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ザンスカールの休日



 ここは、ザンスカールの外れにあるカフェ・てんとうむしです。
 文字通り姿を見せない店長のミスターアンドミセス・オカリナ(みすたーあんどみせす・おかりな)と、店員のアンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)がかいがいしく働いています。
「ここがライバル店?」
 店の正面に立ったシェリエ・ディオニウス(しぇりえ・でぃおにうす)が、カフェ・てんとうむしと書かれた看板を見あげて言いました。
「でも、なんだか、この建物、ちょっと変な気が……」
 パフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)が、何か変な感じにちょっと足踏みしました。
「うーん、とりあえず、今日は外から偵察するにとどめましょうか」
 ちょっと用心して、トレーネ・ディオニウス(とれーね・でぃおにうす)がそう言いました。
「うーん、うーん、どうしよう……」
 敵状視察したいのは山々ですが、なんだかこのお店の存在感が不気味です。
 まあ、そんなことなどつゆ知らず、中ではアンネ・アンネ三号が、どこにいるのかよく分からないミスターアンドミセス・オカリナに話しかけていました。
「そういえばさぁ、結和が結婚したじゃん」
「えっ、今さら!?」
 なんだか話題が遅れているという感じで、アンネ・アンネ三号が聞き返しました。
「なんだよ、もう。三号は俺には冷たい」
 ミスターアンドミセス・オカリナがどこかでぼやきます。どうも、ちゃんと式に行ってみたかったようです。
「俺知ってるからな。大人組で余所に飲みに行っただろう! 俺をおいて! なんだよ! 酒なら出すからここで飲めよ! 仲間外れすんなー!」
「でも、来なかったのは君だろ。そんなに見たかったのなら、来ればよかったのに」
 愚痴るミスターアンドミセス・オカリナに、招待状はちゃんと届いていたはずだとアンネ・アンネ三号が言いました。
「しょうがないだろー! 俺はこの家のゆる族なんだから、外に出るのってつまりチャック開くようなもんだぞ!」
 ええと、わけが分かりません。
「じゃあ、僕たちはオカリナの体内で生活してるわけ? うーん、やだなそれ……」
 なんだか、そのうち、消化されてしまいそうな気がします
「だったら、屋台の着ぐるみでも買って、それで移動しなよ」
「まあ、それも一つの方法かなあ」
 それでいいのかいと言うツッコミをしたいのを、アンネ・アンネ三号が必死に押さえました。
「まぁまぁ、お祝いの気持ちは結和にも伝わってるって。だからほら、稼がないと移動式屋台とか買えないんだから、働け!」
 アンネ・アンネ三号がそう言ったとき、お店のドアが開いて三人組のお客が入ってきました。
「いらっしゃいませー」

    ★    ★    ★

「うーん、いろいろと難しいのですねー」
 イルミンスール魔法学校の大図書室で調べ物をしながら、結和・ラックスタイン(ゆうわ・らっくすたいん)が鼻の上にちょっと皺を寄せて考え込みました。
 治癒魔法は今までいろいろと使ってきた結和・ラックスタインです。外科手術などに応用したこともあります。
 けれども、治癒魔法は、主にすでに負った外傷にしか効果がありません。予防医療のような分野には、今ひとつ使い勝手が悪いような気がします。それに、病気のようなものにも、効果が限定されすぎていて不便です。
 このあたりを、現代医学とうまくミックスしたり、いくつかの魔法と併用することによって、もっとより広い医学に使える魔法が作り出せないのかというのが、今の結和・ラックスタインの課題です。
「治癒魔法がー、基本的には減少した生命エネルギーを付与することとー、それによって新陳代謝を促進することによるー、細胞の活性化と再生を基本としているとー。そのせいでー、魔法の強さにもよるけれどー、新陳代謝の促進化以上の効果は得られないとー……。ヘタに治療魔法を使うとー、癌細胞の異常増殖を引き起こす可能性もあるので注意かあー。結構怖いですねー。解毒に関してはー、毒素の分解であって、病原体を殺傷するものではないからー、病気の根本的治療には不完全だなあー。うーん」
 新しい技術を作り出すことは、いつも大変なようです。

    ★    ★    ★

「なんだか、面白いことが起きないでしょうかねえー」
 大図書室の奧の奧、異なる空間である情報の部屋にぺたんと座りながら、大司書パーラ・ラミがつぶやきました。
 部屋中に広げた髪の毛の先には、一筋一筋に異なる本が繋がっていて、様々な情報を与えてくれたり、また、逆に書き込んだりしていきます。
「たまには、また直接皆さんに会って聞くのもいいかもしれませんが。とりあえずは、このまま本を集めましょうか。おや、これはなんでしょう?」
 パーラ・ラミが、ちっちゃな本と、なんだか変な形の本を手に取りました。

    ★    ★    ★

 世界樹は、今日は平和です。
 ひなたぼっこしていた小ババ様は、誰かがそばに来たのに気づきました。
「こばー」
「うそ〜」
 御挨拶すると、すぐそばでも挨拶を返してきました。
「こばー」
「うそ〜」
「こばこばこば〜♪」
「うそうそうそ〜♪」
 二人の声は、のどかに世界樹の梢の間に広がっていきました。

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 休日シナリオ16+です。
 やっと、メイちゃんたちのお話にけりがつきました。長かったです。
 まあ、表に出ていないお話とか設定はまだまだありますが、一応、大筋はこんなところかなと言う感じですね。
 まだ、もう一つ伏線は残っていますが。
 ラストにむけてもう一頑張り、最後まで楽しみましょう。

 従者の名称違いを修正。