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リアクション
試練の先に
キマクの外れ、サルヴィン川の近くに存在する若葉分校。
立場関係なく、誰でも通えるこの分校で、なんと! 結婚式が行われようとしていた。
若葉分校の生徒会で庶務を務めるブラヌ・ラスダーと、教師候補である佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)。
この2人が恋人関係になったのはごく最近のことだ。
牡丹の気持ちが変わらないうちに、きちんとした繋がりが欲しいと結婚を申し込んだブラヌに対し、牡丹が迷いつつも応じたのだった。
迷ったのは少し早すぎるからであり、結ばれたいという気持ちは互いに強く持っていた。
人前式を望む2人が挙式の場所として選んだのが、この若葉分校。
2人の出会いの場であり、これからも共に活動していく場所でもあるから。
(ブラヌさん……)
だが、今、挙式が行われるはずのホールにいるのは、ウエディングドレスを纏った牡丹だけだった。
(信じています)
そっと目を閉じて、1人、牡丹はホールの中で待ち続けていた。
「予想以上に時間くっちまったぜ……」
その頃、ブラヌはキマクの貸衣装屋にいた。
タキシードを着て店を出た時は、既に式が始まる数十分前だった。
「あああ、ホントにこのタキシードでいいんだろうか?」
ブラヌはぎりぎりまで衣装に迷っていた。
というのも、店員の男性があれこれ必要以上に勧めてきたからだ。
長身で自分より年上で、カッコよく綺麗な外見の牡丹に釣り合うために、随分迷ってしまった。
(ここからバイクで飛ばせばギリギリ間に合うけどぉ?)
そんな彼を、こっそり見ている人物がいた。
(試練はまだ続くよぉ?。次の人、お願いね?)
物陰で待機していた女の子達に目配せしたのは、牡丹のパートナーのレナリィ・クエーサー(れなりぃ・くえーさー)だ。
レナリィは貸衣装屋の店員に頼み、必要以上の接客をしてもらったり、ちょっとしたハプニングを起こして、ブラヌの様子を見ていた。
そう、これは試練なのだ。
牡丹をきちんと想ってくれているのか。
幸せにしてくれるのか。
試練を課して、レナリィはそれを確認しようとしていた。
「すみませーん。あたしたち地球からやってきたんですけどぉ。このあたり治安が悪いみたいなのでぇ、ボディガードしてくれませんかぁ?」
「キマクを案内してくれるだけでいいんです。なんだか街の人にじろじろ体を見られてる気がして、怖くて……。びしっとした格好をしてるあなたなら安心できるかなって」
「ここは女の子2人で旅行にくるような場所じゃないぜ。ああでも悪い、案内は無理……ええっと」
ブラヌは辺りを見回して、行きつけの居酒屋に目を留める。
「あそこ、知り合いがやってる店なんだ。日中はヒマしてるはずだから、若葉分校のブラヌの紹介って言えば、案内くらい受けてくれると思うぜ」
それじゃあと去ろうとしたブラヌだが。
「えーっ。知らない人に頼むの怖いなぁ」
「夜のお仕事してる人なら、今の時間、寝てるかもしれないしねぇ」
「大丈夫だって。ほら、いっしょに頼んでやるよ」
ブラヌは不安そうにしている女の子達を放ってはおけず、知り合いの元まで連れていってあげた。
それから、急いでバイクに乗って若葉分校に向かおうとしたけれど……。
「すみません! この辺りにコンタクトレンズ落しちゃったんです」
バイクの側に、コンタクトを探している女性がいて、近づくことが出来なかった。
「コンタクト入れてないんじゃ、見えないだろ」
ブラヌは焦りながら、一緒にコンタクトレンズを探してあげた。
「……っと、これか?」
「なんだ、ブラヌじゃねぇか」
コンタクトを見つけた直後。
「これから蒼学にカツアゲに行くんだ。てめぇも来いよ」
「嫌、俺は見ての通りこれから結婚式で」
「そんなのすっぽかせ! いや寧ろ、ご祝儀分のカネが必要だろ、行くぜー!」
「違うんだ、結婚するのは俺で……あああああっ」
今度は悪友に引きずられて連れて行かれてしまった。
開始時間はとっくに過ぎていた。
牡丹はまだ一人、ウエディングドレス姿で立ったままブラヌを待っていた。
何の連絡もないまま、時間だけが過ぎていく。
(大丈夫、ブラヌさんは絶対に来ます)
事故や事件に巻き込まれたのかもしれない……自分との結婚がやっぱり嫌になったのかもしれない。
そんな不安も少し頭をよぎったが、心を強く持ち決して慌てることなく牡丹は彼を信じて待ち続けた。
それからさらに数十分が過ぎてから――。
「悪い!」
ホールのドアが乱暴に開かれ、影が一つ、飛び込んできた。
「ぼ、牡丹……」
転がり込むように入ってきたその人物は、汗だくで、服も汚れていて。
「こんな大事な日に、遅れて悪かった。しかも、こんな格好で」
それ以上、ブラヌは牡丹に近づかず、頭を下げていた。
「……いえ、凄く大変なことがあったのですね。ここに来るために、頑張ってくださったその姿は……本当に素敵です、ブラヌさん」
牡丹から近づいて、ブラヌの肩に手を置いた。
「牡丹……」
ブラヌが彼女の手をとったその時。
パンパパパパパパン
クラッカーの音が鳴り響いた。
「ヒャッハー!」
「結婚おめでとうこの野郎!」
「抜け駆けふざけんな! 取りあえずてめぇらには女の子大量生産する義務がある!」
「ホールにゃ入りきらねェ人数、集まってんだぜ!」
「外でろや、外!」
乱入してきた若葉分校生が、ホールのドアを開け放ってその先を見せる。
そこには、花道をつくる若葉分校生の姿があった。
「型どおりの挙式なんてつまんねぇだろ。てめぇらが本気なら、誓いの言葉を言いながら、あの道を通り抜けてみやがれ!」
若葉分校生の怒っているのか、祝福しているのか分からない言葉を受けた牡丹とブラヌは頷き合うと……。
「行くぜ、牡丹」
「はい! ……えっ!」
突然、牡丹はブラヌに抱き上げられた。
「ブラヌさん!?」
「おー、軽い軽い。身長俺と同じくらいあるけど、やっぱ牡丹は女の子だ」
そうして、ブラヌは牡丹を抱き上げながら。若葉分校生の花道を通る。
「俺、ブラヌ・ラスダーは、牡丹をただ一人の伴侶として、2人で幸せを作っていくと誓うぜ!」
「佐々布牡丹は、彼、ブラヌ・ラスダーを夫として、支え合って共に幸せになれるよう、努力し続けることを誓います」
誓いの言葉を言った後。
ブラヌの唇が牡丹の唇に降ってきた。
彼の首に腕を回して、牡丹は彼の不器用なキスを受け取った。
拍手と、怒声とも思える歓声があがっていく。
それから。
「スペシャルサンクスの皆さんで?す!」
奥の方には、レナリィの姿。そして、貸衣装屋の店員、地球から来た女の子、悪友たち……ブラヌの行く手を阻んだ者達の姿があった。
「あー、お前ら?。どういうことだ?!?」
「おめでと?」
「おめでとう! キミの心意気、見させてもらったよ」
「祝儀はねぇけど、祝福してやんよ!」
花道の最後では、レナリィと協力者たちが笑顔で拍手をしながら、2人を祝福してくれた。
「ありがとうございます」
牡丹は持っていたブーケを空へと投げる。
受け取ってくれる人はいるだろうか――。
ブーケは空で分解して、花が皆の下に降り注いだ。
牡丹はそっと願う。
この明るく賑やかな友たちにも、更なる幸せが訪れますように。