蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

戦いの理由

リアクション公開中!

戦いの理由

リアクション

「味方のみならず、敵の犠牲も最小限にしたい……ところだけれど」
 ツェルベルスで前線へ出た志方 綾乃(しかた・あやの)は、戦況の厳しさに眉間に皺を寄せた。
 圧倒的な戦力差だった。
 退ける方法などないように見える。
 ただ、敵の作戦なのか、騎士団側も犠牲を極力出さないような攻め方をしているように見えた。
「全くもって絶望的な戦力差、しかも後方からは凄まじい魔法が飛んでくるってんだからな」
 共に搭乗しているラグナ・レギンレイヴ(らぐな・れぎんれいぶ)は、毒づきながら周囲に目を光らせる。
 前線で帝国イコンを抑えているのは、数少ない要塞側の契約者が乗っているイコンだ。
 いつ突破されてもおかしくない状況だった。
「めいだっていつまでも素人じゃない。キマク陥落の時の借りを返すんだから!」
 そこに、ウサちゃんに搭乗した葦原 めい(あしわら・めい)が現れる。
「とはいえ、厳しい状況ですね」
 熱くなっているめいとは違い、サブパイロットの八薙 かりん(やなぎ・かりん)は冷静だった。
「たとえ今は勝てなくとも、負けない戦いを目指しましょう」
 かりんの言葉に頷きながら、めいは敵に狙いをつけていく。
「負けない。味方がもっとくるまで、負けないでいることを目指すよ!」
 言って、めいはニンジンミサイルを乱射する。
 当てることよりも、敵の視界を塞ぐことが目的だった。
「シャンバラ建国、五千年の悲願を達成したばかりで、祖国を二度も失ってなるものですか!」
 かりんは索敵に集中する。
「めい、あそこから抜けてきます!」
 かりんが指した場所から、ヴァラヌスが現れこちらへと接近してくる。
「ええーいっ!」
 めいはそのヴァラヌスの足を、急所狙い2を使い、マジックカノンで狙い撃つ。
 ヴァラヌスは回避を試みる。
 魔力の弾丸はヴァラヌスの足を掠めた。機体の一部が剥がれる。
「近づいてくるのなら……待ってる必要はない」
 めいは加速2を使い鋭く踏み込み、ウサ耳ブレードをヴァラヌスに突き刺す。
「負けないんだから!」
 ブレードは、ヴァラヌスの胴に突き刺さった。
 しかし、次の瞬間、ヴァラヌスのクローが、めいのイコンの頭部を抉っていた。
「……っ。ウサちゃんの顔が……」
「性能はヴァラヌスの方が上です。気を付けて」
 綾乃がガトリングガンでめいを援護。
「負けませんよ。めい、もう一度足を!」
「うん!」
 かりんの言葉に従い、めいは綾乃の攻撃を受けているヴァラヌスの足を、ウサ耳ブレードで斬る。
 足を破壊されたヴァラヌスがその場に倒れていく。
「しばらく休んでるといいよ!」
 続いて、めいはハンドガンで両手足を破壊して、動けなくした。
「ラグナ、あちらも援護いたします」
「やるだけのことはやるさ」
 綾乃の指示に従い、ラグナはバーストダッシュで敵ヴァラヌスへ接近する。
 苦戦しているシャンバラ国軍のイコンより前に出て、ヴァラヌスの胸を――コックピットを狙う。
 誘爆させず、パイロットのみ倒すことを目指し、ヴァラヌス鹵獲型のシュルベルスは駆けた。
 無論敵側も、簡単に心臓部であるコックピットを狙わせはしない。ただし、急所であるが故、防御や回避の必要を迫られ、敵の行動に遅れが出る。
「まだ……耐えられます」
 もう一人。
 ロザリンドも、ヴァラヌス鹵獲型、スパルトイで前線に出ていた。
 綾乃やの援護を受けながら、ロザリンドは回避と盾で、ひたすら耐えていた。
 周囲には、イコンの残骸が散らばっている。ロザリンドの指揮下で共に戦った一般兵が操っていたものだ。
 もう要塞に残っているイコンの数は少ない。
 ロザリンドの機体も既にボロボロになっていたが、完全に動かなくなるまで、耐え続けるつもりだった。
「しんどいね、ロザリー」
 ロザリンドのパートナーのテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)が大きく息をつく。
「それに……時々吹いてくる風、レストのにーちゃんが放ってるんだよね? 彼ってあんなに強かった? やっぱ、契約したんだろうねー」
「気がかりではありますが」
「はいはい、集中集中ー」
 テレサはレーダーと射撃に集中していく。
 ロザリンドは機体への負担を考えながら、防御を続ける。
 動かなくなった後は、生身でも戦う覚悟だ。
 懸命に敵の行く手を阻んでいく。
「ミサイル接近。回避するよー!」
 レーダーでミサイルの接近を知り、テレサは回避を試みる。
 直撃こそしなかったが、すぐそばに着弾し、衝撃が走る。
 直後に、敵ヴァラヌスの爪がスパルトイを襲った。
 肩に直撃し、片腕がはじけ飛んだ。
「ロザリン、無茶しすぎ!」
 が後方からマドカイザーのマジックカノンで援護。
 スパルトイに迫っていたミサイルを撃ち落とす。
「ありがとうございます。大丈夫です」
『風が来るよ。3、2、1、今っ!』
 通信機からメリッサの声が響いてくる。ロザリンド達は防御に徹する。
「防御します」
 後方に位置する、マドカイザーのサブパイロットアリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)は風が来る方向に向いシールドでガード。
 直後にファビオの風魔法が、大地に吹き荒れた。
「治まります」
「いくよ」
 風が止むと当時に、アリウムがガードを外し、円はニンジンミサイルをイコン隊に放った。合わせて、歩兵から魔法兵器による攻撃があり、周囲は砂塵に包まれる。
 視界を奪われた敵に、狙いを定めていたスパルトイ、ツェルベルス、ウサちゃんが攻撃を加え、撃破する。
 機体の残骸が散らばり、敵イコンの進撃が弱まっていく。
「戦力的に劣っていても、少し抑えることくらいならできる。無意味じゃないんだ」
 圧倒的な戦力差に、無力を感じてしまいそうになりながらも、円は味方の援護を続けていく。
 マドカイザーが投げつけたコロージョン・グレネードにより、ロザリンドに攻撃を加えていたヴァラヌスの動きが弱まる。
 機能障害を起こしたヴァラヌスを、ロザリンドが押し返す。
「ロザリン、耐えて。ボクも頑張る、ちゃんと頑張るよ」
 大切な人ができた。
 ここにはいないその人の為に、円は自分の評価を上げたいと思っている。
 余計な脅威が増えたら、やっぱりその大切な人が危険な目に遭ってしまうから。
 自分にできることを、着実に精一杯。
 白百合団の班長であるロザリンドに付き添いサポートしながら、円は大切な人の為に戦っていた。
「地上部隊の足止めは多少できても……空に障害物は置けないんだよね」
 空の飛兵部隊の態勢が戻っていく。
 円はオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)にテレパシーを送り、状況を伝えた。

 オリヴィアとミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)は、円達が戦う場所より後方の岩場に隠れながら、様子を見ていた。
 円達の攻撃に合わせて、大魔弾『コキュートス』、大魔弾『タルタロス』で援護していたが……。
「龍騎士接近、龍騎士接近。行くしかないねぇー!」
 ミネルバが目を輝かせる。
「そうねぇ。泥仕合になるかもしれませんけどー」
 オリヴィアは虫の大群のようにも見える敵飛兵部隊に、そっとため息をつき、死守するつもりで頑張るしかないかと思う。
「私達は色々悪い事やってきましたものねー、認められるためには頑張らないとかしら?」
「命がけでごー!ごー!ごー!」
 ミネルバは良くわかっていないようだったけれど、力の限り戦う意思はパートナー達同様に持っていた。
 ブラックコート、ベルフラマンとで極力気配を抑え、チャージブレイクで力をためておく。
「来ましたよ」
 飛兵小隊が、ミサイルを避けるように回り込み、オリヴィア達の上空に近づいてきた。
 オリヴィアは地獄の天使で、翼を生やして飛び、絶対闇黒領域と地獄の門で魔力を強化。
 夜霧のコート(霧隠れの衣)で、姿を霧へと変えて、小隊に接近していく。
「いっくよー!」
 先に仕掛けたのはミネルバの方だった。セイントフリューガで急接近し、レーザーブレードで疾風突き。
「くっ……虫が潜んでいたか」
 刃はドラゴンの喉を貫いていた。
 即座に、従龍騎士の攻撃により、セイントフリューガは落とされ、ミネルバ自身も深手を負い、落下していく。
 龍騎士はドラゴンを魔法で癒そうとしていた。
 その隙に、接近していたオリヴィアが至近距離からタイタロスを発射。
「なに……っ!」
 強力なエネルギーが敵小隊を包み込む。
 ドラゴンは制御不能となり、負傷をしたワイバーン、従龍騎士と共に一旦地上へと退いていく。
「はあ……はあ……っ、大変、あの子にもしものことがあったら、共倒れよー」
 オリヴィアも急ぎ、その場を離れ落ちていくミネルバを助けに向かった。

「イメージするんだ……」
 パートナーの呀 雷號(が・らいごう)と共に、愛機ビーシュラに搭乗した鬼院 尋人(きいん・ひろと)は、コックピットの中で息を整えていた。
 超感覚を発動、神経を研ぎ澄まして僅かな敵の気配や動向をも察知できるように努める。
 軍事行動には慣れてはいないが、戦闘経験は積んできた。
 故に、戦力的に現状では到底凌げはしないということが、理解できる。
「本当なら真正面からぶつかるべきじゃない。それは分かるけど……これは避けられない戦いなんだ」
 目を開いて、前を見据える。
「行くぞ」
 操縦を担当する雷號が言い、ビージュラを前線へと走らせる。
「指示を頼む」
「お願いします」
 雷號と尋人はモニターに映る人物に言う。
 前方を飛んでいるその人物は、ファビオ。
 強力な風を起こし、敵の攻撃を押し返している彼だが、その力は万能ではない。
 増幅も初めての経験らしく、コントロールがいまいちであった。
 彼らは守らなければいけない存在だ。
 ビーシュラは飛んでいる彼より前に、前線の方へと出ていく。
『精神力の温存も必要だから、大した援護は出来そうもない。風の攻撃が来たら、その風を利用して皆の援護が出来ないかと思ってる。合図をするから合わせて』
 ファビオからの通信に「了解」と返事をして、ビーシュラは戦いの只中へと突入した。
 だが、決して踏み込み過ぎない。
「武器を持つ手を――!」
 尋人は鋭くレイピアを繰り出して、ヴァラヌスの関節を突く。
 次の瞬間に、雷號がビーシュラを後方へと跳ばせる。
 敵機を誘爆させるような攻撃はしない。
 関節や、足を狙い、武器を奪い、敵の機動力を奪うよう攻撃をしていく。
 ヴァラヌスのクローや、機関銃により、避けてはいてもビーシュラも無傷というわけにはいかなかった。
「それなりに前線に出て来たんだ。これくらいの敵はどうってことはない」
 臆せず、尋人は気迫て立ち向かう。
「だが、あまり長い時間はもたないだろう……」
 雷號が汗を拭う。神経を研ぎ澄ませているせいで、精神的な消耗が激しかった。
『魔法攻撃いきます!』
 ファビオの声が流れてくる。
「防御しろ」
 即座に、後方へ下がり、雷號が弾幕援護。
 味方が防御の姿勢を取った瞬間に、風の魔法が吹き荒れる。
「……っ、黒崎は……大丈夫だろうか」
 防御しながら、尋人はここにはいない友のことを思う。
 いつの間にか、尋人は先輩の黒崎天音を背を追い越していた。
 でも、中身はまだまだだと、思っている。
 そして、自分は彼のようにはなれない。
 だけれど、彼を守れるようになりたい、そのために強くなりたいという意志は変わらない。
「強くなりたい。もっと」
 風が途切れた瞬間に、ビーシュラは敵機に突進。尋人はレイピアを繰り出して、敵小隊長機の足の関節を貫いて破壊。移動力を奪った。