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リアクション
あなたと皆とお花見
風が温かくなって、可愛い花々が優しい笑顔を見せてくれる季節。
蝶々と一緒に踊りたくなるような春のある日に、高原 瀬蓮(たかはら・せれん)は友人の白雪 魔姫(しらゆき・まき)に誘われて、湖に近い丘に訪れていた。
「いい天気で良かったわね、これで雨だったらどうしようかと思ってたわ」
魔姫は空を眩しそうに見上げた。
昨日は曇っていて、早朝はぱらぱら雨が降ったようだけれど、今は雲ひとつない快晴になっていた。
「折角だしね。結構楽しみにしてたのよね」
「うん、晴れてよかったね。朝、ちょっとだけ雨が降ったせいで、お花がきらきらしてて綺麗?」
瀬蓮が桜の木を見上げる。
この場所には、日本から寄贈された桜の木が植えられているのだ。
「魔姫姉、皆! こっちこっち!」
青い髪の少女が、両腕を上にあげて振っている。
魔姫のパートナーの白雪 妃華琉(しらゆき・ひかる)だ。
「妃華琉様、お待たせしました」
同じく魔姫のパートナーで機晶姫のエリスフィア・ホワイトスノウ(えりすふぃあ・ほわいとすのう)が、小走りで妃華琉の元に向かった。
「私は飲み物用意したのー。半分、エリスに持ってもらっちゃったけどね」
更に同じく、魔姫のパートナーであるフローラ・ホワイトスノー(ふろーら・ほわいとすのー)は、飲み物を用意してきた。
売店で買ったり、自分で入れたお茶を水筒に入れたり。
紙コップも忘れず用意して、リュックの中に入れてきた。
「お花綺麗……ヴァイシャリー湖も見えるね」
近づきながら瀬蓮は、綺麗な桜の木を眺め、それからその先に見える湖を嬉しそうに眺めた。
「でしょ。場所取り、夜明け前から頑張った甲斐があった?」
「うんうん、エリスは夜明け前からお弁当作り頑張ってたけどね」
悪気はなく無邪気にフローラが言った。
「う、うん。役割分担ばっちりだったよね、あたしたち!」
えへへっと、妃華琉が笑みをこぼす。
料理が下手で役に立てそうもなかったので、場所取りを頑張ったのだ。
「皆ありがと! 瀬蓮は皆と一緒に準備は出来なかったけど、わくわくして夜明け前に目が覚めて、これ作ったんだ」
瀬蓮が鞄の中から取り出したのは――真っ白なハンカチで作られたてるてる坊主だった。
「瀬蓮も料理は……まだまだだから、中身は普通のお菓子だよ」
てるてる坊主の中には、チョコレートに飴玉、マシュマロが入っていた。
「ありがとう。このお天気は瀬蓮のお蔭かしらね」
魔姫は瀬蓮からてるてる坊主を一つ受け取って妃華琉が用意したレジャーシートの上に、瀬蓮と一緒に座った。
「はい、皆もどうぞ」
「あたしにもくれるの? ありがとー!」
妃華琉は喜んで瀬蓮からてるてる坊主を受け取った。彼女にとって、お菓子は主食のようなものだ。
「ありがとねー。お茶入れるよ」
フローラは瀬蓮からもらったてるてる坊主を膝の上に乗せたまま、紙コップに用意してきた温かな日本茶を入れていく。
「はいどうぞ」
「ありがと」
最初に魔姫の大切な人である瀬蓮に。それから、魔姫、妃華琉、エリスに配り、最後に自分の分を入れて、足の側においておく。
「あ、えぇっと、おしぼり配るね!」
料理の準備を手伝って、失敗したら皆に残念な思いをさせてしまうから……妃華琉は、当たり障りのないお手伝いを考え、エリスが持ってきたおしぼりを皆に配り始めた。
「ふふっ、エリス、今日はいつもより張り切っちゃいました」
エリスはリュックや手に持っていたカバン、クーラーボックスの中から次々に料理を取り出していく。
「おー……すごい。ここにもお花畑があるみたい!」
「広めに場所とってよかった?」
瀬蓮と妃華琉が驚きと感心の声をあげた。
サンドイッチに、各種サラダに、重箱の中には、から揚げ、ウィンナー、玉子焼き、ミニハンバーク、コロッケ、炒め物、煮物、焼売、春巻き、その他色々。
とっても種類が多く、賑やかで明るい気持ちになる料理だった。
「ワタシからはこれね」
魔姫は作ってきたマドレーヌを皆に配った。
「花びらの形?」
瀬蓮が透明の袋に入ったマドレーヌを持ち上げて眺めた。
「そうよ、気づいてくれてありがとう」
「えへへ。食べる前に気付けて、得した気分だよ?」
「花に、湖、そして料理の観賞まで楽しめそうね」
料理を見て微笑んだ後、魔姫は桜を見上げてしばらく眺めていた。
「……魔姫ちゃん?」
「ん?」
しばらくして、名前を呼ばれ、魔姫は瀬蓮に目を向けた。
「お花、綺麗だね。魔姫ちゃんもお花観たりするの、好きだったんだね」
「あら、こういう自然の景色は好きよ? 意外かしら?」
「意外というほどじゃないけど、知らない一面を見たって感じ」
ふふっと瀬蓮が笑みを浮かべると、つられたかのように皆も、魔姫も笑みを浮かべた。
「まぁ、今日は久しぶりに大勢集まったんだし楽しく過ごしましょう」
「うん!」
「さて、準備も整ったし、食べよう?」
妃華琉がプラスチックのホークを手に言う。
「紙コップだけど、乾杯しよっか」
フローラがお茶を入れた紙コップを手に取った。
「そうね」
魔姫も紙コップを手に持ち、瀬蓮に目を向けた。
瀬蓮は持っていた紙コップを前へと出した。
そして皆で「乾杯」と言って、笑い合ってから、お茶を飲んで、料理を食べ始めた。
「うん美味しい!」
甘い玉子焼きを食べた後、妃華琉が口に入れたのは瀬蓮からもらったお菓子だった。
「お料理の方も食べてくださいね。無駄にはしたくないですし」
エリスフィアは、サンドイッチの味を確かめながらくすっと微笑む。
「残ったらアイリスのお土産用にもらって帰りたいな。このウインナー可愛い」
タコさんウインナーをちょっともったいなさそうに、瀬蓮は口に運んだ。
「温かくなってきたから、持ち帰りはお勧めできないわ。お土産なら写真はどうかしら?」
「あっ、そうだねー!」
早速、瀬蓮はカメラ付き携帯電話を取り出すと、まずは減っていく料理と魔姫からもらったマドレーヌを撮って、それから頭の上に広がっている花をいっぱいつけた桜の枝を撮った。
そして、太陽の光を反射している湖を。
最後に――。
「魔姫ちゃん、皆寄って寄って」
「あっ、私が撮りますから、瀬蓮様も入ってください」
エリスフィアが手を伸ばすが、瀬蓮は首を横に振って、彼女を魔姫の前に座らせる。
「いいの、瀬蓮が見た物を、楽しんだ全部をお土産にしたいから?!」
そして、魔姫とパートナーをカメラに収めたのだった。
「それでは次は、魔姫様と2人の姿を撮らせていただけますか?」
エリスが自分のカメラ付き携帯電話を手に尋ねた。
「え?」
「ワタシも瀬蓮と一緒に撮れたら嬉しいわよ」
「うん、それじゃ2人で撮ってもらおっか」
魔姫の自分への想いを知っているために意識してしまい、瀬蓮は少し恥ずかしげに微笑んで、魔姫の隣に座った。
「桜の木もいれますね。……はい、撮ります」
エリスフィアは少し離れて、桜の木も一緒に撮った。
「魔姫、最初に会った時に比べるとずいぶん変わったねぇ……」
瀬蓮と一緒に微笑んでいる魔姫を見ながら、フローラが言った。
「うん、こういう顔、前はあまり見なかったよね」
ウサギリンゴをしゃりしゃり食べながら、妃華琉が頷く。
「まさに恋すると女は変わるってヤツだね!」
「ふふ……」
魔姫にもその話は聞こえていたみたいで、彼女の顔に少し照れくさそうな笑みが浮かんだ。
「うん、こんな顔、しなかったよね。前は何かツンツンしてたのに今は柔らかは感じがするよー」
フローラが少し声を落として、妃華琉に言った。
「こっちの方が、自然なカンジするよね」
妃華琉の目に映っている今の魔姫からは穏やかな優しささえも感じる。
「まぁ、私は元々魔姫が素直じゃないだけで優しいのは知ってたけどね」
瀬蓮と共に、笑顔を浮かべていく魔姫の素直な表情を、フローラも純粋に嬉しく思った。
(瀬蓮が楽しめるかどうかが、少し気がかりだったけれど……心配する必要なかったみたいね)
写真を撮り終えてからも、瀬蓮は嬉しそうに料理を口に運び、会話が途切れれば、魔姫と一緒に桜を眺めていた。
舞い落ちる花びらを目で追って、手を広げて掬っては、キラキラ目を輝かせる。
「すごー………く、綺麗だね。目を閉じても、桜満開だよ」
花びらを手に目を閉じた瀬蓮は、花の妖精のように可憐だった。
「魔姫ちゃん、今日は誘てくれてありがとね! 皆も、場所取りとか料理とか、飲み物準備ありがとね! とっても楽しかった」
そして最後に、瀬蓮は今日一番の笑みを見せた。
「こちらこそありがとう瀬蓮。瀬蓮が来てくれたおかげで、心地良い天気の中、美しいものが沢山観られて、ワタシもとっても楽しかったわ」
魔姫も瀬蓮に感謝の気持ちを心のまま、言葉にして。
日が暮れるまでの時間を、5人でわきあいあい、めいっぱい楽しんでいくのだった。