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リアクション
chapter.17 おっしゃれおしゃーれ♪……7
「くっくっく……全裸野郎が二人も。揃いも揃って馬鹿が集まったな。だが馬鹿は嫌いじゃねぇ!」
「こ、今度は誰よっ!」
「鬼羅星!(挨拶)」
セーラー服をたなびかせ仁王立ちするのは天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)。
その姿はまさに変態。登場5行でもう溢れるアブノーマル感たるやエリートの風格である。
「その格好でお洒落勝負する気!?」
「おっと勘違いすんじゃねぇぜ。このセーラー服はボクサーが纏うガウンみてぇなもんだ。本番はこれからよっ!」
パサリとセーラー服だけが床に落ちた。
神速の早さで脱衣した鬼羅は惜しげもなく裸体を晒し道満に迫った。
「ふ、服を置き去りにした……!」
「蘆屋道満……てめえはなにもわかってねぇ。どんなに着飾ろうとこのままじゃあ、てめえは一生美しくない!」
「はああああ!?」
「なぜなら外見ばかりを意識してる。裏を返せば真の自分、つまり全裸の状態の自分に自信がないからだろーが!!」
ビシィと指を突き付ける。
「一糸まとわぬ姿、それは生物の根源! 生物はすべて全裸であり人間も生まれてきたときは全裸だった!」
「!?」
「もし、そこに羞恥や侮蔑が混ざるならそれはただの偏見だ!」
「あ、あんた……!」
「芸術の世界であまたの裸体が題材にされ作品となっている! 絵画に描かれている神や天使も全裸だった!」
鬼羅はギリシア彫刻を思わせるポージングを決める。
「本能的に人が全裸を美しいと感じることは証明されているのだ!」
「……やれやれ、コイツはとんだ逸材が出てきやがったな」
アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)は感心半分、呆れ半分で鬼羅の勇姿を見つめた。
「おいおい、そういうてめえもこのタイミングで出て来たってことは、どうせ全裸になるんだろ?」
「俺ぁならねぇよ!」
「あらあら、スキンヘッド、タトゥー、髭……ってどう見てもこっちの仲間じゃないの、あんた」
「つか、ゲイでもねぇ!」
とんでもない疑いをかけられつつ、アキュートはコホンと咳払いをする。
「お洒落はよくわからねぇがようはインパクト勝負だろ。目の眩む様な衝撃ってのを、教えてやるぜ」
「ん?」
ふと、アキュートは新年会を思わせる手拍子を始めた。
「ハイハイハイハーイ! 飛ーんでっ! 飛ーんでっ! 飛んでっ! 飛ーんでっ来ーっい!」
「!?」
「お洒落な、貴方を、見てみたーいっ! 輝く、貴方を、拝みたーいっ! ハイッ! ハイッ! ハイハイハーイッ!」
次の瞬間、天井付近を悠々と泳ぐウーマ・ンボー(うーま・んぼー)が光臨した。
照明にてらてらと輝く濡れた表皮、大海に鍛えられた油ののったボディ、とても新鮮な魚類である。
とりあえずリンクにカーソルを合わせてその姿を拝むことをオススメする。
「漢には決めねばならぬ時がある」
「どうだ、道満、こいつがうちの自慢のエースだ。同じ全裸でもひと味もふた味も違うだろう?」
「全裸っていうか、水揚げ直後……?」
「お望みとあらば、持参した『ウーマの一張羅』でシックに決めても良いが?」
「魚類が何着ても大して変わんないわよっ!」
道満は自分を囲む裸族たちをキッと睨んだ。
「なんなのよ、あんたたち、月にパラミタの法律が適用されないと思って好き勝手やってるんじゃないでしょうね!」
「愚か者め。そなたがお洒落の神髄もわからぬほどに鈍感なだけだ」
そう言ったのは、自称空大のおしゃれ番長姫神 司(ひめがみ・つかさ)だった。
「派手なブランド物に貴金属? ふん、下らんな!」
「ブランド物のなにが悪いってのよ。偉そうに上からいってるけど、あんた全然お洒落じゃないじゃない」
「高価なものは派手すぎず下品でなく、一見それとわからんが使い心地が良い物を選ぶのがわたくし流だ」
「どういうこと?」
「お洒落は下着から! お見せ出来ないのが残念だが、わたくしの下着はセコール社のオーダーメイド品だ。この心地良さ、良い物を身に付けている自覚で、自然とそれに相応しくあろうと背筋が伸び仕草も変わる」
「むむ……」
「それがわたくしのお洒落だ。そなたの服の下は果たしてどうかな?」
「馬鹿にしないで! あたしだってセコール社のオーダーメイド品よっ!!」
道満はバッと陰陽師装束を脱ぎ捨てた。
ゴールドラメのビキニパンツ、それから乳首を隠蔽するハート型のニップレスがあらわとなった。
「どう? あたしの完璧なボディ! そして下着もパーペキな着こなし!」
「……完全に変態だな」
そして、道満の脱衣が裸族たちの戦闘開始の合図となった。
「くっそー長いこと裸で放置しやがって! 変な趣味に目覚めたらおまえらのせいだかんなーっ!!」
「長らくお待たせしたなっ! さぁめくるめく愛の神秘に酔いしれるがいいッ! 大丈夫、怖くないッ!!」
ケイとマリーが飛びかかる。
「さぁ道満よ。それがしの胸に抱かれて眠るがいい」
ウーマもはるか頭上からヒプノシスを放つ。
「人の美しさを体現したオレがてめえを打ち倒す! 刮目せよ! この全裸になる意思! 脱意の波動を!!」
鬼羅の裸体をオーラが覆う。
「今、必殺のぉおおおおお!!! 脱・天空波動拳!!」
しかしその時、ふと、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……と道満を包む気配が膨張を始めた。
裸の美を武器に挑む。お洒落……かどうかはやや疑問だが、その主張自体はそれなりの説得力がある。
ただ、ただである。
道満の筋骨隆々のパーフェクトボディに勝利出来るほどの肉体美を持つ人間が果たしてこの場にいるだろうか?
正直、ダビデ像にもっとも体型が近いのは道満である!
「筋トレしてから出直して来なさいっ!!」
「どわああああああああ!!!」
「うわああああ!!」
ケイと鬼羅を炸裂する拳が打ち上げる。
「しーかし! ワテならガタイは互角! すべてをゆだね力を抜くのだッ!」
「女は論外よっ!」
「ぬおおおおおおおおおっ!!」
鉄拳制裁。マリーも天高く舞う。
三人はぶっ飛ばされ天井を漂うウーマを直撃。四人仲良くきりもみ回転しながらがっしゃあんと落下したのだった。
「……しかし、こちらはどうかな?」
「む!?」
「まさか、こんな手に引っかかるとは思わなかったが、武装解除してしまえばこちらが有利だ。さてどうする?」
四人が殲滅されてる間に、司が武器を手に道満を追いつめんと迫る。
彼女の言うとおり、衣装をパージしてしまった道満はお洒落度が著しく下がってしまっている。
「けど、別にあんたお洒落じゃないじゃない!」
「な……っ!?」
渾身のナックルバズーカ・エレガンスが彼女をもまた天高く吹き飛ばした。
下着にはこだわりがあるのかもしれないが、司の着こなしはとりたてて何もなく別に普通であった。
それこそ、下着姿の道満がまだ自分のほうが勝ってるわと思ってしまうぐらいに。