校長室
終りゆく世界を、あなたと共に
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……ん、えーんえーんえーん。 「……あ」 月見里 迦耶(やまなし・かや)は、どこからか聞こえる泣き声で悪夢から目覚めた。 体全体が、汗でじっとりと濡れていた。 たしか、孤児院に遊びに来ていたはず。 お茶の用意をして……それから、ついうたた寝をしてしまったらしい。 「夢……だったのですね」 世界が終わる夢。 なんとか終わらないようにと努力してみたが、それは実らなかった。 一瞬、夢の記憶に捕われかけるが、すぐに現実に引き戻される。 「これは……ペペさん。泣いているのですか?」 その小さな泣き声が、自身の寝袋型髪留めで眠っているペイジ・ペンウッド(ぺいじ・ぺんうっど)のものだと気付いた迦耶は、慌ててペイジを慰める。 「どうしました? 怖い夢でも見ましたか?」 「夢……ユメなの? せかいがおわるの、本当じゃなかったの?」 その言葉で、迦耶はペイジもまた同じ悪夢を見ていたことに気付く。 「ええ……そうですよ、世界は、終わりませんから」 「そうなの……?」 まだ胡乱気に自身に抱き着いてくるペイジを確認しながら、迦耶はペイジと同じパートナー、太神 吼牙(おおかみ・こうが)のことを考える。 彼もまた、同じ夢を見ているのかもしれない。 たった1人で…… そう考えた迦耶は慌てて立ち上がる。 冷めてしまったお茶を淹れ直すと、吼牙を探しに出かけた。 「ペペさんも行く!」 ペイジと共に。 ――吼牙はすぐに見つかった。 庭の遊具の下で、眠っていた。 「すごい汗……」 迦耶はハンカチを取り出すと、時折唸り声をあげながらうなされている吼牙の額をそっと拭う。 「う……あ、な、何だ?」 「悪い夢でも見ていましたか?」 「べ、別に……」 吼牙は迦耶とペイジの姿を確認し、一瞬驚きそしてほっとした表情を見せる。 しかしすぐ心配をかけまいと、何事もない振りをする。 世界の終わりを目前に心折れ諦めたが、立ち向かおうとした迦耶の姿を見て再び努力した……なんて、とても言えることじゃない。 「……なんでもない」 しかし迦耶は全てお見通しとでも言うように、吼牙に告げた。 「……これから先、どんな事が起こるかわからないけれど、一つだけわかっている事があります。それは、これまでもこれからも、私がオオカミさんを大切に思ってるという事です」 「ぺぺさんはー……?」 迦耶と吼牙の重なる手の上に、飛び乗ったペペが聞く。 「もちろん、ぺぺさんも」 頬を寄せながら言われ、満足そうに微笑んだ。 「さ、お茶が冷めてしまいますよ」 迦耶に促され、吼牙は立ち上がる。 部屋に向かう二人に少し遅れ、吼牙も後に続く。 その頭上には青い青い空が広がっていた。