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雨と稲妻

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雨と稲妻

リアクション

「ふぅ・・・・・・なんとか到着ね」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は身にまとっていた【ベルフラマント】を脱いだ。
彼女とダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は気配を消し【壁抜け】を繰り返して、
ゴワンが閉じ込められている地下牢の扉の前までやってきたのだ。
「しかし、誰とも遭遇しませんでしたね。私たちにとっては好都合でしたが」
 ダリルが入手した情報によれば、アジトには大量のペステたちが契約者の侵入に備えて待ち構えてるとの情報だった。
しかし、そんな話はどこへやら。ペステは見当たらなくアジト内は静かだった。

「やはり鍵が掛かっているな。少し強引だが光条兵器で撃ち抜いてしまうか」
「あ!待ってダリル」
 そう言うとルカルカは懐から何かを取り出した。
「レーゲンから受け取った鍵。これを使えば開くんじゃないかな?」
 ルカルカは鍵を鍵穴に差し込んで回した。するとカチャリと音がして鍵は解除された。
「よし、これで扉が開いたね」
 扉開けると冷たい空気が流れ出て来た。
ぼんやりと光を放つ松明が壁に掛かっていて薄暗く照らしている。
牢屋の壁に岩の塊がある。いや、違うゴワンだ。座り込んだゴワンが壁に寄りかかっていたのだ。
「――これは重症みたいだね」
 ルカルカの顔が歪んだ。ゴワンの胸に大きな傷があった。ウェスペルの剣にやられた傷だった。
「だが、これを使えば大丈夫だ」
 ダリルは懐から【蒼き涙の秘石】を取り出しゴワンに近づけた。
すると、亀裂のような傷は見る見るうちに癒えていき、すっかりもとの岩肌のような筋肉に戻った。
「――ん、なんだ?ここは一体……」
 ゴワンが目を覚ました。彼は2人の顔を不思議そうに見つめている。
「よかったよかった。大丈夫みたいだね。ルカルカはゴワンを助けにきたんだよ」
 ルカルカはこれまでの出来事をゴワンに話し始めた。


「――ほう。そんなことになっていたのか」
「このアジトももう長くはないね。ねぇ、それにしても一体ドグマ教の目的は何なの?」
 ゴワンは腕を組んだ。そして、「うーん」と唸った。数秒の沈黙の後彼は言った。
「――ドグマ教の世界を作ることだ」
「それはつまり世界制服ということか?」
「まあ、早い話がそうだな」
「一体どうやって……」
「ダークヴァルキリーを復活させるんだよ」
「ダークヴァルキリー……それってネフェルティティ様の昔の姿じゃない」
「そうだ。俺たちドグマ教はネフェルティティをダークヴァルキリーへと戻す装置を開発しているんだ。まぁその装置はここには置いてないんだがよ」
「ダークヴァルキリーへと戻す装置……ん?誰かくるぞ!」
 慌しい足音が迫ってくる。牢屋の入り口に現れた黒いレインコートの男。
うつむき息を切らせた彼の背中には巨大なスコップが括り付けられていた。
「ぬぉっ!レーゲンじゃねえか!」
 ゴワンはルカルカとダリルから離れてレーゲンの元へ近づいた。
「た、大変だ!ペステの暴走だ」
「暴走!?」
「ああ。ペステどものコントロールが突然効かなくなっちまってよ。アイツら逃げ出したウェスペルをタコ殴りにしてるぜ!」
「ウェスペルが逃げだしただと!?」
「ああ。俺とウェスペルは契約者どもに負けちまってな。必死こいて逃げ出してきたんだ。 
その途中よ、どこからともなくペステの大群が目の前に現れてな、俺たちに向かって襲い掛かってきやがった。
ウェスペルは俺を脱出させるために一人囮になった。だがやっぱり駄目だった!逃げる途中よ。俺は振り返って見たんだ。
ペステに取り囲まれてボコボコにされてるウェスペルをよ!」
「な、なんてこった……!!」
「ゴワンの助けを借りに来た。ぐだぐだしてる暇はない。さあ早くこれを持て!助けに行くぞ!」
 レーゲンは背中のスコップを素早く取り外しゴワンに手渡した。
「よし!今いくぞウェスペル!」
 ゴワンは足早に牢屋を出て行く。
「待って!ゴワン」
 ルカルカはゴワンを止めようと出口へ向かって走り出したそのとき、外にいたレーゲンが勢いよく扉を閉めた。
そして腰から変形した細い知恵の輪を取り出し、鍵穴に入れて鍵を掛け終えると、
ルカルカに向かって「ノシ!」と言って手を振り出口へと走り去った。


 ゴワンとレーゲンは地下の通路を走っていた。
しかし、レーゲンは息切れを起こしてしまいその場に立ち止まってしまった。
「はぁ……はぁ……すまねえな、我ながら体力不足だぜ」
「仕方ねぇ!俺は先に行く後は任せておけ!」
ゴワンは一人通路を走っていく。大きな背中が遠ざかっていく。
レーゲンは走っていく背中を見つめながら静かに呟いた。
「まんまと引っかかってくれたなゴワン。お前は別に嫌いじゃなかったぜ。だがよ、俺にはどーしてもやらなきゃいけないことがあるんでな」

 ゴワンは地を鳴らし進んでいた。
そのとき、彼は足元のに設置されたスイッチを踏んでしまった。突如壁からガスが噴出されそれに包みこまれた。
「ぐわっ!な、なんだこれは!……ええぃ、なんだか頭がふらつきやがるぜ!っく!――こんなところで立ち止まってられるか!ぬおおおっー!!」
 ゴワンは雄たけびを上げながら再び走り出した。