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第四回葦原明倫館御前試合

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第四回葦原明倫館御前試合

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 空は雲一つなく、穏やかな風が頬を撫でていた。
 城下町の人々は、毎年、御前試合を楽しみにしている。恒例のイベントでありながら、明倫館の年間スケジュールに組み込まれていないのは、
「何が起きるか分かりませんから」(葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)談)
という理由である。
 確かにこの二年、葦原島は文字通りその根幹を揺るがす大事件に見舞われてきた。その後も、決して平穏だったわけではない。房姫にしてみれば、御前試合はハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)の余興にすぎないのだから、場合によってはやらずにすめばそれに越したことはないのである。
 だが、今年もちゃんと思い出した。この調子だと、なんやかや言いつつ、たとえ夏前だろうが冬だろうが、一年に一度開催しなければ、気が済まないのだろうと房姫は大きくため息をついた。


   審判:プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)(葦原明倫館)
「皆様、大変お待たせしました。これより、第四回葦原明倫館御前試合を開始いたします」
 公式審判であるプラチナムが、今回も例によってルールを説明する。そして今年もお約束通り「長えよ!」「早くしろ!」というツッコミや罵声が飛んできたが、意に介さない。
 心臓に毛が生えてるよな、と紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は思った。


 

一回戦


○第一試合
クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)(薔薇の学舎) 対 轟 平八郎(一般参加)

「師匠……このような大舞台で師匠と競えるのは、名誉です」
 轟平八郎は、城下で「天下一刀流」の看板を掲げている剣客だ。丁寧な教え方が評判で弟子もそれなりにいたのだが、ある時期現れた「髪斬り」――なお、その正体は宮本 武蔵(みやもと・むさし)に憑依された北門 平太(ほくもん・へいた)だったのだが、機密事項である――に髷を切られたことが原因で、危うく道場が潰れるところだった。
 クリスティーは、その道場に入門、剣の腕をこれまで磨いてきたのである。
「わはははは! わしに勝てれば免許皆伝をくれてやろう!」
「ほ、本当ですか!?」
「武士に二言はない!」
 平八郎は、クリスティーに木刀の切っ先を向けた。
 クリスティーはぶるりと震えた。恐怖ではない。興奮――武者震いと言っていいだろう。免許皆伝が欲しいわけではない。だが師匠に認められる――そのことが何より励みになる。
「始め!」
 プラチナムの合図で、二人は一礼し、木刀を構えた。
「天下一刀流、轟平八郎参る!」
「天下一刀流クリスティー、参る!」
 クリスティーは地面を蹴り、平八郎の喉元を狙った。だが平八郎は必要最低限の動きでそれを躱し、クリスティーの頭に木刀を振り下ろした。
「浅い!」
 プラチナムは試合の続行を告げたが、有効を取られてしまった。平八郎に一撃必殺の技がないことは、これまでの付き合いで分かっている。確実に勝つために、奥の手を出さねばなるまい。
「師匠! 御覚悟を!」
 クリスティーは【真空切り】を放った。だが、平八郎もさすが流派を構えるだけのことはあった。クリスティーが大上段に構えるや、素早く懐に潜り込み、鋭い突きを繰り出したのである。
「ぐうっ……!!」
 クリスティーの息が、一瞬止まった。そして気付いたとき、平八郎が心配そうに覗き込んでいた。
「大丈夫か?」
「し、しょ……」
 言葉は途切れ、声にならない。思わず咳き込んだ。
「すまん、つい強くやりすぎた」
 どうやら平八郎の突きが、クリスティーの喉に入ったらしい。クリスティーは笑おうとしたが、痛みに顔が歪む。
「……でん……」
「ああ。まだまだ、皆伝はやれんな」
 だろうな、とクリスティーは思った。だが、と平八郎が続ける。
「お主に頼みたいことがある。ワシは『天下一刀流』を世に広めたいと考えている。お主には、葦原島以外での道場を任せたい」
「えっ?」
「頼めるか? 一番弟子よ」
「は、はい!!」
 まだ痛む喉を押さえながら、クリスティーは精いっぱいの返事をした。

勝者:轟 平八郎


○第二試合
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)(シャンバラ教導団) 対 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)(シャンバラ教導団)

 中央に進み出た吹雪は、人差し指を突きつけ、こう言った。
「あんたは女はいるでありますか?」
「……は?」
「答えは!?」
「……いないが」
「そうでありますか、そちらも『こちら側』でありますね」
 意味が分からん、とダリルは腕を組んだ。
「しかし我が目的の為消えてもらうであります!」
 開始の合図と同時に、吹雪の周囲に黒い炎が漂い始める。
「【エンヴィファイア】か! させるか!」
 ダリルは組んだ手を解くと同時に、銃を抜いた。特性ゴム弾が吹雪の額に当たり、炎が消えていく。ダリルは続けて引き金を引いた。
「させないであります!」
 吹雪も狙撃銃を構える。二人のちょうど真ん中で、ゴム弾がぶつかり、弾け飛んだ。ダリルは更に激突を起こし、吹雪の額を狙う。
「これならどうでありますか!?」
 吹雪は狙撃銃を捨て、一瞬にして、着ていたものを脱いだ。滅多なことでは動じぬダリルも、これには驚いた。戦闘中に得物を捨て、服まで――。
 その一瞬を突き、吹雪は捨てた狙撃銃を蹴り上げた。
「しまっ――!」
 ダリルが我に返るも間に合わず、吹雪のゴム弾が彼の胸に当たった。
「一本!!」
 ここで時間切れとなり、共に二回戦進出となった。

引き分け