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ミッドナイトシャンバラ6

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ミッドナイトシャンバラ6
ミッドナイトシャンバラ6 ミッドナイトシャンバラ6

リアクション



今週の放送



「はいっ! みなさんお茶が入りましたよ〜♪」
 メイド服姿のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が、会議室に集まったスタッフに日本茶やコーヒーを配っていきました。
 今回、ミルディア・ディスティンは、番組スタッフとして、雑用のバイトをしています。
「あ、みっちゃん、ありがと」
 どうやら、シャレード・ムーンは、ミルディア・ディスティンをバイトのみっちゃんと呼んでいるようでした。
「あ、ありがとうございます」
 端っこの方にちょこんと座っていた御神楽陽太が、お礼を言ってミルディア・ディスティンから紙カップを受け取りました。
 御神楽陽太は、妻の御神楽環菜が今日のゲストとして呼ばれているので、彼女の送り迎えのためにやってきたのでした。
 番組の見学は許されていますが、一応部外者ですから、番組の邪魔をしないように静かにしています。
 他にもゲストはいるようですが、まだ到着していないようでした。
「で、みっちゃん、今日読む投稿は?」
「はい、こちらになります」
 シャレード・ムーンに言われて、ミルディア・ディスティンが紙の束を持ってきました。番組によせられたハガキや手紙や、メールを印刷した物などです。
 すぐに、シャレード・ムーンが他のスタッフたちと共に選別に入ります。
「あと、そろそろ留守電をスタンバイさせて。もうじき時間だから、電話がかかり始めるわよ」
「わっかりましたあー」
 指示されて、ミルディア・ディスティンが走っていきます。いや、下っ端は大変です。
 手早く、番組の進行が纏められ、準備は整いました。後は、放送開始時間を待つだけです。
「じゃあ、そろそろスタジオに移動しましょう」
 シャレード・ムーンにうながされて、全員がスタジオへと移動を始めました。
 金魚鉢と呼ばれる放送室内のテーブルと椅子に着いたシャレード・ムーンが、壁にある時計をじっと見つめました。
 放送時間となり、オープニングの音楽が流れ始めます。
 シャレード・ムーンは、慣れた手つきでカフを上げました。
 いよいよ、放送開始です。

    ★    ★    ★
    
    
    
    ★    ★    ★

『魔法少女アイドル マジカル☆カナ、こと遠野 歌菜です。
 私のシングル、【歌を歌ってあげるよ】。好評発売中なのです♪
 好きな人に笑顔になって貰いたい
 そんな想いを込めたナンバー。
 是非聴いてくださいね☆』


「うわ、いきなり私のCM!」
 番組最初のCMを聞いたとたん、遠野歌菜がクッションに顔を埋めてソファーの上をゴロゴロしました。
 それを、月崎羽純が微笑みながら見つめました。

    ★    ★    ★

『最初のゲストは、御神楽環菜さんです』
 番組冒頭で、シャレード・ムーンが、ゲストの御神楽環菜を紹介します。

「頑張れー」
 凄くちっちゃな声で、調整室から御神楽陽太が御神楽環菜に声援を送りました。
 やっぱり、公共の番組に妻がでているというのは新鮮な体験です。少し、はしゃぎたくもなってしまいます。
『先週も、【魔列車の車窓から】さんから、ババになりましたって言うお手紙がありましたが、パラミタもベビーラッシュですねえ』
 シャレード・ムーンが、御神楽環菜に先週の投稿の話を振りました。ナイスです。
「俺、俺の投稿」
 御神楽陽太が、しきりに自分を指さして主張します。

『すみません。多分、それうちのパパです……』
 金魚鉢の中で、御神楽環菜がしきりにシャレード・ムーンにぺこぺこしました。

「しまったあ、やってもうたあ!」
 御神楽陽太が頭をかかえます。このままでは、番組後に御神楽環菜から説教されるのは必至です。
「ひ、平に御容赦を〜!」
 御神楽環菜にむかって手を合わせて拝むと、御神楽陽太が即座に土下座して謝りました。

    ★    ★    ★

 そのころ、空京にある御神楽家の別邸では、御神楽舞花とエリシア・ボックとノーン・クリスタリアが、御神楽陽菜の子守をしながら、ラジオを聞いていました。
「ホントに、ミッドナイトシャンバラに、環菜おねーちゃんが出演してるよ! 冷やしぜんざいの話もしてくれてるよー」
 嬉しそうに大声をあげるノーン・クリスタリアに、御神楽舞花がしーっと唇に指を当てて注意しました。あまり騒ぐと、御神楽陽菜が起きてしまいます。
「静かにしないと、陽菜が起きてしまいますわ。それにしても、陽太ったら、むこうでまた何かしでかしたようですわね。後で、みんなでお説教ですわ」
 困ったものだと、エリシア・ボックが言いました。番組はしっかり録音しているので、後できっちり御神楽陽太に聞かせて反省させるとしましょう。

    ★    ★    ★

「今日はリンちゃんがでてくるのよねー」
 先週と同様に、コハク・ソーロッドとのんびりコーヒーを飲みながら、小鳥遊美羽がラジオに耳をそばだてました。

『やっほー、リーダー、みんな、見てる? リンちゃんなう!』

「ああ、でてきた、でてきた」
 ありがたいことに、シャレード・ムーンが先週の小鳥遊美羽の質問を、リン・ダージにぶつけてくれています。
「そういえば、ゴチメイって、見せてる部分って、みんなそれぞれ違うのね」
 自分だったら、やっぱり脚かなあって、小鳥遊美羽があれこれと考えました。
 リン・ダージのブラウスはシースルーで、アンダーが透けて見えてはいるのですが、チッパイなので実質サラシかキャミソールにしか見えません。前開きの巻きスカートは、ローライズの黒いレースの紐パンツが丸見えなのですが、エプロンをしているので、実際にはそれほどでもありません。足許は、パンプスから靴下へかけてを紐で編み上げています。まあ、アリスとしては、意外と普通の衣装でしょう。
 チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)は、背中の大きく開いた袖無しのブラウスです。たっゆんのおかげもあってちょっとぽっちゃりした印象です。腕カバーとかブラウスもシースルーなのですが、リン・ダージほど透けて見えているという印象はありません。パニエでふわりと広がったスカートは膝丈で、後ろで大きく結んだリボンがひらひらしています。
 マサラ・アッサム(まさら・あっさむ)は、ノースリーブのブラウスで脇を大きく開けていますし、スカート丈も膝上でブーツを履いた脚をほとんど見せています。その分、襟を大きく立てたハーフコートと、長いエプロンをしているため、隠そうと思えば隠せたりもします。
 ペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)は、ブラウスの上にハーフベストを羽織り、キュロットスカートの上にパネルスカートを穿いています。ぱっと見は地味なようですが、あちこちに細かい刺繍が施されていて、ある意味一番派手な衣装でした。
 最近、たまに人間体をとるジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)ですが、こちらはビキニ姿にエプロンという、かなり凶悪な姿をしています。コハク・ソーロッドに対しては、未だに危険な存在かもしれません。
 ココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)は、胸元の大きく開いたノースリーブのワンピースに、パニエでボリューム豊かに広げたスカートという出で立ちです。肩はストールで覆い、脚はガーターで吊ったストッキングで絶対領域完備でした。発達した太腿と二の腕はある意味むちむちですが、ほとんど筋肉というのが恐ろしいところです。それでも、髪を下ろして普通のドレスなどを着ると、おしとやかなマドモアゼルに見えるから不思議です。
 アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)は、清楚な白いエプロンドレス姿です。剣の花嫁ゆえ、パートナー契約時のココ・カンパーニュの自分が一番という中二病的なイメージでそっくりな顔をしていますが、一度大怪我をした後に体組織のほとんどを再構成されたため、その時の姿でほぼ固定されてしまったようでした。そうでなければ、ココ・カンパーニュに恋人ができた今、かなりヤバいことになるところでした。

『――勝負パンツがいつでも見られるんだから。これでもう、男共はイチコロよ♪ 毎回、鼻血出して、倒れる人だっているんだからあ』
『ああ、今エプロンめくって見せないでもいいです――』

 なんだかスタジオが凄いことになっているらしく、シャレード・ムーンが慌ててリン・ダージを止めました。
 それを聞いたとたん、思わずコハク・ソーロッドが何かを思い出して、飲みかけのコーヒーを吹き出します。
 もちろん、毎回鼻血を出してひっくり返っているのは、コハク・ソーロッド、その人です。
 それを知る小鳥遊美羽が、テーブルの上のコーヒーを拭きながら、コハク・ソーロッドの方をじーっと見ました。
「美羽ったら、なんで、僕の方を見るんだい? 大丈夫、この間の大浴場で、また一つ修行を積んだから……」
 いや、それはそれで、聞き捨てならないことのような気もしますが。
 なにしろ、この間、イルミンスールの大浴場でPモヒカン族とゴチメイたちに囲まれて、コハク・ソーロッドは押し倒されてしまったのですから。そのまま、パンツのことで論争しているすぽぽぽーんな女の子たちを、ずっと下から見あげていたのですから、完全に鼻血ものです。事実、もうちょっとで出血多量で危ないところでした
「思い出しても平気なのよね?」
「もちろん、しっかりと思い出したって鼻血なんて……」
 小鳥遊美羽に答えたコハク・ソーロッドが、はっと我に返りました。
「思い出せるほど、記憶に刻み込んだのね。ええい、忘れなさい、すぐに忘れなさい、今忘れなさい!」
 胸倉をつかまれたまま小鳥遊美羽にブンブンと振り回されて、コハク・ソーロッドが気を失いました。

    ★    ★    ★

「どうしようか……」
 千返 かつみ(ちがえ・かつみ)は悩んでいました。
 ずっと千返 ナオ(ちがえ・なお)と約束していて、幼いころに別れたナオの家族を探し続けていたのですが、やっと先日、すでに亡くなっているという情報が入ってきたのです。
 絶対に見つけると約束していたのに、その約束は果たせなかったのです。
 けれども、知ってしまった以上は、明日にはでも千返ナオに告げないといけません。
 ですが、一つ屋根の下にいるのに、それを伝える勇気が千返かつみにはありませんでした。
 直接顔を合わせて、いったいどんな言葉で真実を告げればいいのでしょう。
 言葉の見つからないまま時間を過ごしていたら、いつの間にかミッドナイトシャンバラが始まっていました。
 どうせなら、いっそラジオ番組の留守電に練習のつもりでメッセージ入れてしまえ。どうせすぐ次のコーナーへ流れるだろう。
 そう、千返かつみが考えたのは、妙案だったのか、それとも一時の浅はかな考えだったのでしょうか。

    ★    ★    ★

『ふつおたコーナー!
 このコーナーでは、みなさんからよせられた、ごくごくふつーのお便りを紹介しちゃいます。
 では、最初のお便りです。
 ペンネーム【ドレッド太郎】さんから

 パラミタに来ていつも思うのは、なぜ俺のパートナーは変な鳥と変態ギフトなのだろうか、ということです。
 俺、可愛い子とパートナーになりたいです。
 いや、こう、できれば、人生のパートナーというか、恋人っていうか…。
 つまり、素敵な出会いってのはどうしたら得られるでしょうか?


 ということなんですが……』

「ちょっと待て、これはそなたの投稿ではないのか?」
 ラジオを聞いていたスパナ・ワンエイティー(すぱな・わねいてぃー)が、湯浅 忍(ゆあさ・しのぶ)を問い詰めました。
「さあ、どうかなあ」
 湯浅忍が、すっとぼけます。
「ふざけるなあ、こんなことを書くのは、そなたに決まっておる。変態とは失敬な!! 我のどこが変態か!!」
「ええい、うるさいなあ」
 どなり散らすスパナ・ワンエイティーに、湯浅忍がぽちっと、持っていた何かのスイッチを押しました。とたんに、仕掛けられていたトラップが作動し、スパナ・ワンエイティーをグルグル巻きに縄で縛って天井から逆さ吊りにしました。
「おぬし、いつの間にこんな罠を……」
「ふっ、備えあれば憂いなしだぜ」
 悔しがるスパナ・ワンエイティーに、湯浅忍が言いました。毎回毎回酷い目に遭わされていれば、自衛策もとるというものです。
「おのれ……、ああっ、もっとおぉ♪」
「ちょっと待ったあ! だから、変態ギフトだって言うんだあ!」
 ギリギリと縛られて悶え悦びだしたスパナ・ワンエイティーに、湯浅忍が叫びました。

    ★    ★    ★

『さて、次のお便りです
 ペンネーム、か弱い普通の新妻さんから。

 夏と言えばスイカと花火と海だよね
 あ、山も良いけどね
 でも私はなんといっても海
 泳ぎまくった後のヤキソバとか最高じゃん?
 フタ皿はイケるよ♪
 え?食べすぎ?そんなことない…よね?


 うーん、さすがに二皿は……どうなんでしょうねえ』

「これは、ルカの投稿じゃないのか?」
 ノートパソコンで医学論文を推敲していたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、ソファーでサマーセーターを編んでいたルカルカ・ルー(るかるか・るー)に訊ねました。
「ええっと、うん」
 なんだか、そわそわして落ち着きのないルカルカ・ルーが、うなずきます。
「二皿はやめておけ。何も同じ物を食べなくてもいいだろう。足りないなら、焼きイカとかフランクフルトでもつけたらどうだ」
 はたして、問題はそこなのか分かりませんが、ダリル・ガイザックが、少なくてもバリエーションを増やせと提案しました。
「んーっ、それだったら、別腹で入っちゃうかも……」
「全部食べるって言うのか!?」
 さすがに、ルカルカ・ルーの返事に、ダリル・ガイザックが呆れます。
「それにしても、こんな投稿を読まれるのを、ずっとそわそわして待ってたのか?」
「ええと、これじゃないんだけど。できたら、もう少しラジオ聞いていてくれない?」
 怪訝そうなダリル・ガイザックに、ルカルカ・ルーはそう言いました。

    ★    ★    ★

『伝言でーす』
 ふつおたコーナーが終わって、ミルディア・ディスティンが伝言を運んできた――という設定です。この次のコーナーは、番組中に録音された留守電の伝言を再生して紹介するコーナーでした。
『はい、仕切り直して伝言コーナーに替わります
 このコーナーは、番組専用の留守番電話に録音されたみなさんのメッセージを紹介するコーナーです。
 番組中も、ドンドン受けつけていますので、遠慮なくメッセージを送ってくださいね。
 それでは、最初の伝言いってみましょう』

 ぴっ。

『あ、あの真剣にお付き合いしてくださる殿方を探しています。
 23歳ですが、歳より幼く見られることが多いです。ふわふわしてるからかな。
 和っぽいねとも言われます。和食つくるのも得意なんですよ?
 好みの男性、ですか?
 えっと、その…いまだに雷が怖くて、雷が鳴っている時にギュッてしてくれる優しい殿方にお会いできたら嬉しいです…!
 うう、恥ずかしいですぅ〜』


「おおっ、なんか可愛い声の子が。こういう子もいいなあ……」
 ラジオから流れてきた留守電の女の子の声を聞いて、湯浅忍がにまっと顔をほころばせました。
「なんて可愛い声だ。ギュッてしてあげたいぜ。よし、俺はこの子と付き合う! 結婚しよう!」
「ふふふ、忍。そなたも色を知る歳か……ああっ、もっとぉ♪」
 即断即決する湯浅忍に、スパナ・ワンエイティーがツッコミみます。すかさず湯浅忍が縄を引っぱってきつくすると、スパナ・ワンエイティーが恍惚とした声をあげました。
「ふっ、スパナのような変態と違って、この子は清純……」

『以上、結婚してくださる方は天御柱のロビーナ・ディーレイまでご連絡くだされでござるよ。
 婚姻届け常備で待ってるでござるのよ』


「な、な、な、なんだってえ〜!!」
 伝言の最後の部分がラジオから流れると、湯浅忍とスパナ・ワンエイティーの目が点になりました。
 ロビーナ・ディーレイ(ろびーな・でぃーれい)は、先ほどの湯浅忍の投稿にあった変な鳥その人だったからです。
「って、こいつ、ロビーナかよ! 変な声作りやがって。ドキドキして損したよ!!」
 ゼエゼエ言いながら、湯浅忍が言いました。さすがに、ショックで心臓がバクバクいっています。
「忍、そうか、ロビーナに恋、してたのだな」
「ちげーよ!!」
「ああ、もっと♪」
 スパナ・ワンエイティーにわざとらしく勘違いされて、湯浅忍がまた縄でスパナ・ワンエイティーを締めあげました。そんなことをしても、スパナ・ワンエイティーを悦ばせるだけなのですが……。

『ああ、いいかもしれませんね。
 ドレッド太郎さん、ロビーナさん、よければまたお便りくださいね』

 ラジオの中からも、湯浅忍とロビーナ・ディーレイをくっつけようとする見当違いなコメントが流れてきます。
「ふふふふふ。ああっ♪」
「ひー。勘弁してくれ!」
 ほくそ笑むスパナ・ワンエイティーと、思いっきり青ざめる湯浅忍でした。

    ★    ★    ★

『さて、では、次のメッセージいきましょう』

 ぴっ。

『Nへ……Kだけど。
 七夕の時に見つけてやるって約束したよな
 俺の指に短冊つけて嬉しそうに笑うの見て、絶対見つけてやるつもりだった
 でも、遅かった……願い事叶えてやれなかった
 本当にお前が喜んでくれたらいいって思ったのに
 結果逆に悲しませる事になってしまった
 明日ちゃんと話すから
 ……会わせてやれなくて、本当に、ごめん』


『ちょっと、意味深なメッセージですね。
 Kさん、あまり思い詰めないでくださいね。
 Nさん、聞いていたら、番組中に伝言くださいね。まだまだ受けつけしていますから』

「うん、この声は、かつみだな……」
 ラジオから流れてきた伝言の声を聞いて、ノーン・ノート(のーん・のーと)が言いました。
 なぜか夜更かししていた千返ナオを見て、ふいに心配になり、一緒に布団に入ってラジオを聞いていたのでした。
 思えば、これは千返ナオと千返かつみが精神的に同調していたからなのかもしれません。
「ええ。この声は、かつみさんですよね。でもこれって……」
 なんとなく事態を飲み込んで、千返ナオが震える声で言いました。想像したことがないと言えば嘘になりますが、一番想像したくないことが起こってしまったのだと、ぼんやりとでも分かってしまいます。
「答えなくっちゃ。かつみさんに、俺は……」
「そうか。まだ伝言は受けつけているようだから、問い合わせ先を探してやろう」
 千返かつみも心配だが、今はまず千返ナオのことだと思い、ノーン・ノートが言いました。
 それから、電話で伝言を録音した後、緊張の糸が切れたかのように千返ナオが泣き崩れました。
「泣き顔見せたくないから、今夜は会えないけれど。明日は本気で大丈夫です」
 千返ナオが、そうノーン・ノートに言いました。
「よしよし、頑張った頑張った。今夜はこのままそばにいて慰めてやろう。明日の朝、何食べたい? でっかいホットケーキだって焼いてやるぞ」
 そっと千返ナオを慰めながら、ノーン・ノートが言いました。

    ★    ★    ★

『では、次のメッセージです』

 ぴっ

『【やまは】、だ。
 最近忙しくてすまん。
 大切な人に順番をつけるのは意味がないと思うが、それでもつけろと言われたら、俺は君を選ぶ!
 だから、今は、少しわがままを許してくれ。
 みんなを救い、すべての決着を俺のこの手でつける!』


 ラジオの前で待機していた山葉加夜が、ドキドキしながらそのメッセージを受け取りました。
 ちゃんと伝言は入れたとまでは聞いていたのですが、その内容までは教えてもらってはいなかったのです。
「大切な人って、あの人のことなんだろうなあ。でも……」
 花音・アームルート(かのん・あーむるーと)のことを考えてから、山葉加夜が頬を赤らめました。
 山葉涼司にとって、大切な人はすべて大切なのだと。けれども、その中での一番は自分なのだと再認識したからです。
「きっと、面とむかってだと、私に言えないんだろうなあ。らしいなあ……」
 そうつぶやくと、またきゃっと顔を赤らめる山葉加夜でした。

    ★    ★    ★
    
    
    
    ★    ★    ★

『月崎羽純だ。
 俺のシングル、【月の波間】。好評発売中、らしい。
 月夜をイメージした、癒やしがテーマのギター楽曲だ。
 心を込めて弾いたから、聴いてくれると嬉しい』

「あっ、羽純くんのCMだ。うーん、やっぱり、私より格好いいなあ。羽純くんは素敵!」
 ラジオから流れてきたCMに、またもや遠野歌菜が萌え萌えします。

    ★    ★    ★

『それでは、そろそろ参りましょう。伝言コーナー、パート・トゥー』

 ぴっ。

『大好きな旦那様へ
 いつも支えてくれて、有難う
 面とむかって言うのは照れちゃうから、改めてここで
 これからも、宜しくね
 えっと、その、愛してます……!』


『掃除の苦手な妻さんからです。
 ラブラブですねえ。
 やけちゃいますねえ』

「あは、あは、あははははは……」
 もう恥ずかしさと萌え萌えからオーバーヒートを起こして、遠野歌菜がゴロゴロゴロゴロしました。
 もう、月崎羽純としてはやさしく見守るしかありません。

    ★    ★    ★

『直接は言い辛いから留守電するね
 ダリル…あの…ダリルが大切にしていたアンティークの時計さ、
 この前うっかり落しちゃったの
 割れたりはしなかったんだけど…なんか、カチコチ言ってなくてさ
 壊し…ちゃった、かも
 ゴメンなさいっ!
 ホントにホントにゴメンなさいっ!
 もうっ、なんでも言う事聞くから、許してお願いダリル様あぁぁぁ』


『ペンネーム、かよわい普通の新妻さんからのメッセージですが、これはまずいですね……。
 でも、こうしてちゃんと謝っていることですから、ダリルさんも許してあげてくださいね』

「えっと、そーゆーことなんですけど……。ごめんなさいっ!」
 そっとダリル・ガイザックの顔色をうかがっていたルカルカ・ルーが、投稿が読まれ終わったとたん、テーブルに両手をついて謝りました。
 ところが、ダリル・ガイザックは無言で一人部屋を出ていってしまいます。
「お、怒ってる……。だめだ、もう、何もかもおしまいだあ……」
 ぽたぽたとテーブルの上に涙と冷や汗を落としながらルカルカ・ルーがガクブルしていると、やがてダリル・ガイザックが戻ってきました。しかも、その手には、ルカルカ・ルーが壊してしまった時計を持っています。
「ひーっ!」
 恐怖にルカルカ・ルーがドン引くと、おもむろにダリル・ガイザックが時計背面のネジを巻き始めました。カチカチカチというネジが巻かれる音の後に、今度はカチコチという秒針の刻まれる音が聞こえてきます。
「これは、ネジ巻き式の時計なんだ」
 あっさりと、ダリル・ガイザックが言ってのけました。
「なあんだ、壊れてなかったんだあ」
 へなへなと力の抜けたルカルカ・ルーが、その場に座り込みます。
「ところで、結局は、俺に報告しなかったということだな。そういえば、今いいことを聞いたなあ。なんでも言う事を聞く……とかなんとか……」
「ひぃ〜!」
 ダリル・ガイザックに凄みのある顔で言われて、本気でルカルカ・ルーが引きつりました。
「一度言った言葉は尊重しようじゃないか。ふふふふ……」
 そう言うと、ダリル・ガイザックは、自分が使っていたパソコンを、ルカルカ・ルーの方にむけて押しやりました。
「キーボードを打つのにも疲れてきたから、手伝ってもらおうか。これから言うことを口述筆記してくれ。回答は必要ない。すぐにかかれ」
「は、はいっ!」
 きっぱりとダリル・ガイザックに命じられて、ルカルカ・ルーは慌ててノートパソコンにむきあいました。

    ★    ★    ★

『それでは、次のメッセージです。
 おおっと、放送時間内にNさんからメッセージが届いたようです。
 さっそく、聞いてみましょう』

『えっと……か、いえKさんへ
 前に言ってくれましたよね、俺のこと”大丈夫”って
 ”大丈夫は本気で言ってる”ってそう言ってくれたから、
 だから俺は大丈夫なんです。明日、ちゃんと教えてくださいね
 ……かつみさん、探してくれてありがとうございます』


『なんだか、思いっきりKさんの名前がバレちゃってるみたいですが……。
 でも、本当に大丈夫のようですね。
 Kさん、明日はしっかりと説明してあげてくださいね』

「えっ、返事がきた!? これって、ナオの声だよな。しまった、ラジオ聞いていたのか!」
 留守電に残したメッセージが読まれてしまい、さすがにまずかったかと思いながらも、やはり面とむかっては言えないだろうと悩んでいた千返かつみでしたが、予期せぬ千返ナオの伝言を聞いてはっとしました。
 なんだか張り詰めたような声は、千返ナオがぎりぎりで録音したようにも聞こえます。
 思えば、つらいのは千返ナオの方です。なのに、勇気を出して伝言をしてくれたのでしょう。
 くしゃくしゃの顔になりながらも、明日になったらちゃんと話そうと誓う千返かつみでした。

    ★    ★    ★

「ううっ、お腹痛いよー」
 今日はラジオに伝言入れるから、絶対に聞いてよねと高根沢 理子(たかねざわ・りこ)に言われた酒杜 陽一(さかもり・よういち)でしたが、なんとかラジオを聞いてはいるものの、ベッドの中でうんうんと唸っていました。
 原因は、酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が作ってくれたひじき御飯でした。
 もっとも、ひじき御飯とは名ばかりで、それはブラックアリスのアーガマーハを入れた物らしいのですが、何を入れたのか存在自体が謎すぎて、お腹も謎になっています。
「まったく、この程度で寝込んでしまうなんて、お兄ちゃんも根性ないわね。ほら、これでも食べて、精をつけてよ」
 そう言って、夜食代わりのたこ焼きを持ってきたのは酒杜美由子です。お腹が痛い人に、たこ焼きを持ってくるなんて、容赦ありません。
「なんだか、これ、中で何かがぞわぞわしてないか?」
「はははははははは、いやあねえ。気のせいよお!」
 バンバンと酒杜陽一の背中を叩きながら、酒杜美由子が言いました。
 その時、ラジオに高根沢理子の伝言が流れ始めました。

『もしもーし、えーっと、これ、もう入ってるのかな? まっ、いいや。
 高根沢理子だ。
 じきに最終決戦も控えて忙しい限りだけど、この戦いには絶対に勝つ!
 そして、勝ったらやりたいことがあるんだ。
 別に、死亡フラグじゃないからね。
 それは、ずばり諸国漫遊よ!
 ほら、巨悪が滅びたって、小悪党がいなくなるわけじゃないじゃない。
 そういう奴らを、ぶん殴って、千切って、投げ飛ばすのよ!
 べ、別に、宮殿に籠もってるのが嫌とかそういうのじゃないんだから。
 で、もう、お供の二人はだいたい決めてあるのよね。
 覚悟してなさいよ。
 世直しは、このあたしの手で実現させるんだからっ。ねっ』


『お供の家来って、誰なんだろ……』
 金元 ななな(かねもと・ななな)のきょとんとした声が聞こえてきます。

「さあ、いったい誰なんだろう」
「さあ、ねえ……」
 酒杜陽一と酒杜美由子が顔を見合わせて首をかしげました。もしかすると、皇 彼方(はなぶさ・かなた)テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)のことでしょうか。
「そんなことより、早くこれを食べなさい……」
「俺を殺す気か……」
「だから、早く往生しなさいって……」
「だが、断る……」
 たこ焼きを持った手をがっしりとつかみ合いながら、酒杜陽一と酒杜美由子は、いつ果てるともない戦いを続けていったのでした。

    ★    ★    ★

『それでは、ここでお便りが来ているので、突発的に探し人のコーナーです』

『私のお婆ちゃんが行方不明なんです!
 あれはよく晴れた日のこと
 私は病気のお婆ちゃんのお見舞いに行ったの
 途中道草しちゃったけど、無事お婆ちゃんの家に着いたわ
 でも、ベットの上のお婆ちゃんの様子が変なの
 私は聞いてみたわ
 お婆ちゃんのお耳はどうしてそんなに大きいの?
 そしたらお婆ちゃんこう言ったの
 それはね…
 びっくりしておっきくなっちゃったー!
 びっくりしたのはこっちよ!
 でもその人、ちょっと変わった手品を沢山見せてくれたの
 とっても楽しかったんだけど、でもお婆ちゃんがどこにもいないの
 その人に聞いても、手品を見せてくれるだけでお婆ちゃんがどこにいるか教えてくれないの
 シャレードさん、どうかお婆ちゃんを探してください!』


『ええと、ペンネームは縦じまを横にしても赤ずきんさんから……って、これ、ネタですよね、ネタ!』

「ふふふふふ、そうだとも、ネタだとも。ふはははははは」
 放送を聞いて一人ニマニマするアキラ・セイルーンです。
「気持ち悪い……」
「やっぱり、恋人やめます」
 その姿を見て、思いっきりドン引くアリス・ドロワーズとヨン・ナイフィードでした。

    ★    ★    ★

『そういうことなので、ここは、寒すぎるネタのコーナーに変更します。
 ええと、ペンネーム、かよわい普通の新婚さんから、身の毛もよだつ寒いギャグが二つ来ております。
 いきますよ。身構えてください』

「ちょっと待て、まだ何か投稿していたのか?」
 ちまちまと仕事を進めていたダリル・ガイザックが、呆れたようにルカルカ・ルーを見ました。
 いったい、何を投稿したというのでしょう。
「あっ、一番読まれなくてもいい物が……」
 さすがに、ルカルカ・ルーの顔も引きつります。

『では、いきます』

『幽霊が食事をするのは裏飯屋(ウラメシヤ)』

 なんだか、スタジオと、ダリル・ガイザックとルカルカ・ルーのいる部屋に、寒い風が通りすぎました。

『もう一つ』

『子猫がキャット驚くにゃん』

 さらに、スタジオと、ダリル・ガイザックとルカルカ・ルーのいる部屋に、ブリザードが吹き荒れました。
「あはははは……」
 もう、やけになって、ルカルカ・ルーが乾いた笑いをあげます。
「今度、もし悩みができたら、すぐに俺に言うように。いいな?」
 さすがにルカルカ・ルーのことが心配になって、ダリル・ガイザックが、やさしく言いました。

    ★    ★    ★

『そろそろ今夜もお別れの時間となってしまいました。
 うっすらと夜空に光が差し始めています。
 この夜明けが、すべての夜の帳を取り払う、すばらしい夜明けとなりますように。
 ある人には、お休みなさい。
 そして、ある人には、おはようございます。
 そして、そして、あの人には……。
 ミッドナイトシャンバラ、お相手は私、シャレード・ムーン。ゲストは、御神楽環菜さん、リン・ダージさん、吉井 真理子(よしい・まりこ)さん、金元なななさんでお送りしました。それではまた』

    ★    ★    ★

 エンディングコールが流れ、無事に番組が終了しました。
「おつかれさまー」
 出演した者たちが、控え室に戻ってきます。
「あっ、今お茶出しますねー」
 バイトのみっちゃんこと、ミルディア・ディスティンがお茶をみんなに配っていきました。
「今日はおつかれさまー。でも、もう少しお喋りしましょうか」

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 関係者の皆様、お疲れでしたー。
 ずいぶん前からやろうとしていたのですが、いろいろと制限がありまして、やっと許可が出たという感じです。ほとんど2年かかってますね。
 それでも、いろいろとややこしかったのか、せっかくアクションで投稿をしていても、ボイスの申請を忘れる人が続出しまして、まだガイド分かりにくかったかあと反省しきりです。
 そのへんは仕方ないので、救済措置として、急遽先週の放送があったことにして、今まで通りの文章版のミッドナイトシャンバラを追加しました。とりあえずは、なるべくアクションの内容は全部拾いあげられるようにと言う感じで。
 手続きがややこしかったのは、価格がボイスシナリオよりも安いとか、いろいろな要因を実現するために仕方なかったわけですが、文章的には私の方でいろいろと調整すればいいわけですが、さすがに声優さんにノーギャラで喋ってもらうわけにもいかないので、ボイスに登場できたのは、ガイド通りの手順を踏んだ方のみになっております。
 思えば、本来スペシャルシナリオである休日シナリオなどの特殊シナリオをずっとノーマルで通したりとか、NPCを登場させるときもLCをダミー追加しなくてもいいことにしたりと、かなり頑張ってPLの負担を減らす方へと持っていったりしていたのですが、その反動で参加条件が分かりにくいというのも結構ありましたねえ。
 トーナメントシナリオとか、レースシナリオとか、コンテストシナリオとか、結構複雑でしたし。まあ、そのおかげで、実行の時にいろいろ修正しなければいけないことがでたりして、ヒーヒー言いながらリアクション処理したりもしましたが。
 まあ、今回も臨機応変がいろいろと必要だったりして、結構大変でした。リアクションと、放送台本と2本作らなければならなかったり、台本がスケジュールの都合で二転三転したりとか。台本が、最終的に第五版になっているのは、気づかなかったことにしておこう……。
 で、今回のシナリオは、なるべく声優さんに自由にやってもらおうというコンセプトもあったので、アドリブじゃんじゃんやってねと言ってはあります。どんなアドリブがあるのか今から楽しみなんですが、さてはて。そのへんも含めて、みなさんで楽しんでいただければ幸いです。