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魔女と傭兵と封じられた遺跡

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粛清の魔女


「アーデルハイトさん、もしも魔女と出会えたらどうするんですか?」
 アルディリス内で偶然アーデルハイトと出会い、粛清の魔女をさがすと聞いた非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)はアーデルハイトが彼女をどうするつもりなのかを聞く。
「ふむ……それを決めるために探しておるのじゃがな。お前らはどうあの魔女についてどう思っているのじゃ?」
「以前、一度お会いした事がありますけれど……育ちなのか? 天然なのか? そうでなければ心が保たなかったのか? 解りかねますけれど、無邪気な方でしたわ」
 アーデルハイトの質問にそう答えるのはユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)だ。
「無邪気のぉ……無邪気に力を振るう存在ほど怖いものもない気がするの。……お前はどうじゃイグナ」
「ふむ……気配が薄い人物であるのは確かなのだよ……いや、ないと言ってもいいのかもしれない」
 アーデルハイトの質問にイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)はそう答える。
「お前らしい答えじゃの。個人的にどう思っているのじゃ?」
 イグナにもっと聞くアーデルハイト。
「一言で言うならあまり的には回したくない相手ではあるのだよ」
「それはどうしてじゃ?」
「人を傷つけられないという呪いがあるとはいえ、守る立場として相手の気配が感じられないのはやりづらいことこの上ないのだよ」
 今もパートナーたちの守りをしているイグナらしい答えだ。
「気配もそうですが……あまり敵に回したくないというのはどう意見です。人を傷つけてはいけないという呪いがあるとはいえ、彼女を倒すのも捕まえるのも難しいでしょう」
 近遠はそう言う。
「なるほどの。その辺りも考慮に入れておくかの」
 アーデルハイトはそう言う。
「こちらも少し質問いいでしょうか? 衰退の力というのは繁栄の魔女が繁栄の力を借りずとも使えるものなのでしょうか?」
 そうでないなら魔女を捕まえるのが楽になるかもしれないと近遠。
「使えないの。借りた繁栄の力の分しか衰退の魔女はその力を振るえぬはずじゃ。少なくともミナスからはそう聞いておったのじゃ」
「それなら少しは楽かもしれませんね」
 ほんの少し安心する近遠。

「衰退の魔女さんは、その呪いを受け入れて……それが、本人の一部という様に、大切に想っておられるのかしら? それとも、解けるなら解放されたいと思っているのかしら?」
 探している中、なんとなくユーリカはそう疑問を口にする。
「それも聞いておきたいことじゃな」
 答えてもらえればいいがとアーデルハイトは思う。
「この跡は……もしかして粛清の魔女さんが物を消した跡ではございませんか」
 アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)は、不自然な消え方をしたオブジェクトを見つけてそういう。
「確かに、自然劣化では考えられない消え方じゃの」
「それに、つい最近消えたように見えるのでございます」
 消滅痕を触りながらアルティアはそう言う。
「これは……この先に行くのに邪魔だから消したのでございましょうか?」
 アルティアはそう仮定を立てる。
「もしかしたらこの先に……」
 アルティアの仮説にアーデルハイトは頷きその先へと進んでいくのだった。


「魔女さん出て来るのですわ〜!  出て来たら特別に、狙ってたスイカを分けてあげるのです。そろそろ食べ頃なのですわ!」
 粛清の魔女がいそうな部屋にアーデルハイトと一緒に入ったイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)はそう声を上げる。
「いや……イコナ。流石にそんなのに釣られる魔女じゃ……」
 ないだろうと源 鉄心(みなもと・てっしん)
「そんなことはないのですわ。だってラセンさんを狙ったのもスイカを食べるためだったのですわ」
「その事実は君の中だけで眠らせておくんだ」
 アーデルハイトがおかしそうに笑っているのを横目に見ながら鉄心は言う。少しだけ恥ずかしい。
「イコナ殿は相変わらずでござるな」
 その背に幼竜形態でおぶさるスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)
「スープ起きたんですの? さっさと降りるのですわ」
 粛清の魔女の探索が始まってからさっさとイコナの背で寝始めたスープにイコナは言う。
「拙者、ぷりんにさくらんぼをのせてあればしあわせでござる」
 そう言ってそのまま寝息をたてはじめるスープ。
「……このままここに捨てて行きたいのですわ」
 それくらいしても特に何も問題にしなさそうなのがスープだが。
「くすくす……別にスイカを狙った覚えはないのだけれど……もらえるなら貰いましょうか」
「……本当に出てきたの。なるほど、ミナスやミナホにそっくりじゃな」
 そう言って現れた粛清の魔女の姿を見てアーデルハイトは頷く。
「素直にスイカを狙っていると言ってもいいのですわ」
「それで? あなたたちは私に何か用かしら?」
 スルーされているイコナのことは置いておいて、鉄心は魔女の様子に違和感を感じる。
(前は二重に声がした気がしたが」
 まるで二人が同時に話しているような印象を粛清の魔女には持っていた。
「うむ。いろいろと聞きたいことがあるのじゃ」
「質問? わざわざこんなところまでご苦労様ね。……いいわ。答えられることは答えてあげる」
「感謝するのじゃ。……お前たちも質問があればしていいのじゃ」
「それでは……藤崎穂波という少女についてなにか知っていませんか?」
 鉄心はミナにそう聞く。
「当然知っているわよ。あの子とミナホを引きあわせたのは私なのだから」
「では、彼女が器の魔女と呼ばれる存在なのも?」
「ええ」
「……彼女がどうやって作られたかは知っていますか?」
「さぁ、詳しいことはわからないわね。私が知っているのはあの子はミナスの遺伝子を元に創られたってことくらい。何をどうしたらあんな存在になるかは知らないわ」
 ミナの答えに鉄心はやはりかと思う。穂波の容姿はミナホやミナと偶然というには似すぎている。
「どうしてラセンさん……ユニコーンの命を狙ったんですか?」
 鉄心の質問が一段落したところでティー・ティー(てぃー・てぃー)は聞く。
「そうね……それは二つの答えがあるのだけれど…………今の私が答えるなら、さっさとあの村から逃したかったからかしら。せっかくバイコーンからユニコーンに転生させたのに『私』に殺させたくはないもの」
「……まるで、自分が二人いるような言い方じゃな」
「そうとも言えるかしら。『衰退の意志』とともにある『粛清の魔女』と私は一緒だけど一緒じゃないわ」
「衰退の意志というのはなんなんですか?」
 ティーの質問。
「儀式の影響下にあるものを壊さなければいけないという意志かしら」
「では今は衰退の意志から離れて正気ということかの?」
「そうね……きっと私は壊れているかもしれないけど、狂気に冒されてはいないんじゃないかしら。今は比較的衰退の力が私の体に留まっていないもの」
「だから最近、村を襲っていないんですね」
「衰退の意志も今の力のたまり具合じゃ大したことが出来ないと分かっているからね。納得させるのも難しくないわ」
 逆を返せば、衰退の力が貯まればまた襲ってくる可能性が高いということだが。
「ミナよ……お前の願い、目的は何なのじゃ?」
「粛清の魔女としての目的は当然、ニルミナスとそれに関わるものの衰退。私ミナの願いは自分が死ぬこと。……あとはその時の気分ね」
「ふむ……死にたくとも死ねない……魔女の枷か」
 たとえ彼女自身が死のうと思ってもその枷により死ぬことは出来ない。
「できれば今私を殺してくれないかしら? 衰退の意志は反抗するでしょうけど、今なら殺すこともできるはずよ」
 それを特になんでもないことのように言うミナは彼女自身が言うとおり壊れているのかもしれない。
「……ミナさん。死ぬ前に、音楽学校の開校式イベントに行きませんか?」
 ティー。
「開校イベントね…………まぁ、別に行ってもいいわ。死ねなくて暇してるもの」
 ミナの言葉。
(……なんか同族の気配を感じたでござる)
 ミナから自分と同じ怠け者の気配を感じるスープ。
「それが終わった後に殺してくれたら一番なんだけどね」
 魔女ミナは笑ってそう言うのだった。


「ふむ……こちらを襲ってくる様子はないようですね」
 アーデルハイトとミナたちが話している近くで申 公豹(しん・こうひょう)は傭兵たちの気配を感じながらそう判断する。
(アーデルハイト女史の持つ正邪の角を狙ってくるかと思いましたが……)
 用心深いのか、それともアーデルハイトが正邪の角を持っているのを知らないのか。申はその両方、アーデルハイトを疑ってはいるが襲うほどの確信がまだないからかと思う。仮にこの探索の中でアーデルハイトが正邪の角を持っていると確信すれば襲ってきたのではないかと思う。
「これなら穂波ちゃんの護衛についてたほうが良かったかな?」
 傭兵たちが襲ってこない様子なのが分かって赤城 花音(あかぎ・かのん)はそう言う。最初花音たちはふた手に分かれて穂波とアーデルハイトの両方の護衛につくつもりだった。
「あちらもあちらできちんと穂波さんを守るという人がいましたから、戦力を分けるよりかは戦うよりもこっちで正解だったと僕は思いますよ」
 赤城 リュート(あかぎ・りゅーと)は花音にそう言う。
「それに、こうして僕達が警戒しているから傭兵たちが手を出してこないというのもあると思う」
「そっか……そうだよね」
 リュートの言葉に花音は納得する。
「まだ、襲ってこないと決まったわけじゃないわよね。もしものときは私がアーデルハイトさまの盾になるわ」
 ウィンダム・プロミスリング(うぃんだむ・ぷろみすりんぐ)はそう言って気合を入れる。
「ウィンディの言うとおりですよ。あちらは隙を見せれば襲ってくるかもしれません」
 ただと、申は思う。
(気配の消し方が以前より甘いですね……何か別の目的があるんでしょうか)
 まるで自分たちに集中させようとしているような……。
「うん。とにかく隙を見せないことだね。分かったよ申師匠」
「根気比べですね……いっそこっちから仕掛けられたら楽なんですけど」
 花音とリュート。
「でも離れるのは得策じゃないのよね。アーデルハイト様がいかに大魔女と言っても、接近されたらきついもの」
 ウィンダムの言葉は魔女の大前提だ。……といってもアーデルハイトなら『こんなこともあろうかと』接近戦に対策していてもおかしくないが。
「……できるよね? ボクら。恵みの儀式を悲劇で終わらせないことが」
 ほんの少しの不安を仲間に見せる花音。
「大丈夫ですよ花音。僕達だけじゃない、多くの契約者がそう望んでいますから」
 リュートは優しくそういう。
「ええ……きっとみんな悲劇なんて望んでないもの」
 ウィンダムも同意する。
「まぁ、望んだからといって必ずいい結果に導かれるわけじゃないですが……多くの人がそう望めばそうなる結果は高いかもしれないですね」
 申はそう言う。
「……うん。絶対に、悲劇を防ごうね!」
 花音はそう心に決めるのだった。