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戦いの理由

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戦いの理由

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(何で喧嘩するんだろう? あっちの人たちとお話しできないのかなー? 仲直りできないかなー……?)
 すみっこの方でメリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)は、話し合いが終わるのをじっとまっていた。
(真剣な喧嘩ってやだなー……)
 悲しい気持ちになりながら、メリッサは同じように隅っこにいる男の子に目を向けた。
 自分より小さな男の子。
 沢山の契約者に囲まれた男の子――レイル・ヴァイシャリー
 時折響く爆音をひどく怖がっている。だけれど、必死に耐えようとしていることも分かる。
(皆仲良くがいいな……この子だって絶対そう思ってるのに……)
 メリッサは大きくため息をついて体育座りで会議の終了を待ち続ける……。
「俺の魔法で対抗するのなら、出来れば正面に出たいんだけど……無理かな?」
 ファビオがレイルに近づいてくる。
「戦場に出したくはないんだがな。しかも、正面とはな」
 レイルに付き添っている瓜生 コウ(うりゅう・こう)が苦笑する。
「あなたの風の魔法を強化するのが最良だとは思うけど……。相変わらず、無茶なこと考えそうよね。この子の命も守らなきゃいけないってこと忘れないで欲しいわ」
 ファビオと同じく、シャンバラ古王国時代騎士として女王に仕えていたマリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)が、ため息交じりにそう言った。
「約束、守りますよ」
「絶対守るんだから!」
 話を聞いて駆け付けた菅野 葉月(すがの・はづき)ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が、膝を折って、レイルと目線を合わせて微笑みかける。
 以前、2人はレイルに約束をしていた。
 如何なることがっても、彼を助けるために駆け付けると。
「傍にいますから」
「大丈夫だよ」
 二人の言葉に、レイルは顔を強張らせたままだったけれど、こくんと頷いた。
「彼を守るために、僕達は盾として同行いたします」
「いいよね?」
 葉月とミーナがこれまでも白百合団に協力をしてくれており、信頼のおける人物だということは、ファビオも知っていた。
「ありがとう。心強い」
 ファビオの言葉に、葉月はミーナと共に真剣な表情で頷いた。
「せんそうはイヤです……おわらせるためにまもるです!」
 白百合団員として、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)はレイルを守ること、応援すること、そして支えるために訪れていた。
「がんばるレイルちゃんはぜったいまもるです!」
 お気に入りのヴァーナーの元気な声と、可愛い笑顔にレイルの顔もちょっとだけ柔らかくなる。
「ボクがちゃんとまもってレイルちゃんががんばるジャマはさせないんです」
 にこにこ笑みを浮かべながら、不安気なレイルの頭をヴァーナーは撫でてあげる。
「ボクも……皆を、守りたいな。危なくなったら、みんな、いっしょににげようね?」
 弱い声だけれど、レイルも自分の気持ちを口に出した。
「約束しますよ」
 葉月が答える。
「これからも、約束を守る続けるために必ず。……皆、一緒に帰還しましょう」
「うん」
 レイルは強く頷いた。
 直後に、ごうっと風の音が響いた。
 近くにまた、大きな風の渦が現れたようだ。レストの攻撃に違いない。
「ついていて、失敗しないように、見ていてやるからな。……まずは前回のおさらいからだ、大丈夫、できるさ」
 コウが不安にさせないように、優しくレイルに語りかける。
「わかった」
 レイルは女王器を大切そうに抱きしめた。
「ファビオ・ヴィベルディ、応戦に出ます」
 ファビオが都築少佐と、作戦立案者であるロザリンドに声をかける。
「頼んだ」
「お願いします」
 二人の返答に頷いた後、ファビオはレイル、そしてレイルを護衛する者達と共に、屋上へと向かっていった。
 その後、都築少佐はロザリンド達と作戦の詳細を詰めた後、彼女達をも送り出す。

○     ○     ○


 李 梅琳(り・めいりん)大尉が通信機で都築少佐との連絡を終え、状況を把握した後、援護に訪れた教導団員達は素早く作戦を立てていく。
「指揮官のダミーを置くってのはどうだろう」
 殺気看破、超感覚、博識の技能で周囲に警戒を払いながら橘 カオル(たちばな・かおる)が提案する。
 指揮官を狙った攻撃が行われていると都築少佐から聞いていた。
「オレが敵だったら、相手を撤退に追い込むにゃ頭を取るのは定石だろ。それも確実に打ち取るとしれば、隊を組んで連携して討ち取るだろう」
 言って、カオルは梅琳を見詰める。
「そんなことはさせない!」
「うん、あたしが囮になってあげるよ。そのかわりお寿司おごりだからねー」
 マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)が、カオルをにこにこ見る。
「おー、いくらでもおごってやるぜ。回らないヤツをな」
「やったー!」
「ちょっと心配だけど……お願いするわ。勿論、敵が攻撃してきたら指揮官ではないということを明らかにして、防御に務めてね」
 梅琳はそうマーリアに言った後、大岡 永谷(おおおか・とと)に目を向ける。
「あなたの案は、補給拠点の襲撃だったわよね」
「そうだ。報告によると、物資が集まっている拠点の近くに敵団長もいるようだ。技能で潜み、ゲリラ的にヒット&ウェイで行うつもりだ」
「了解。私もそちらに向かうわ」
「オレも同行する。メイリン達が無茶しないようにな」
 梅琳とカオルがそう言う。
「援軍の本隊の方は、守備隊と交戦中の敵の側面をつき、最大速力による奇襲で指揮系統の混乱を狙います」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が提案をする。
「私も側面からの攻撃に賛成よ。龍騎士が後方に残っているのは、パラ実生を警戒しているからじゃないかと思う。注意を割いている部隊の側面も狙ってはどうかしら」
 天御柱学院のローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)もそう提案する。
 ルカルカは頷いて言葉を続ける。
「敵陣を狙う別働隊は、余力があれば後方から援護。指揮官を特定して、可能なら狙撃。数機で組んで、一機を狙うこと、突出は絶対避けること」
 ルカルカの提案に梅琳が頷く。
「マーリアを指揮官に見せかけとくとして、実際の指揮はルカルカ・ルーに任せるわ」
 同作戦には、ローザマリア・クライツァール、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)上杉 菊(うえすぎ・きく)エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)
 そして、久多 隆光(くた・たかみつ)童元 洪忠(どうげん・こうちゅう)
 更にグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)レイラ・リンジー(れいら・りんじー)アンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)テオドラ・メルヴィル(ておどら・めるう゛ぃる)が加わることになった。
「はい。ルカ達イコン部隊が前に出て、マーリアさんが後方から指揮をとっているように、見せかけ、守るわね。敵の射程の関係上、可能な限り遠距離のうちにイコンから叩きましょう」
 ルカルカは自分と共に戦う教導団員に話した後、にこっといつもの明るい笑顔で梅琳を見た。
「自衛も忘れないで下さいね。いつでもカオルさん通じて呼んで下さい♪」
「うん、ありがとう」
 梅琳も少しだけ顔を緩ませた後、厳しい表情となる。
「これより、作戦を開始する。――護るわよ」

「第七龍騎士団の新団長が……レスト、彼なら。彼女もこの戦場にいるかもな」
 ツヴァイに搭乗した隆光が、戦場を見回す。
 多分彼女――ユリアナは、彼側につくだろう。
 そんな確信があった。
(俺は軍人だ。軍人だから、任務はしっかりとやるさ)
 思いながら、号令に従ってアサルトライフルでヴァラヌスを撃つ。
 隆光が軍人として戦っているのは、昔の犯罪の、罪滅ぼしでもある。
 だけれど、彼にとってもっと大切なのは、友達だ。
 友達を見殺しにするような人間だけにはなりたくない。
 そう思っていた。
(任務と重なった場合はどうするかね。両立なんてのは一番難しいもんだしよ。……二兎を追う者一兎をも得ずって言うが俺はどちらか一方だけなんて出来ねぇ)
 そう考えながら、銃を撃っていく。
「前進するよ!」
 ルカルカの声が響いてくる。
 もう、考え事をしている余裕はない。