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王子様と紅葉と私

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【それから】

 空京の外れに、ヴァレリアの姿があった。
「いい? 結婚は結婚して終わりじゃないのよ? 相手の事、これからの事……きちんと考えて、ね?」
「そうね。将来もずっと一緒にいることになるのよ」
 リネン・ロスヴァイセ(りねん・ろすヴぁいせ)の言葉に、フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)が頷く。
「これからずっと……」
 小さくヴァレリアは呟いて、口を閉ざした。
 ヴァレリアはこれから、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)とのデートに向かうところだ。
「今度は小姑じみてきてるぜ、リネン?」
 フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が小さく突っ込むと、フリューネが思わず笑った。
「ヴァレリアお姉ちゃん、結婚するの?」
 リネンにくっついているタマ・ロスヴァイセ(たま・ろすう゛ぁいせ)が無邪気に訊ねる。
「ええ、以前何名かの方にプロポーズいたしまして……」
 ヴァレリアやリネンからエピソードを聞いたタマは、目を輝かせながら話を聞いた。
「ほえぇぇ……でも、大事な人がいるのって素敵なことだよね!」
 タマは複数人に同時プロポーズするものなのかと思い込んだようだ。
「とにかく、さっき言ったことを忘れないでね」
「はい」
 そう答えるヴァレリアは、いつになく真剣な顔つきをしていた。
 胸の中で、リネンとフリューネの言葉を反芻する。
「いってらっしゃい!」
 大きく手を振るタマにヴァレリアは微笑みかけて、それから小走りで貴仁との待ち合わせ場所に向かっていった。
「……キロスも無責任よね」
 去っていくヴァレリアの背を見つめてぼそっと呟くリネンに、フリューネも苦笑した。


「俺の倫理観は日本ベースのものになってる、ということを先に言っておきます」
 貴仁はヴァレリアと歩き始めると、まずそう切り出した。
 二人はこれから、空京の街中でデートをする約束だ。
「……本来、恋愛事ってのは一対一で行われる真剣勝負みたいなものだと思うんですよ。まぁ、『友達』としてなら何人もいてもいいとは思うんですが」
「お友達はたくさんできましたわ」
「その点については、俺も嬉しく思います。でも、恋人や婚約者はたくさんできるものではないんですよ」
 比較的静かな通りに、貴仁の声が響く。
「……先日は、たくさんの方が私を助けに来て下さったそうですわね。そうなると王子様だらけになってしまうと、後から反省致しました」
「王子様かどうかは分かりませんが、そうなりますよね」
 しゅんと項垂れるヴァレリアを、貴仁は真剣な顔つきで見据える。
「ちょっときついこと言ってるかな? とは自覚はありますが、俺も一応婚約者? って立場ですしあなたとこの先もともに歩いていく覚悟をしてるから言ってるんですよ?」
「わたくしと共に……」
 ヴァレリアは、貴仁を見つめた。
「……」
「どうしましたか」
「その、貴仁様がわたくしのことを考えて下さっていることは、充分に伝わっております。
 わたくしとのこれから将来のことを考えて頂いて、とても……とても嬉しいことです」
「婚約者なら、結婚相手のことを真剣に考えるものでしょう」
 貴仁とヴァレリアは、紅葉する公園に差し掛かった。
「……たくさんの方が、わたくしのためを思って様々なアドバイスをして下さいました。
 いろいろと考える機会を下さいました。……でも、貴仁様だけは、ちょっと違うのですわね」
「違うとは?」
「これからも、わたしの婚約者としていて下さるのですね」
 複雑そうな表情で、貴仁はヴァレリアを見た。
「……婚約者というのは、いずれ結婚することになる相手のことでしょう。結婚もせず、いつまでも婚約者のままというわけではないと思いますが」
「結婚……そうですわね」
 貴仁の言葉を聞きながら、ヴァレリアは頷いた。
「わたくし、結婚とか婚約者とか王子様とか、そういうものは関係なくても……ええと、その。
 上手く言えませんけど……わたくし、もっと貴仁様とお話したいです。貴仁様にいろいろなことを教えて頂きたいです」
「俺で良ければいくらでも話します。教えるというほどのことでもないと思いますが」
 視界の先に、開けた街の大通りが見えてくる。
「……わたくし、貴仁様とは将来のことをしっかり話し合えると思いますの。これから生きていく上で、きっとそれが大切なのだと思います」
 そこまで言ってヴァレリアは、ほんの少しだけ頬を赤らめた。
「順番が逆かもしれませんけど……多分、これが好きだということなのだと、思いましたの……」


 一日のデートを終えたヴァレリアを、リネンとフリューネ、フェイミィとタマが出迎えた。
「ヴァレリア……」
「はい。……わたくし、貴仁様とお付き合い致します」
「結婚することになったの!?」
「ええ……きっと、恐らく、遠くないうちに」
 すっかり表情の変わったヴァレリアは、タマに微笑みかけた。
 リネンとフリューネは何も言わなくても、ヴァレリアの心境の変化を理解したようだった。
「おめでとう。幸せにな」
 フェイミィがヴァレリアに祝福の言葉をかける。
「おめでとう」
 リネンも、ヴァレリアに祝福の言葉をかけた。
「……オレもそんな恋をしてみたいなぁ。一度、カナンに帰ってみっかなぁ?」
 フェイミィの呟きを聞きながら、ヴァレリアは空を見上げた。
 澄んだ空はすぐそこまで、冬の訪れを告げていた。

担当マスターより

▼担当マスター

八子 棗

▼マスターコメント

 初めましての方は初めまして。そしてこんにちは。
 本シナリオでラストとなります、八子 棗です。
 シナリオへのご参加、誠に有り難うございました。
 予定よりも公開が遅くなってしまいまして、申し訳ございませんでした。

 ヴァレリアのことを本当に沢山の方に心配して頂きまして……いろいろな意味でお礼申し上げます。
 今後も皆様に支えられて、きっと無事に生活していけることでしょう。

 ヴァレリア関連のシナリオに関わって頂いた方、そして恋愛のシナリオ等で描写させて頂いた方、ありがとうございました。
 本当に勉強になりましたし、何より執筆が楽しかったです。

 それではまたどこかで、皆様の目に触れる作品等を執筆して行きたいと考えております。有り難うございました!