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リアクション
「迷子になりました」
 当たり前のようにいつものようにそうなったことをアリサは端的に言う。
 見知らぬ土地で迷子になるのは方向音痴の必然であるので、アリサ自身も悟ったかのように慌てない様子。
 すでに迷子にならないということを諦めているのだった。
 ともに迷子となった月見里 迦耶(やまなし・かや)がポケットからお菓子を取り出し、アリサに渡す。
「しばらくしたら皆さんが見つけてくれますよ」
「そうですね」
 アリサは差し出された【お月見団子】を受け取る。
「待っていればそのうち」と迦耶が言う。
「歩いていればそのうち」とアリサが言う。
 疑いようもなく、アリサは更に迷子になる模様。
 アリサは訂正し、
「そうですね、待ちましょうか」
 と言って石段に座った。傍らに緑茶が置かれる。
 誰も住んでいない都市の風景を眺めつつ一服することにする。
 《精神感応》や《テレパシー》でアリサを探す彼らの声がする。待っていると答えると、彼らは口をそろえて「絶対に動くな」と言った。
 待っている間に迦耶がアリサに尋ねる。
「アリサさん。アリスさんのほうには行かなくてよかったんですか?」
 緑茶を一服してアリサが答える。
「正直、今更アリスが帰ってきても、私は何をすればいいのかわかりません。もしかしたらアリスは私を恨んでいるかもしれない」
「そんなことないですよ! 別人格とはいえ、同じ人間だったんですから」
「いいえ、そうとも限らない。私とアリサは肉体を共有してはいたけど、思考までは共有してなかったの。同じ脳を使っているはずなのに、互いの考えが揃ってなかった」
「なら、アリスさんがアリサさんを恨んでいるかもわからないじゃないですか」
「そうよね。だから少し逃げているの。気持ちの整理がつくまで」
 アリサはお茶うけを迦耶に返しお礼を言う。
「ごちそうさま。どうせアリスには会わないといけないのだから、彼女が帰ってくるまでに私のすべきことをしないと」
 それはRAR.に会ってこの【第三世界】を救う手伝いをすること。
 それはアリサにしか出来ないことであり、彼女にとってスティレットへの――もしかしたらこの世界を外世界と繋いでしまったことに対しての贖罪なのだ。
 近づく影があった。
 それは人ではないが、敢えて彼女と呼ぼう。
 彼女は言った。
「見つけた」
 彼女はこのオリュンズにいる唯一の市民。
 彼女は――
 
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