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王子様と紅葉と私

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【秋、紅葉、女子会】

 紅葉する木々の美しい山腹に、風森 望(かぜもり・のぞみ)ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)のすがたがあった。
 ヴァレリアから女子会のお誘いがあったため、紅葉狩りの楽しめるこの山でティータイムの準備をすることにしたのだ。
 問答無用で連れてこられたノートは、まだヴァレリアが来ることを知らない。
「さて、準備も整いましたね。それでは、お嬢様の婚約者をお呼びします」
「婚約者……?」
 不審そうにあたりを見回すノートの元に、ひょこっとヴァレリアが現れた。
「友人! 婚約者ではなくて、友人ですわよーっ!!」
 叫ぶノートをよそに、望はヴァレリアをもてなした。
「素敵なお茶会をご用意頂いて有り難うございます」
 ブレンドティーに体の温まるスパイスティー、パンプキンパイとハロウィンのお菓子などが並んでいる。
「友人でも婚約者でも、王子様と兼任して頂いてはいけないのですか?」
「いけないというかなんというか……」
 ヴァレリアとノートのやり取りを聞きながら、望がブレンドティーを注ぎ、手際よくパンプキンパイを切り分ける。
「そもそもですわね。例えヴァレリアさんの願う条件にあった王子様とやらが目の前に現れたとして、その王子様の願うお姫様の条件にヴァレリアさんが合致するかは別の問題ではないのですか?」
「あら……確かにそうですわ」
 ヴァレリアはノートの鋭い指摘に、はっと気づいたように頷いた。
「では、ノート様はどのような条件の方ならよろしいのですか?」
「わたくし? そうですわね、常に貴族たらんとし、何事にも臆さず、冷静に、規律を尊び、年配者は敬う、勝負相手への手加減は無礼と心得、ティータイムの時間を設ける余裕も忘れない、そしてわたくしよりも強い事が条件ですわね」
 望は顔を上げて、自信満々に答えるノートを見た。
「お嬢様の恋愛感というか理想も、大概、古典的なお姫様思考ですよね。ヴァレリア様がこう、深窓の令嬢的お姫様としたら、男勝りなお転婆系お姫様という感じで……」
「どこがですの!?」
「古典的な男勝りな姫様が自分を負かした相手にほれるというようなところですね」
 ノートは思わず黙り込んでしまった。
「古王国由来のヴァルキリーのというのは、フリューネ様のユーフォリア様信仰とかヴァレリア様の王子様願望とかお嬢様の剣馬鹿とか、なにかしら残念な所があるのが必須条件なんですか?」
「残念なのかしら」
「残念なところがあるとはどういうことですの!?」
 ヴァレリアはきょとんと首を傾げ、ノートは望に意義を申し立てる。
「ああ、すいません。お嬢様は残念しかありませんでした」
 望とノートのやり取りを見ていたヴァレリアは、思わず笑い出した。
 なんやかんやと騒ぎながら、三人はお茶会を楽しんだのだった。



 とある休日、蒼空学園近郊の森で栗拾いのイベントにヴァレリアの姿があった。
「このようなイベントがあったなんて、知りませんでしたわ! お誘い頂いてありがとうございます」
 ヴァレリアは、イベントに誘ってくれた上條 優夏(かみじょう・ゆうか)に声を弾ませつつペコリと頭を下げた。
「拾った栗でスイーツも作れるそうよ。それも楽しみね」
 フィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)は栗を拾いながら、ヴァレリアと優夏に微笑みかけた。
「栗拾いに栗使った料理、この時期やと美味しそうやね」
「あたいはどんぐりひろいとくいだよー、ちーさいあきみーつけたー」
 横からひょこっと頭を出したチルナ・クレマチス(ちるな・くれまちす)が、両手いっぱいのどんぐりを優夏に差し出す。
「あ、チルナ、ドングリちゃう、栗や。けどドングリ拾いは懐かしいなぁ」
「えーどんぐりじゃだめー?」
「ドングリはちょっと違うけど、あとでドングリ使ったおもちゃでも作ったらどうかしら?」
「まあ、素敵ですわね」
 優夏たちはなんやかんやとおしゃべりをしつつ、森を歩いて回り大きな栗を拾っていった。
「こんなもんやろ!」
 しばらく森を歩いて回れば、美味しそうな栗がたくさん集まった。
「それじゃあ、栗のスイーツを作りましょう」
「何を作りますの?」
「秋は食べ物がおいしい季節だもの、何を作っても美味しいと思うわ!」
 フィリーネとヴァレリアは二人並んで、ワクワクとスイーツ作りの下準備を進めていく。
「やるからには真剣に作らないとね、美味しいお菓子で女子力アップよ☆」
「スイーツ魔法少女って少し反則な気もするけど、これヴァレリアもやったらウケそうなんとちゃう?」
 優夏がヴァレリアに提案すると、みんなの横からスイーツ作りを眺めていたチルナがひょこと顔を出した。
「ばれりあも、まほーしょーじょになるのー?」
「魔法少女……なれますかしら?」
「大丈夫よ! このレシピを覚えていって、女子会をするときの話のタネにしてね?」
 ヴァレリアと話しながらも、手際よく栗を煮たり、ペーストを作っていくフィリーネ。
「覚えられるかしら。頑張りますわ!」
「やっぱりフィーは何やらしても凄いなぁ、いい嫁さんになりそうやね」
 意気込むヴァレリアの後ろで、優夏はフィリーネの姿を見て少し赤面しつつ呟く。
 フィリーネはカジュアルな衣装だが、露出が多めで体のラインが出ており、改めて優夏はドキリとする。
「あら? あたしは勿論いいお嫁さんになるつもりよ?」
 少しイタズラっぽく微笑んで、フィリーネは優夏の手を取り、体を密着させた。
「あたいしってるよー、りょーさいけんぼ、ってやつだよねー? ばれりあもりょーさいけんぼになるの〜?」
「なりたいですわね」
 チルナとヴァレリアは、優夏とフィリーネを見つめて微笑む。
「さあ、もうすぐできあがるわよ」
「わぁ、素敵……わたくしも練習しますわ」
 フィリーネが声をかければ、もうスイーツは完成間近だ。
「今度、あたしも女子会に参加したいわ」
「ええ! 是非また女子会でもお話しいたしましょう」
 優夏たちは出来上がったスイーツを食べながら、楽しいひと時を過ごしたのだった。