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森の精霊と抜けない棘

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森の精霊と抜けない棘

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 常闇 夜月(とこやみ・よづき)も男たちに協力する条件として緑の機晶石を挙げ、その他フラワーリングに一切の被害を出さないこと、先の事件の保証をすることを求めた。
「約定をきちんと書面に残しましょう。大丈夫、約束はちゃんと守りますし、守らせますわ」
 口調こそ丁寧だが、やはり彼女にも有無を言わさぬ威厳が備わっている。
「先の事件の保証は、この村の発展に協力してもらうということで」
「そうね、その話は別の場所で詰めましょ。村の皆を不安にさせたくないし」
 何処からか紙を取り出した夜月に同意しつつ、ルカルカは従者の特戦隊を伴って『灰色の棘』連中をさらに村から遠ざかるよう促す。
 エースはその背中を見送りながら、先程男が語った話の内容を思い返していた。連中が助けを求めてきた時、すぐに緑の機晶石のことが思い浮かんだ。そして、石を手に入れたソーンが自作の機晶姫に使ったことから、思いがけない事態に陥ったのだと思った。突然元の仕様になかった躯体とデータを追加されて、石それ自体と装填されている機晶姫が暴走しソーンの制御下から逸脱する――そうなれば、機晶姫は根幹を成すヴィズの記憶を元に森あるいは村に来ることも、十分考えられる事態だと思ったのだ。
 しかし男は、話の中で一度も機晶姫について触れなかった。あのどこかソーン自身にも似た、H-1と呼ばれる機晶姫について。これはつまり、機晶姫とヴィズの石は未だソーンと共にある、ということなのか。
「……メシエ?」
「ああ」
 エースが視線を送ると、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は解っている、と頷きを返した。
 数度瞬きをしてから、青空を仰ぐ。メシエは意識を上空へ向けると、【テレパシー】を使ってソーンに語りかけた。

(やあ、ソーン)

 ――……貴方、僕の駒ではないですね。さしずめ、どこぞの族長さんのお仲間といったところでしょう。貴方がたとお話しすることは何もありませんよ。研究の邪魔ですから、雑念を送ってこないで頂きたい。

 送られてきた念からは、ソーンがあからさまに不愉快であることが伝わってきた。

(ソーン、君の事情は察しているつもりだ。1人では色々と難しいだろう。我々には手助けをする用意がある。今いる場所を教えてくれたまえ。君の部下達も手助けを求めて村に来ている。君からも詳しく事情を聞きたい。助け手が必要なのだろう?)

 ――助けが? ……ああ、あの連中、余計なことを話したようですね。だが、もう僕には関係のないことだ。奴らとはすでに手を切っていますからね。何を言ったか知れないが、再び会うこともないでしょう、あの愚かな部下とも、貴方がたともね。僕には誰の協力も必要ない。この場所を教える義理もないでしょう。仮にもし、貴方が僕の事情を察しているのだとすれば、余計に踏み込んで欲しくないことがお解り頂けると思いますが。……これ以上お答えすることはありません、さようなら。

 そう返ってきたきり、メシエが幾ら呼びかけてもソーンからの反応は送られてこなかった。