リアクション
【終章】受容
族長宅のテーブルを挟んで、ハーヴィとカイは話をしていた。リトは集落に戻って来た時にはもう大分落ち着いていて、現在は隣室で休んでいる。『灰色の棘』のことについて話すには都合が良かった。
「俺は行こうと思ってるんです。ソーンのところに」
『灰色の棘』に協力してやる義理はない。それでもカイは既に決意を固めていた。
「カイが自分から行動を起こすとは、随分珍しいこともあるのぉ」
「まあそうなんですけど。何となく、放っておけない話のような気がしますし……ある意味、ヴィズさんの――緑の機晶石を取り戻すには、又とないチャンスじゃないですか」
『棘』の連中を使えば、ソーンの居場所に関して何らかの手がかりを得ることが可能なように思える。そうすれば、機晶石の奪還だって出来るかもしれない。
「集落の自警団は頼もしくなってきましたし、防護柵もある。地下道の整備を進めてもらったおかげで、万が一の時はそちらに逃げればいいですし……俺や他の契約者の皆さんが少しここを留守にしても、恐らくは大丈夫だと思うんです」
「ふむ。じゃが、我は良いとしても……リトはどうする? 連れていくつもりか?」
少しハーヴィの目つきが鋭くなるのを感じて、カイは大きく首を横に振った。
「ここに居た方が安全でしょう。記憶を取り戻したばかりの不安定な状態で、外に連れていくのは……」
「ダメ。私も一緒に行く」
いつの間にか隣室から出てきていたリトの言葉に、思わず二人は凍り付く。
「おまっ!? え、いつからそこに!?」
「ヴィズの機晶石を取り返すんでしょ。誰に何て言われようと、私は絶対に行くから」
聞かれていたのか……と己の迂闊さを呪うカイとは裏腹に、リトの瞳には今まで見たこともないような炎が燃えていた。
そして彼女は本当に誰の言葉にも耳を貸そうとはせず、誰かが思い留まらせようとすればするほど頑なになって、「私がヴィズを連れて帰る」の一点張りとなってしまった。
リトの瞳に宿る炎がどういった感情から燃え盛っているのか、それはまだ誰にも分らない。それでも、彼女の意思を曲げるのがあまりにも困難であることは、誰の目にも明らかであった。
そしてついに根負けしたカイは、彼女が同行することを承諾したのだ。
黒留 翔です。
『森の聖霊と抜けない棘』に参加して頂いた皆様、お疲れさまでした。
前作から間が空いてしまったにも関わらず多くの励ましのお言葉を頂きまして、本当に有難い限りです。
今回はだいぶおとなしめのシナリオとなりました。シナリオガイドの段階ではソーンの登場について保留としていたのですが、彼を意識したアクションを書いて頂いた方が予想より多かったため、ちょこっと出してみました。直接の絡みが少なくて申し訳ございません。
なお、次回は今作の続きにあたるお話を予定しておりますので、ご興味を持って頂けた方はぜひ参加して頂けると嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします。