リアクション
イルミンスールの休日 「さあ、さっそく対戦しようよ。僕の相手はどこだい?」 戦闘用イコプラを手に持って、鳴神 裁(なるかみ・さい)が言いました。 今日は、イルミンスールの修練場で、及川 翠(おいかわ・みどり)とイコプラ対決をする予定だったのです。 けれども、ぐるりと周囲を見回しても、対戦相手であるはずのイコプラがいません。肝心の及川翠の姿も見えません。それどころか、修練場はもふもふの山です。 そのすべては、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)が連れてきた大量のもふもふ生き物たちです。わたげ大隊に、わたげうさぎ杏に、魔導わたげうさぎボルトに、魔導わたげうさぎノヴァに、巨大わたげうさぎ苺に、ナイト黒猫という、それはそれはもふもふです。 「もふもふファイト、受けてたちます」 「いや、イコプラファイトだよ?」 鳴神裁がミリア・アンドレッティに言い返しました。どうも、情報に差異があるようです。 「ええっ? 私は、もふもふビットをまた作るって聞いてきましたよ?」 ティナ・ファインタック(てぃな・ふぁいんたっく)が言いました。 「私は……、なんでここにいるんでしょう?」 ユーフェミア・クリスタリア(ゆーふぇみあ・くりすたりあ)に至っては、なんでここに連れてこられたのかも把握していないようでした。 「どうしよう、これ」 予定が狂った鳴神裁が、困ったように言いました。 「いいえ、準備はできています。その凄まじい枕型イコプラに、もふもふ装甲をつけてさしあげましょう。みんな、始めるわよ」 一人もふもふのために息巻いていたミリア・アンドレッティが、鳴神裁のイコプラへもふもふ装甲を貼りつけていきました。 「ええっ……!?」 みるみるうちに、鳴神裁のイコプラが、もふもふ枕へと変わり果てました。実に寝心地がよさそうです。 「完成です!」 「わーい、バチバチ」 宣言するミリア・アンドレッティに、ティナ・ファインタックが拍手します。 「じょ、冗談じゃないわ……」 あわや、もふもふの一部としてイコプラに貼りつけられそうになったユーフェミア・クリスタリアが、修練場の壁際でゼイゼイ荒い息をつきます。連れてきたたくさんのもふもふたちも、それぞれもふもふをとられてしまい、全員10円禿げだらけです。 そこへ、小ババ様が現れました。 なんとなく、もふもふファイトの気配を感じとったのでしょうか。 「あっ、小ババ様、いいところへ。イコンファイトしない?」 「もふもふファイトです」 ミリア・アンドレッティが、鳴神裁の言葉を訂正しました。 「こばあ〜♪」 どうやら、小ババ様は受けてたつようです。 「こばこばぁ!」 修練場の中央に立つと、小ババ様がパチンとちっちゃな指を鳴らしました。 すると、修練場の床に光り輝く魔方陣が現れ、その中から赤いランドセルを背負ったアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)の姿をした小ババ様専用イコンが、腕を組んでポーズをつけたまませり上がってきました。ポンと飛びあがった小ババ様が、開け放たれたコックピットハッチに飛び込んでいきます。 「よっし、イコプラファイト開始だあ」 「もふもふファイト!」 あくまでも、鳴神裁のセリフを訂正するミリア・アンドレッティでした。 「こばぁ!」 もはや、もふもふの毛玉の塊にしか見えない鳴神裁のイコプラにむかって、小ババ様が必殺のもふもふビットを発射しました。 けれども、毛玉のごとくゴロゴロと転がりながらも、鳴神裁のイコプラが、もふもふ同士のふんわり感を使って、もふもふビットを弾き返します。とはいえ、ビットのあたった反動で、イコプラはあっちにコロコロ、こっちにコロコロしました。 転がるイコプラ、飛び交うもふもふビット、逃げ回る10円禿げもふもふペットたちと、修練場は大パニックです。当然、中にいる鳴神裁やミリア・アンドレッティたちも逃げ場がありません。全身をもふもふに撫で繰り回されて、恍惚の天国へと誘われていったのでした。 「こばあ?」 急に動きの止まった敵イコプラを見て、コックピットの中の小ババ様が首をかしげました。それにあわせるように、小ババ様専用イコンも可愛らしく小首をかしげます。 「こばこばあ?」 どうしたのと、イコンの中から出てきた小ババ様が目撃したのは、もふもふにされて床の上でとろけている鳴神裁とミリア・アンドレッティとティナ・ファインタックとユーフェミア・クリスタリアの姿でした。 ★ ★ ★ 「いたいた。最近姿を見ないと思ったら、いったい何をしていたの?」 宿り樹に果実で大神 御嶽(おおがみ・うたき)の姿を見つけた天城 紗理華(あまぎ・さりか)が、躊躇することなく同じテーブルに着きました。 「あっ、ミリアさーん、コーヒー二つ」 天城紗理華が、ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)に自分とアリアス・ジェイリル(ありあす・じぇいりる)の分のコーヒーを注文しました。 「御主人様は、旅支度をしていたのですら」 なんだか、自慢そうにキネコ・マネー(きねこ・まねー)が答えます。 「旅?」 天城紗理華が怪訝そう顔で、軽く大神御嶽を睨みます。 大神御嶽が慌ててキネコ・マネーを押さえつけようとしましたが、手遅れでした。 「どういうことよ」 「いえ、単に進路のことでね。陰陽師系を極めようと思ったら、葦原島に行くのがいいんじゃないかと……」 大神御嶽が、少し言いにくそうに答えました。 「当然、一人で行くのですら。わしはお留守番……」 「それはないから」 「横暴ですら!」 これで自由になれると言わんばかりのキネコ・マネーに、すかさず大神御嶽が釘を刺しました。 「へーえ、またそんなことを勝手に決めて」 「いや、これは、私の問題ですし。紗理華もルーン魔術の方を極めるつもりですか?」 「さあ、それはどうかしら」 何やら考え込みながら、天城紗理華は大神御嶽に答えました。 |
||