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森の聖霊と姉弟の絆【前編】

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森の聖霊と姉弟の絆【前編】

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【1章】護衛する者たち


「せっちゃん、今日はどうすればいいの?」
 市場の賑わいを目の前にして、アルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)は首をかしげる。彼女にせっちゃんと呼ばれた黒髪の幼女辿楼院 刹那(てんろういん・せつな) は、しばらく周囲を確認してから今回するべきことを告げた。
「今日はリト・マーニ(りと・まーに)の護衛じゃな」
 依頼人のカイ・バーテルセン(かい・ばーてるせん)とリトについては、港で話し合っている姿を確認済みだ。恐らくそう時間の経たないうちに、今居るこの市場を通過するだろう。
 刹那はそれまでの間に少し情報を集めておこうと辺りを見回す。早朝に水揚げされたばかりの魚介類、南国から船で運ばれて来たのであろう色とりどりの果実に野菜、良い匂いの軽食を提供する店など、市場には様々な屋台が軒を連ねていた。その中で、如何にも海の男といった風情の魚屋の店主に目を留めると、刹那は並べられた魚貝に興味があるフリをして近寄り、アルミナを呼ぶ。
「おう、お嬢ちゃんたちお使いかい? おススメはタラに鮭! どっちも新鮮だよ」
 威勢のいい店主の呼び込みに刹那は軽くかぶりを振ると、アルミナと二人で街を観光しているのだと答えた。
「へえ、この島に観光客とは珍しいな。しかも小さなお嬢ちゃんが二人だけなんて、危なくないようにちゃんと気をつけるんだよ」
「……そういえば、前にこの街で姿を消した人物がいるという話を聞いたのじゃが……?」
 あたかも店主の話を聞いて思い出した風を装って、刹那は問う。すると店主は「よく知っているね」と苦笑して少し声を潜めた。
「ここだけの話、この島の人間は外から来た人間には優しくないんだ。ここだけじゃない、この辺の群島の人間はどこもそうさ。姿を消したアンデル家にしても……いや、これはお嬢ちゃんたちに話すことじゃないな。ともかく、観光ぐらいで目くじらを立てる奴はいないとは思うが、気を付けて行くんだよ」
「何故、島の外の人間を嫌うんじゃ?」
「何か特別な理由があるわけじゃないと思うぜ? 現に、金さえ落としてくれればどっちでも良いっていう俺みたいな考えの奴も結構いるしな。まあ、敢えて言うなら、それが島国根性ってやつなんだろうさ」
 刹那が自嘲気味に肩をすくめる店主から更に情報を引き出せないかと考えていると、ふいにアルミナが自分の袖を引く。彼女の視線を追うと、丁度話がまとまったらしいリトたちが市場にやって来たところだった。共に行動している者たちも、恐らく廃屋へ向かうのだろう。
 すれ違いざま、こちらに気付いたらしいカイと一瞬だけ目が合う。
「次は何か買っていってくれよな!」
 そう言う快活な店主の声を背に受けながら、刹那とアルミナは尾行を開始した。

 それから数十分が経った頃。
 リトを囲むようにして列を成す一行が、市場からメインストリートを抜けて街を出ようとしている。その様子を上空から注意深く観察している人物が居た。
 刹那のパートナーであるイブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)は、先刻から小型飛空艇ヴォルケーノに乗りながら一行とその周囲を監視している。
 そんな彼女の視線は、先程からある一点に注がれていた。
 通りの脇に置かれたそれは、一見何の変哲もない段ボール箱だった。――そう、動くことさえなければ。
 どうやら段ボール箱は、リトたちの後をつけているようなのだ。イブの目には、一定の距離を取りつつ一行に近づいては止まり、近づいては止まる箱の姿が映っている。その様は街の景色に上手く溶け込んでいるようでいて、むしろかなり不自然であった。
 刹那たちならあのような擬態はしないはずだ。そう判断したイブは、不審者が身を隠しているのであろう段ボール箱にスナイパーライフルの照準を合わせる。
 しかし、段ボールの下からチラチラと除く足は何故か見覚えがあるような気もした。
 それに加えて、その不審物に気付いたらしいカイたちが何も対処する素振りを見せないのも気に掛かった。
 だからイブは少しだけ、このまま様子をみることにする。幸いにも一行の目的地はまだ遠い。道中で何か怪しい動き――現在も怪しいことには変わりがないが――をすれば、問答無用で彼女のスナイパーが火を噴くだろう。