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キマクでの自由な一日



 シャンバラ大荒野の一画。遊園地にほど近い場所。
 何が彼らを呼び集めたのだろうか。
「俺より強い者に会いに来た」
「ここに、名のある者がいる気がします」
「100%を試せと予知夢を見たんです」
「正義が、ここに来いと告げていた」
「私に叩きのめされたいのは誰よ」
 本来は、それぞれがそれぞれの思惑でイコンの訓練にやってきたのだが。ばったりと、同じ場所で出会ってしまったのだ。
 だだっ広いシャンバラ大荒野であるのに、なぜかイコン戦が行われる場所はいつも決まっている。ある意味、ワンパターンな者たちが集まる場所でもある。
 さて、出くわしてしまったのであれば、しかたがない。模擬戦という大義名分の下に、相手を叩きのめして、マイイコン最強伝説を打ち立てるだけである。
 この場に集まったのは、朝霧 垂(あさぎり・しづり)紫月 唯斗(しづき・ゆいと)魂剛シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)四瑞 霊亀(しずい・れいき)ルシファークロウコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)星怪球 バグベアード(せいかいきゅう・ばぐべあーど)キング・ドラゴハーティオンメイ・ディ・コスプレ(めい・でぃこすぷれ)マイ・ディ・コスプレ(まい・でぃこすぷれ)ダスティシンデレラver.2の、計五機のイコンである。
「あたしが、見届けてあげるよ」
 傍観者を決め込んで、ラブ・リトル(らぶ・りとる)が言った。

    ★    ★    ★

「オープン・ユア・ハート!」
 朝霧垂が、右腕を上げて叫んだ。その声に反応した鵺が、その手で胸部装甲を開いて搭乗口を顕わにする。そこから細い神経繊維が数本のびてくると、朝霧垂の身体に絡みついて上へと引き上げた。インテグラルナイト特有の操縦槽の中へと、朝霧垂を取り込んでいく。
 胸部装甲が閉じ、鵺が立ちあがった。折りたたまれていた背部のバインダーがスライドして翼のように開き、青い翅のようなエナジーウイングを展開する。腰部のスタビライザーも発光し、ふわりと広がった。

    ★    ★    ★

「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前。開封!」
 そう叫ぶと、紫月唯斗の背後にいた魂剛の胸部中央の結晶体がすうっと透明になった。大きくジャンプすると、紫月唯斗の姿がその中に吸い込まれていく。
 無心の空間の中、四方八方から帯のような物が巻きついていき、紫月唯斗の身体を覆う帷子となる。
 胸部結晶体が真紅に輝き、魂剛が二本の太刀を抜き放った。
「魂剛、推参」

    ★    ★    ★

「それじゃ、行きましょう、霊亀さん」
「はい」
 シフ・リンクスクロウに呼ばれて、四瑞霊亀が駆け寄ってきた。両手を絡めあうと、そっと額を触れさせる。二人の意志が一つとなり、触れ合うところから光が溢れ出した。そのまま踊るようにクルリと回転すると、まるで重さがなくなったかのような四瑞霊亀を、シフ・リンクスクロウが大きく振り回した。四瑞霊亀の黒髪が大きく広がり、素肌を顕わにした四肢が光につつまれてふわりと舞った。大きく腕を回したシフ・リンクスクロウが、コート姿の魔鎧となった四瑞霊亀を翻してその身に羽織った。
「ミネシアさん!」
「はーい、はいはい、待ってたよー」
 シフ・リンクスクロウが呼ぶと、イコン内で待機していたミネシア・スィンセラフィが、ルシファークロウを片膝つかせて、左手の甲を地面につけた。それが階段ででもあるかのように、シフ・リンクスクロウが四瑞霊亀をはためかせながら軽快に駆けのぼっていく。タンっとジャンプしてコックピットブロックの端に降り立つと、四瑞霊亀の裾をちゃんと直してからメインパイロットシートにストンと収まる。
「閉じまーす」
 ミネシア・スィンセラフィが言うと、突出していたコクピットブロックが、すうっと機体奥へと収納されていった。漆黒の胸部装甲が閉じ、サクシード専用のセラフィムであるルシファークロウがすっくと立ちあがった。

    ★    ★    ★

 同じセラフィムをベースとしていても、ダスティシンデレラは外観からしてまったく別物のイコンとなっていた。
 左右非対称の機体は、様々なイコンからのジャンク部品を中心にして組みあげられている。鵺も同様に様々な機体から部品を流用しているが、あちらはそれらの部品を元にして新たに作られた物だが、ダスティシンデレラは、外装に限って言えば、本当に寄せ集めである。もちろん、中身は逆に外装とは別の部品を使ったりしているので、フレームベースはちゃんとしたセラフィムなのだが。
「BMI2.0起動」
 サブパイロット席で、マイ・ディ・コスプレがコンソールのスイッチを操作しながら言った。コックピットの中には、まだ最低限のインジケータの明かりしかない。
 BMI2.0の起動ロゴがモニターに映し出され、起動パイロット認証画面になる。
「サブパイロット確認、SFL0054629マイ・ディ・コスプレ」
 BMIシステムが、マイ・ディ・コスプレの脳波を認証する。コックピット内の照明が通常状態となった。
「ジェネレータ起動。各エネルギーバイパスオールグリーン。簡易保守プログラムスタート。異常なし。マイ・ディ・コスプレ、前チェックシークエンス、承認。チェンジ、セカンド・シークエンス。メインパイロットにアクションコントロール譲渡。ユーバブコントロール?」
 モニターに指でサインを印し、マイ・ディ・コスプレがメイ・ディ・コスプレへ機体コントロールを渡した。
「アイハブコントロール。メインパイロット確認、SFM0054628、メイ・ディ・コスプレ。各部コントロール確認。アポジモーター良好。誤差修正補正。FSCチェック。OK。チェックシークエンス、承認。ダスティシンデレラVer.2、リアクティブ! さあ、殴って殴って、殴り倒すわよ!!」
 自分の思い通りにダスティシンデレラが動くのを確認して、メイ・ディ・コスプレが気勢をあげた。