか、試してみたいんだよぉ〜」

 と、危機感どころか興奮しているようだ。
 真奈は軽くため息をついて、

「よろしいですか? 作戦には順序というものがあって……」
「じゃ、先に行ってるねー!」
「ちょ、わたくしの飛空艇!」

 真奈の説教も聞かず、イシュタンは真奈の飛空艇で先陣を切って上空へ飛んでいく。

「まったくもう!」



★☆★☆★



 アナザ・ダイソウは一体どれだけのモンスターを手なづける能力を持っているのか、数だけで言えばダークサイズ側が多勢に無勢となるほどの化け物どもが襲ってくる。
 モンスターたちの使命は、ダークサイズを攻撃し、イコンを見つけ、そして向日葵を回収すること。
 ノーンが幸運スキルを使って向日葵に隠れ場所を作ってあげるが、それにも限度がある。
 向日葵とノーンの上から、咆哮が聞こえる。
 二人が顔を上げると、『空の帝王』が見下ろしている。
 鳳凰のような鳥形モンスターが、すでにその目に向日葵を捉え、鋭い爪のついた足を開いて向日葵を捕まえようと猛スピードで高度を下げてくる。
 その空の帝王の軌道を、何者かがこれまた猛スピードのキックで蹴り飛ばして逸らす。
 空の帝王は勢いをそのままに地面に墜落した。

「情けないったらありゃしない! それでも魔法少女のはしくれなのっ?」

 空の帝王を蹴り飛ばした後、藤林 エリス(ふじばやし・えりす)はすぐさま向日葵を一喝した。
 【空飛ぶ箒シュヴァルベ】を駆る彼女は、【魔法少女戦闘服】【魔法少女コスチューム】【魔法少女コスチュームS】と、これでもかといったほどの魔法少女である。
 エリスは一応は魔法少女となった向日葵に、上から目線で、事実上から言う。

「魔法少女は愛と正義と平等の名のもとに! 敵に毅然と立ち向かってこそでしょ? それをなあに、あんたったらこそこそ逃げてばっかり!」
「そ、そんなこと言ったってぇ〜……」

 向日葵の事情を鑑みると、逃げの一手になるのは仕方ないが、エリスにはそんなことはお構いなし。

「さあ! 武器を手に戦うのよ!」
「でもあたし、魔法少女の戦い方とかよくわかんない……」

 向日葵の魔法少女化はダークサイズたちの無茶ぶりの結果のようなもので、変身能力は手に入れたものの、戦闘方法はよくわからない。
 直後、彼女たちの後ろから、先ほど聞いた方向と、がれきを破壊する音がした。
 空の帝王と呼ばれるだけあって、エリスの蹴り一発では死にはしない。しかし帝王たるプライドはズタズタなようで、顔を土で汚された怒りは並大抵でないことは、その燃えるような瞳を見れば容易に察することができる。
 敵に不足なし、とエリスは自信に満ちた笑顔を敵に浮かべる。

「行くよサンフラワー! 魔法少女は誰にも守ってもらえない。自分で道を切り開くしかないんだから!」
「うぅ〜……わ、わかったよー!」

 追い込まれてからようやく覚悟を決めるのが魔女っ子サンフラワーである。
 向日葵は逃げ隠れるだけではなく、戦う覚悟を決めた。
 向日葵はノーンを後ろに隠して落ちていた棒を拾い、エリスの隣に並んで言う。

「じゃ、じゃあいくよ!」
「待って!」
「な、なに?」
「その前に、変身と……決め台詞よ!」

 言うが早いか、エリスは【アルティメットフォーム】で究極変身。体の均整は美しさを増し、スキルの演出効果なのか、きらきらと輝きがエリスを包む。

「愛と正義と平等の下に! 革命的魔法少女レッドスター☆えりりん!」

 エリスは名乗った後にくるんと一周回り、

「人民の敵は粛清よ!」

 ものものしい単語を満面の笑顔で言い放つ。

「エクストラ・リフォーメーション!」

 と続いて向日葵も叫んで変身。

「燦々サンフラパワーであんたの暗闇、きれいさっぱりアレしてやるわ!」
 
 と、久しぶりながら曖昧な決め台詞である。
 さらに、向日葵と反対のエリスの隣に、キャノン ネネ(きゃのん・ねね)が降り立った。

「わたくし、囚われの美少女戦士、セクスィーネネですの。助太刀させていただきますわ」
「ちょ、急になんなのよ! あんたみたいなのがいたらあたしが目立たなくなるじゃないの!」

 エリスはネネの豊満ボディを見上げて文句を言う。
 ネネは笑みを浮かべたまま、

「だってヒマだったんですもの。それに……わたくしのモモさんを傷つけられて、黙っているわけにはいきませんわ」

 空の帝王は両の翼を大きく広げ、威嚇の咆哮を上げて立ち上がる。
 まずネネが持ち前の戦闘能力を披露する。
 彼女はすばやく飛び出して勢いをつけ、自前の扇子を一つ投げた。
 高速回転しながら迫ってくるそれを見て、空の帝王はただの扇子ではないことを本能で見抜き、扇子を払わず上体を横にずらして避ける。
 空の帝王がかわした扇子は、後ろの岩に金属音を立てて突き刺さる。
 扇子で目をそらしたスキにネネは空の帝王の足元に迫り、もう一つの鉄扇で思い切り切り上げる。
 不意打ちで足を切られた空の帝王は、思わず悲鳴を上げて上空へ飛び上がった。

「ナーイス! あたしの引き立て役に回ってくれるわけね。あんた悪くないわ!」

 空の帝王は、自分を傷つけたネネに向かって、【フレア】を地面に向けた放った。
 ネネは向日葵を抱えて急いで距離を取る。
 だがその隙に、エリスはシュヴァルベに跨って空の帝王を追ってすでに空を舞っていた。
 彼女はシュヴァルベの高速性能を生かして、空の帝王の周囲を回ってその視界をかく乱する。
 空の帝王はいまいましげに頭を動かし、コバエを追うように翼を払ってエリスを叩き落とそうとする。

「まずはあいさつ代わりの……【シューティングスター☆彡】!!」

 エリスは、あいさつ代わりとは名ばかりの強力魔法をいきなりお見舞いする。
 星のようなものが次々と落下し、空の帝王を直撃する。
 攻撃と同時に星のようなものの大量落下で、エリスの行方を見失った空の帝王。
 頭を振り、いまいましい敵の姿を探す。

「あら、あたしをお探し? ここよーっ!」

 シューティングスター☆彡を隠れ蓑に空の帝王の頭に乗り移っていたエリス。

ギャアアアアアーッ

 鋭い悲鳴を上げる空の帝王の右眼から鮮血が噴出した。
 そこにはエリスが打ち下ろした【まじかる☆くらぶ】が突き刺さっていた。
 返り血を顔に受け、舌で口の端を舐めるエリス。

「見せてあげるわ。愛と正義と平等の、【古代シャンバラ式杖術】を!」

 目を潰されて、もはや空の帝王のターンはない。
 シャンバラの魔法少女に二の杖無し。一撃必殺の杖術は、視界を失った右側の翼に炸裂した。
 空の帝王は左の翼で必死に高度を保とうとするものの、感覚を失った右の翼に引っ張られ、降下し始める。
 空の帝王は、【アクロバット】でエリスから逃れようとするが、彼女はその隙を与えない。
 すばやくシュヴァルベに戻ったエリスは、人差し指を天に向けた。

「もがくのはいいから、とっとと焼き鳥になってよね!」

 とどめは【さーちあんどですとろい】。
 エリスが指を振り下ろして下を指すと、業火が空の帝王を襲う。

「おーっほほほほほ! おーっほほほほほ!」

 断末魔の声を上げながら火だるまになって落ちていく空の帝王を見下ろして、エリスは勝利の高笑い。
 そして地上へ降りてくると向日葵に胸を張る。
 向日葵は焼ける空の帝王を見、

「えりりん……えぐすぎ……」
「どーお? これが本物の魔法少女の力よ。てゆーかあんた、なんにもしてないじゃない!」
「だって、あたしが出る幕なかったじゃん……」
「まぁそうね。強すぎるって罪だわ。最後の仕事くらいは一緒にさせてあげる。じゃ、食べるわよ」
「は!?」

 目を丸くする向日葵をしり目に、エリスは【スイーツ魔法少女コスチューム】に着替え、

「後で美味しく頂きました、までが戦闘よ☆ 祝勝会に鳥のフルコースよー♪」

 エリスはご機嫌に、ウェルダンに焼きあがっていく空の帝王へ向かっていく。
 向日葵はネネを見上げ、

「ほんとに……食べるの?」
「お肉なら赤ワインですわね。ダイソウちゃんたちへの差し入れにもちょうどいいですわ」
「ええー……」

 エリスを追うネネを、向日葵は額に汗を一筋たらしながら見送った。