蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

学生たちの休日18

リアクション公開中!

学生たちの休日18

リアクション

    ★    ★    ★

「これで、お願いするであります!」
 以前、ソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)が夏合宿の宝探しで手に入れた『リン・ダージデート券』を両手に持って、大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)が90度に身体を曲げてリン・ダージに頭を下げました。
 このデート券は、ソフィア・クレメントに男を紹介するという交換条件で譲り受けた物です。ソフィア・クレメントの方は、このデートの結果がどんな酷いことになるのかと、わくわくしながら物陰から観察しています。
「うー、どうしようかなあ……」
 そういえば、そんなことを頼まれて、券を作ったなあと、リン・ダージが忘れていた記憶を呼び覚まします。
 あらためてみてみれば、大洞剛太郎は、いかにも教導団の軍人らしい風貌でありながら、丸刈りの頭には海パンを被っています。もしかしなくても、Pモヒカン族なのでしょうか。あるいは、P級四天王とか……。よく見ると、被っているパンツには『P級四天王パンツしきたり番長』と書いてあります。
 お風呂なので、下はパンツを穿いていませんが、一応タオルを巻いています。さらに、なぜかバスローブを袖を通さないで肩にかけているという、なんとも形容しがたいファッションでした。
「普通、ドンびきますわよね」
 自分もパンツを被るように大洞剛太郎から指示されたソフィア・クレメントでしたが、さすがに乙女心がぎりぎりの所で拒絶しました。まだ捨てたくない物があります。
 で、問題はリン・ダージの方です。もの凄く心の中で葛藤しているのが目に見えます。貢ぐ君は欲しいところですが、変態はどうでしよう。アリスとしては、欲望にストレートな者は嫌いではありませんが、変態は変態です。
 ちなみに、リン・ダージ自身は、自分のことは色っぽいと思っています。わざとパンツを見せたりしても、決して変態ではありません。
「と、とりあえず、どうしたいのよ」
「と、とりあえず、デートしたいのでありますよ」
 なんだか、二人とも、微妙にぎこちないです。それを見て、ソフィア・クレメントが、近くのお風呂の水面をバチャバチャ叩いて喜びました。
「とりあえず、これを受け取ってほしいのであります」
 そう言うと、大洞剛太郎がリン・ダージにパンツーハット黒を渡しました。こちらは、お宝探しで、大洞剛太郎自身が見つけた物です。
「どうぞ、それを被って……」
「被るかあ!」
 リン・ダージのキックをまともに食らって、大洞剛太郎がパンツーハット黒を放り出して流れるお風呂に落ちました。
「まったく、パンツは穿く物よ!」
 とりあえず、大洞剛太郎が落としたパンツーハットを、リン・ダージが穿いてみました。サイズが合いません、ぶかぶかです。
「使えないじゃない……」
 なんなの、これはと、リン・ダージが溜め息をつきました。身体に巻いたタオルをはだけて両手で持ちあげてないと、簡単にずり落ちてしまうではありませんか。
「と、とりあえず、テラスに戻って、お茶でも……。はっ、パンツーハットがない!」
 なんとか這い上がってきた大洞剛太郎が、頭に手をやって叫びました。どうやら、さっきお風呂に落ちた反動で、自分のパンツーハットが脱げて流されていったようです。
「うおおおお、これでは、P級四天王としてしきたりが守れないであります!」
 大洞剛太郎が、大あわてで頭をかかえました。P級四天王しきたり番長としては、致命的なミスです。
「もう、そんなにパンツが被りたいなら、これあげるわよ」
 そう言うと、リン・ダージが、さっき試しに穿いてみたパンツを脱いで、大洞剛太郎に手渡しました。
「それを自分にでありますか! リンちゃんの脱ぎたてパンツ!!」
 なんだかデレデレの顔をして、パンツを受け取った大洞剛太郎が興奮気味に言いました。さっそく、パンツーハットを頭に被ります。
「このド変態めがあ! 天誅!」
 その瞬間、突然現れたソフィア・クレメントと及川翠が、大洞剛太郎にダブルフライング天誅キックを見舞いました。なんだか、嫌な音が響いたような気もします。
 吹っ飛ばされた大洞剛太郎が再び流れるプールに落ちて、ぷかーっとあおむけに浮かびあがりました。パンツーハットを被ったまま、そのまま流されていきます。
「あーあ、なんだかなあ……」
 リン・ダージが、背中の羽根をパタパタさせて宙を飛ぶと、大洞剛太郎のお腹の上に下りてペタンコ座りをしました。
「まあ、足蹴にするにはちょうどいいかも……。とりあえず、このままリーダーのとこまで流れていくかなあ」
 大洞剛太郎に乗っかったまま、リン・ダージは呑気にそう言いました。

    ★    ★    ★

「よーし、今度は右腕を動かしてみてくれ」
 アンシャールの各部と接続した計測機器に目を走らせながら月崎 羽純(つきざき・はすみ)遠野 歌菜(とおの・かな)に言いました。
「はーい」
 コックピットに入った遠野歌菜が、軽くイコンの右腕を動かしてみます。
「筋電位は通常値の範囲内。触媒内の老廃物も通常。触媒の劣化は想定範囲内だな。よし、人工筋肉は問題なし。アポジモーターとの同期も良好だ。次、武装のチェックに入るぞー」
「はーい、今下りてくー」
 月崎羽純に呼ばれて、遠野歌菜がコックピットからハンディリフトを使って下りてきました。
 機体の次は、武装のチェックです。
 ウェポンラックに収められている暁と宵の槍を、月崎羽純が超音波センサーでチェックします。打撃が加わる武器ですから、目に見えないような罅でも見逃すことはできません。
 遠野歌菜の方は、マジックカノンの方を担当しました。パイロットの魔力をエネルギー波に変換するコンバーターを、自らの魔力を使ってチェックします。やや魔力の伝達にロスがありますので、伝導管を新しい物に交換しました。高位の魔力に晒される物質ですので変質しやすく、このへんは消耗部品となります。
「よし、後は掃除だな」
 機体の魔法的な不純物の浄化は専門の人たち任せると、月崎羽純と遠野歌菜はモップを持ってアンシャールの装甲を磨き始めました。青みを帯びた装甲は、暖かな艶を生み出して実に綺麗です。
「後は、実際に動かしてみなくちゃね」
 一通りのメンテを終えると、遠野歌菜が月崎羽純をうながしました。二人でコックピットに乗り込むと、本格的にアンシャールを起動させました。
 コックピット内が命持つ者のような暖かさにつつまれます。
 ハンガーの蔓草が解けると、アンシャールがゆっくりと歩き出しました。
「動きに引っ掛かりのようなものはなくなったな。実にスムーズだ」
「うん。調子いいよね」
 発進用のうろまで進むと、アンシャールがマントのようなエナジーウイングを広げました。それがはためくと、巨大な機体がふわりと浮きあがり始めます。
「うそ〜」
 突然イコンが出てきたのに驚いて、が世界樹の上の方の枝へと飛んで逃げました。
 イコン枝から出てみると、外はもう夕暮れ時でした。茜射す光がアンシャールの装甲の上で弾けて、機体が菫色に染まります。
「綺麗だなあ。ねえねえ、このまま少し散歩に行かない?」
 夕焼けを見て、遠野歌菜が月崎羽純に言いました。
「散歩? まあ、悪くはないかな。ちょっとつきあってくれよ、アンシャール」
 そう言うと、月崎羽純はフローターの出力を上げて空高く舞いあがりました。