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戦いの理由

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戦いの理由

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 金団長が晩餐会の会場を出た直後に、一般人を優先に避難の誘導が行われていた。
「大丈夫です。落ち着いてください、一般の方優先に、ゆっくり出口に向かってください」
 白百合団の班長として秋月 葵(あきづき・あおい)は、大きな声で動揺する客達に呼びかけていく。
「こちらです。相手は誉れ高いエリュシオンの騎士団です。武具の装備をしていない一般人を傷つけるような方法はとらないはずです」
 エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)も、葵をサポートし、誘導に務めていた。
「非常口を通り、資材搬入口から外へ向かってください。こちらの指揮は、秋月葵さんにお任せいたします」
「は、はいっ」
 鈴子に任され、葵は避難する人達の前に立って外へ誘導していく。
 屋上へ続く通路とは反対側の非常口を通って、外に出る予定だ。
「俺達はどうなるんだよ!? 大人を先に避難させて学生は後かよ!?」
 後回しにされたと、契約者の学生達から不満の声が上がっている。
「皆さん! 落ち着いて避難の指示を待ちましょう」
 リナリエッタが出口に向かおうとする学生の前に立ち、落ち着いた様子で皆に呼びかけていく。
「ええ、あのご婦人のいう通りですね。皆様、ここは落ち着いて避難いたしましょう」
 ベファーナが、賛同し招待客を宥める。
「さ、お嬢様もこちらへ。指示が出るまで固まっていましょう」
 ベファーナの言葉に、こちはこくりと頷いて静かに待っている。
 鈴子はまだ、一般人の誘導指示を出している。
「契約者の方々は、1階のシェルターへ。身分は学生であっても、特に地球人の皆さんは、帝国の方からは兵器のようにみられることもありますから」
 ラズィーヤがそう言い、契約者達を魔法の実戦授業に使われていた頑丈な作りの部屋へと誘導するよう、指示を出す。
 ガチャン――!
 窓ガラスが割れて、従龍騎士が窓から侵入してくる。
「な、なんなんですか! あなたたちは!?」
 真奈は、驚きながらも人々の前に出る。
「会場の窓を破って、騎士が一人入ってきたよ!」
 ミルディアは通信機で白百合団員に連絡を入れる。
 すぐに優子から、団長の鈴子に従って避難するようにと返答があった。
「わ、わあああああっ」
「きゃーっ」
「下がって〜」
 悲鳴を上げる人々の前に、リナリエッタが立った。
 彼女は即座に、煙幕ファンデーションで相手の視界を塞ぐ。
「誘導お願いします」
 ちらりと振り返って、リナリエッタは駆け付けた鈴子を見た。
「任せますわ、リナさん。――皆様、こちらに! 警備の者の傍を離れないでください」
 リナリエッタにその場を任せると、鈴子は武器を持たない招待客の契約者達をシェルターへと誘導していく。
「要人達をもてなすのは、鈴子さんみたいな清楚で上品な方のお仕事……私は、乱暴な方と戯れる方が性に合ってるわぁ」
 ニヤッといつもの笑みを浮かべて、リナリエッタは着物の裾をたくし上げて足広げ、銃を構える。
「兵器の元に、案内してもらおうか!」
 槍を振るい、従龍騎士はリナリエッタを威嚇する。
(ご武運を……)
 ベファーナは誘導を手伝いながらも振り向いて、光術を使ってリナリエッタをサポート。
「帝国ではパーティ会場に窓から入場するのが流儀なのかな!?」
 ミルディアは、ヴァーチャースピアを従龍騎士に繰り出した。
「ここでは火術は使えませんわね。ですが、派手な攻撃が出来ないのはそちらも同じです」
 真奈は氷術を放ち、従龍騎士の動きを鈍らせる。
「えーいっ。出てってよー!」
 ミルディアの一撃が、ワイバーンの腹に深く傷つける。
「させません!」
 槍で反撃をする従龍騎士に真奈が光術を放つ。従龍騎士の目がくらんだ。
「狭い室内だものぉ、騎乗してたら動き難くないかしらぁ」
 リナリエッタも闇術を放ち、従龍騎士の視界を奪い――側面から近づき、心臓を狙い撃った。
「……っ!?」
 血しぶきを上げて、従龍騎士はワイバーンの上に倒れる。
 従龍騎士の異常を知り、重傷を負った騎士を乗せたまま、ワイバーンは窓から飛び出していった。
「会場の従龍騎士撃退。でも、廊下が騒がしくなってます。敵が入り込んでいるもよう」
 ミルディアは真奈と共に廊下へと駆けだしながら、随時白百合団員に連絡を入れていく。

「大丈夫です。こちらには窓はありません。慌てずに落ち着いて歩いてください」
 彩蓮は、開始前に緊急時の避難経路について調べてあった。
 一般人を誘導する葵を助け、共に非常路から資材搬入口へと人々を導いていく。
 屋上の方から獣が暴れるような音が響いてくる。
「早く早く、早く外へ」
「とろとろしてんじゃねぇぞ」
 近くの部屋の窓ガラスが割れる音、壁が破壊される音と振動に、力のない人々はパニックを起こしていた。
「落ち着け。騎士道を重んじる者であれば、逃げる者の背を斬るような真似はしない」
 低い声で、殿を務めるデュランダル・ウォルボルフ(でゅらんだる・うぉるぼるふ)が人々に言う。
「大丈夫だよ。ちゃんと避難の準備してあるんだから!」
 葵はそう言って、オープンユアハート▽で皆の精神を鎮める。
「ええ、そうです。ですから、落ち着いてくださいね。落ち着いた行動さえできれば、無傷で必ず避難できます。大丈夫ですよ」
 穏やかに、優しく彩蓮は語りかけ、落ち着かせることを優先し、皆を走らせずに資材搬入口へと連れていった。
「外へ出ましたら、帝国の方々の姿が目に映ることもあるでしょう。しかし、絶対に攻撃をしかけたり、刺激するようなことをしてはいけません。自分自身と、一緒にいる方々、シャンバラの大切な人々のことを共に守りましょう」
 そう声をかけ、彩蓮は順々に資材搬入口から一般人を外へ出していく。
「こっちですぅ。足下に注意してください〜」
 館の外では、メイベル達が待っていた。
 手配していた船を館近くに停めてある。
 避難場所までは決めていないが、運河ばかりのヴァイシャリーで移動といえば、船が一番早く、手配も容易だ。
「押さないで、絶対押さないでね。タラップは一人ずつ、ゆっくり上がってね。大丈夫だから」
 セシリアは船の上から人々に呼びかける。
「一般人の避難用の船です。ご覧のとおり、他には何も積んでいません」
 フィリッパは、館の周りを飛んでいる従龍騎士達に向けて声を上げる。
 館への侵入場所を探っている従龍騎士等は、ちらりとこちらに目を向けるも、襲いかかってくることや、人質にしようと向かってくることは一切なかった。
「一般人に危害を加えるつもりはない。だが、地球から招かれた契約者や、我等の技術を用いて作られた物、我等に敵対する脅威はここで討たせてもらう」
 ドラゴンに乗った龍騎士の一人が、声を上げる。
「壊され、ちゃうの? 破壊されるの?」
 恐怖でガタガタ震えている少女がいた。
「……大丈夫です……」
 そう、もしかしたらこの建物や、周りの街の一部が破壊されてしまうかもしれないけれど。
「街は再建できますが、命は死せば戻すことは無理です、から……」
 だからここから離れましょうと、シャーロットは怯えている少女の手を引いて、船の中へと入れていく。
「これも一つの戦いですわ。必ず、皆様を無事に安全な場所までお連れいたします」
 フィリッパはしっかりした声で言い、人々を船の中央へと集めていく。
「こちらの御仁で最後だ。頼む」
 デュランダルが最後の一人をタラップへと乗せる。
 恐怖で足をがくがく震わせながら、その人物は這うように船の中へと下りた。
「副団長、救護船への乗り込み、ほぼ完了しましたぁ。郊外へ避難しますぅ」
 メイベルは総指揮の優子に通信を入れると、セシリアに頷いてみせる。
「出して、ずっと南の方にお願い」
 セシリアは船長にお願いをし、緩やかに船は発進する。
 龍騎士も従龍騎士も攻めてはこなかった。ただ……。
「早く行け」
「エレン、ここは私が食い止めるから皆をお願い」
 デュランダルと葵は船に乗らなかった。
 騎士団が地上に放った機械獣が一部、こちらへと向かってきている。
 船は急発進出来ない。
「時間稼ぎくらいは……ッ!」
 飛びかかろうとする機械獣の前に立ちふさがり、デュランダルは紋章の盾で防ぎ処刑人の剣を振り下す。
 船が見えなくなるまでは全て身を盾に止めるつもりだった。
「こっちには行かせないんだからっ!」
 葵はヒプノシスで、機械獣を眠りへと誘う。
 眠気で動きが弱まった機械獣に、デュランダルが剣を叩き込んで破壊した。
「葵ちゃん……! 葵ちゃんもちゃんと避難してくださいね!」
 エレンディラは大声でそう言い、葵を案じながらも怪我人の救護に動く。
 敵に襲われてはいないが、逃げる際に転んだりして、軽傷を負った人達や、気分が悪くなった人達が沢山いた。
 恐怖で震えている人達もいるから。
「大丈夫、大丈夫ですよ。襲ってはきませんから」
 エレンディラは不安な気持ちを抑え、皆に声を掛けながら、命のうねり、歴戦の回復術で癒していく。
「残っている方々が心配とは思いますが、皆を信じていてください。決して騎士団を挑発したりはしないようお願いします」
 天使の救急箱で、治療して回りながら、彩蓮は皆にお願いをする。
 この場から離れれば、彼らが一般人に刃を向けることはないはずだ。
 空にはまだ、沢山の飛竜の姿がある。
 全てが襲い掛かってきたら――いや、団長一人でも館を破壊することくらい訳ないだろう。
(皆、無事でありますように。今はとにかく、この方々を一刻も早く安全な場所へ連れていきませんと)
 彩蓮は残してきた人々、白百合団の団長、そしてパートナーを案じながら、目の前の人々を励ましながら、治療していくのだった。