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 過去の引き出し

 時間旅行へ出発する前に、イーシャンとシルヴァニーは太神 吼牙(おおかみ・こうが)は告げました。
「過去の記憶がない状態で時間を超えるのは、もしかしたら危険な事かもしれない。どの時間軸に出るか解らないからね」
「……とはいえ、本来俺達の力はアンタみたいな人の為にあるのかもしれないけどな」
 吼牙と王 大鋸(わん・だーじゅ)は、吼牙の過去へ向かっていきました。


 ◇   ◇   ◇


 過去の記憶がない吼牙は、これまで彼のパートナーと共にその手掛かりを掴もうとしていた。パートナーの話から、どうやら封印されていたらしい事は察するが、何故そうなったのかまでは彼の記憶にはない。
「で、俺様の登場となったわけだぜ! ……ところで、何故だ?」
「あんたなら、オレがもし危険人物だった時……それこそ容赦なく止めてくれると思ったからだ。本当は……記憶はもう戻らなくてもいいと、最近はそう思っていた、だが周囲を危険に晒すような可能性があるのなら少しでも減らしておきたいからな」
 王はモヒカンを撫でながら上を見上げた。―危険人物、と事も無げに言う目の前の青年に何かしら思う所はある様子を見せた。
「ところで、この真っ暗な場所何とかならねえのか……」
 ぼやく王は、漸く目が慣れたところなのか辺りを見回してみるがはっきりした場所を示すものは見当たらない。代わりに微かな呻き声を耳にした吼牙と王は思わず後ずさった。
「な、何だ? 何か聞こえねえか?」
「……ああ、そうか」
 どこか納得したような吼牙に王は声のする方へ視線を向けると、真っ暗だった空間に細い光が差し込み、それが次第に広がっていくのが見えると、この光景を思い出した吼牙は咄嗟に王と隠れる場所を探してその光から姿を隠した。
「おい……狭いぞ」
「悪いけど、我慢してくれ」
 光の向こうから聞こえたのは、少女の声――吼牙のパートナー、月見里 迦耶だった。

 吼牙と王が降り立った過去は、吼牙と迦耶が出会った時の事だった。真っ暗な中で苦しんでいた吼牙が、彼女と出会う事でこの場所からも解放された記憶は彼の中で一番古いものだったらしい。
「……2人とも行っちまったけど、追いかけなくていいのか?」
「この先の事なら、オレも解っている……オレが知りたいのは、迦耶と出会う前の……何故封印されていたのか、オレは何者なのかという事なんだ」
 しかし、それは吼牙が危惧する事でもあった。記憶喪失になった者が記憶を取り戻したら、失った時から現在までの記憶が消える事がある――それは、吼牙が知らない自分を呼び起こす事に繋がり、王を危険に晒す事になるのではという気持ちも拭いきれていなかった。


 ◇   ◇   ◇


 過去から更に過去の時間軸へ――それが可能かどうか、と魔道書達も戸惑った。
「ここは既に過去だからね……君の記憶にある中で最も古いものなら、後はどの時代に飛ぶか解らない」
「要するに、歴史を捏造する事や生まれるはずだった、生まれないはずだったっていう存在すら操作しようと思えば出来ちまう。ま……これは極端な例だけどな」
 魔道書達の話に、吼牙も迷いを見せた。
「今のオレが記憶している以前の過去には、行けない可能性が高い……そういう事だな」
 頷いた魔道書達に、吼牙より先に王が口を開いた。
「過去ってのは、てめえが今まで積み重ねてきた時間だ……それは何もあの子に出逢ってからってわけじゃねぇ。その前にも吼牙を知るヤツや、てめえをあんな場所に押し込めたヤツが居るはずだ。……それを知りたいんじゃなかったのかよ」
 黙っている吼牙の胸倉を王は思いっきり掴み上げ、顔を近付ける。強面に若干引き気味の吼牙だったが、それに構わず王は続けた。
「てめえはまだ迷子なんだぞ……帰る場所はあるのに、何を怖がってんだ! 迷った子供を俺様がほっとくわけねえだろうが!」
「……オレ、迷子になる歳じゃないんだけど」
 冷静な切り返しに王は更に鼻息を荒くした。
「そういう意味で言ってんじゃねえ! ……あのなぁ、俺様ならとことんてめえに付き合ってやるって言ってんだよ。これ以上過去を遡れないなら、他にてめえの記憶を辿る方法見つけるしかねえだろうが」
 吼牙の胸倉をゆっくり離した王は、両手を彼の肩に置いて諭し続けた。
「てめえが何を怖がってるのか知らねえ……だがそれは、俺様の事も、てめえのパートナーの事もてめえらが結んだ絆も信じてねえ事になるんじゃねえか……?」
 暫く、沈黙が流れた。
「……吼牙さん?」
 イーシャンが顔を覗き込もうとしたところで、吼牙がくしゃくしゃと前髪を掻き、真っ直ぐに王を見据える。
「言いたい放題、言ってくれるな……でも、優しく言われるよりガツンときたかも……あんたに一緒に来てもらって、良かったよ王 大鋸」

 パートナーである迦耶に封印を解除してもらうまで、吼牙が居た闇の中に目を向けた彼はあっさりと言ってのけた。
「戻ろう、現代へ。そういえばオレ、あいつらには過去へ行ってくるなんて話していないんだ」
 姿の見えない吼牙を今頃探しているかもしれない――そんな光景が予想出来た事から、魔道書達も慌てて現代へと時間軸を合わせて立ち戻った。


 ◇   ◇   ◇


 過去は過去――
 今、オレにとって大切な奴らがいる。
 覚えていない過去を取り戻した時が怖くても、あいつらと王を信じよう。

 例え、思い出した記憶によってそれまでの記憶を失う事があるとしても、失わなずに留める事が出来るように――

 そうすれば、オレは自分を見失わずにいられると信じて――

担当マスターより

▼担当マスター

小湊たまご

▼マスターコメント

初めましての皆様、再びお目にかかれた皆様ご参加頂きありがとうございます。
第9作目「過去の思い出 描く未来図を見てみよう」をお目通し頂きありがとうございます。
そして、「蒼空のフロンティア」最後のシナリオとなりました。

この場所で皆様が過ごした時間の一部を描かせて頂き、正直足りないなと思ってしまっています。
ですが、最後に皆様の大切な思い出、未来への望みを書けた事……パラミタで過ごすPC様の明日も明後日も存在しているのだと感じて頂けたらいいなと思います。

また、今回ご登場頂いたPC様に称号を発行しております。ご確認下さいますようお願い致します。
そして最後という事もあり、温かいお言葉を頂いてとても嬉しかったです。
どこかでまた、お会い出来ますようにと小湊も願っております。

これまで、小湊のシナリオにご参加頂いた全てのPC様PL様に改めてお礼申し上げます。

ありがとうございました。