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春もうららの閑話休題

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春もうららの閑話休題
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                    ☆


 なーんちゃって!! 私達のながーい冒険譚はまだまだ続くのだ!!


「え? あれ!? 終わってないのかっ!?」

 何だかレイが驚いたような顔をしてるけど、こんなところで終わっちゃいられないよ!!

「何だかしみじみと終わったのではなかったのか!?
 今の今までちょっといい話っぽく纏めていたではないかねっ!?」
 すっかりうろたえちゃってるレイだけど、もうちょっとだけ続くんじゃよ!!


 なんたって閑話休題だからね、むしろこれからが本番さっ!!


「そんなバカな話があるかね!!」
「――イイ感じに突っ込んでる場合じゃないよレイ! あれを見て!!」

 そう、確かにレイの言うことも判るけど、この時ばかりは聞いてる場合じゃなかった。
 何しろその時、私は見たんだ。
 さっきまでぽっかり浮かんでいた満月が、少しずつ欠けていくのを。

「――月蝕!? いや、そんなハズは――」
 その風景には、さすがのレイも驚いたみたいで、さっき閉めたばかりの窓をもう一回開けて、外の様子を見たんだよ。
「……?」
 その時、かすかに獣の匂いがしたんだ。
 ポチやローくんたちとは明らかに違う……別な獣の匂いを。


 原因はすぐに判ったよ。だって、喋りだしたからね。
 何がって? あの月を欠いているものが、だよ。

 要するに、月が欠けてるんじゃなくて、その前に誰かが立っただけだったんだ。
 ――旅館の窓を多い尽くすほどの、巨大な誰かがね。推定15〜20mってところかな。


「よく寝たクマーッ!!!」


 そのクマの人はそう叫んで、気持ちよさそうにぐもももーっと背伸びをしたんだ。
「いや、あれはクマではなかろう、いくらなんでもデカすぎると思わないかねっ!?」
 レイはものすごく常識的な突っ込みをしてるけど、現実として目の前にあるものは受け入れて認めなきゃね!
 何しろ、本人(?)がクマって言ってるんだから間違いないよ!!

 あれは山のクマさん! はい決定!! たしかにちょっと大きいけど!!!

 でも、目が覚めたってことは冬眠明けなのかなぁ……? でもでも、この山って雪が降ってるのは今だけで、最近まではずーっと春だった筈だよね……? あれ、冬眠明けにはちょっと遅くないかな……?

「そんな細かいところはどうでもよかろうっ!?」

 確かにそうかもしれない。
 何しろ時期はともかく、冬眠明けのクマはお腹も減ってるし気も立ってるしで、とっても危険って聞いたことがあるからね!!
 ただでさえ危険なのに、あのサイズのクマさんがお腹をすかしたら、どのくらいのゴハンを用意したらいいのか想像もつかないよ。

 でも、そのクマさんの口からは意外な言葉が飛び出したんだ。


「寝起きの朝風呂としゃれ込むかいのーっ!!」


「……レイ、私、気付いたことがあるんだけど……」
「……何だね」
「普通、クマって喋らないよね」
「そこからか」
 今日何度目かのレイの突っ込みも、さすがに精彩を欠いてきたね。

「風呂の前には準備運動ーーっ!!!」
 するとクマさんは、やおら伸び上がって腰を前後にグラインドさせ始めたんだ!!
 そしてもうひとつ、不思議な現象が起こったんだよ。

「そ〜れ、俺様も準備運動〜!!!」
 山間に、突然こだまのように響き渡る男の人の声が!
 そして次の瞬間、巨大クマさんの隣に巨大な男の人の影が浮かび上がったんだ!!
 それは光輪をまとって、見ようによっては神々しくも見えるシルエットだった!!!

「はーっはっは!! 俺様、まるで神様みた〜い!!」
 そう言いながら、その男の人の影もクマさんに合わせて腰のグラインド運動を始めたんだ。
 でも、その声には聞き覚えがあったよ。
 あっちはきっと変熊 仮面さんだね。いつも楽しそうな人なんだ!!

「あれ……?」
 でも、私はまた気付いたんだ。
 クマさんも月を逆光で浴びているからシルエットでしか見えないんだけど……それに湯気や雲が出てきて、よく姿が見えないし……でも……激しく前後に動く腰の下あたりに、なんだかブラブラしてる影が見えるんだよね。

「ほ〜れほ〜れ、良く見んか〜い!!」

 何だか楽しそうにクマさんはその物体をブラブラさせているんだ。その物体から、雪解け水みたいなものが飛び散っているのが見えるよ。
 でも、その下にはたぶん誰かの家族風呂があるみたいで……女の人の悲鳴も聞こえるんだよね。


「何これ、キタナーイ!!」
「い、いい加減にしてくださいーっ!!」


 うん、確かに聞こえる。
 でも、場所からするとあれは両足の間からにょっきり生えているように見えるけど……なんだろう……腰にくくりつけたバナナかな……?
 あれ、でも……クマさんに比べて変熊さんのバナナはすごく小さいような……? なんだか可哀想……。


「見るなライカ、見てはならんっ!!」


 わ、何するんだよレイ!! 両手で眼を覆われたら何も見えないじゃないかっ!?


「ええい、ライカは見なくてよろしいっ!! あんなバカ騒ぎに付き合う必要はない、寝るぞ!!
 ――こんな本題があってたまるかっ!!!」


 な、なんだかレイが怒ってるからまた明日!!
 みんなも、こんな風にゆかいなことがいっぱい起こる、楽しいカメリアさんの春プンテ温泉に入りに来てね!!!


 〜ライカ・フィーニス『冒険記』より抜粋〜