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リアクション
2 『下呂』戦
遺跡内部は、イレイザーや3体のモンスター以外に敵はいないようだ、というのが分かり、フレイムたん調査やモンスター退治、遺跡探索、休憩所設営など、グループごとに分散して動くことが可能となった。
「フレイムたん、サンフラちゃんに持ってかれたけど、大丈夫かな……?」
クマチャンが結和に尋ねる。
結和は突然の質問に汗を飛ばして戸惑いながら、
「ええっ、わ、私ですかー? そ、そうですねー。さっきモモさんが言うには、ギフトは力を示した者に従うそうですし、ご機嫌をとっても必ずしも効果的とは思えませんがー……菫さんも追って行きましたし、私たちはあくまでイレイザー討伐で、フレイムたんにアピールした方がよいかとー……」
と、性格上聞かれたことには一生懸命答える。
「アピール、ねえ……これってPR合戦だっけ?」
「ああっ、アピールって変ですよねー。あはは、何だかすみませんー」
結和は顔を赤くして頭をかいている。
ダイソウは、向日葵に後れを取るまいと、
「では我々も探索に行くぞ。サンフラちゃんとは別方向に進むがよかろう」
と言って、エメリヤンに歩み寄る。
「行くぞ、飛天ペガ、いや今日は飛ぶことはないであろうから、コクオウゴウだな。ゆくぞ、コクオ、どうした。何をすねておる?」
何故かエメリヤンは、人型のまま頬を膨らませ、何だかふてくされた顔をしている。
結和が慌ててダイソウに駆け寄り、
「あ! 違うんです、ダイソウさんー。地下遺跡って聞いて、天井が低そうだから乗れないんじゃないかなって、私が言っちゃんたんですよー。それでエメリヤン……」
「なるほど。私が騎乗できぬと思ったのか。見よコクオウゴウ、我々の未来の拠点候補を。この広大な地下都市を、私に徒歩でうろつけと、お前は言うのか?」
地下一階のみの遺跡とはいえ、火山帯のマグマと地下水が作り、ニルヴァーナ人が手を加えたであろう巨大洞窟は、街の長がいたと思われる邸もはるか遠くに見える。
その邸に至る中央の大通りも広く、かつてニルヴァーナ人が生活を営んでいた頃は、きっと5万以上の人口を擁していたに違いない。
それにぴくんと耳が反応したエメリヤン。
一気に機嫌を直して、大型の羊へ姿を変える。
「うむ、それでよい」
ダイソウはエメリヤンに飛び乗る。
結和もいつもどおりにダイソウの後ろに乗ろうとするが、
「……結和はおしおき」
と言って、ダイソウだけ乗せてトコトコ進んで行った。
「ぅぁああ〜、え、エメリヤンごめんねぇ〜……」
目にいっぱいの涙をためる結和は、
「あっはっは。勘違いなんか誰にでもあるよね。さあ、たまには一緒に歩いてみようかー」
クマチャンが結和の背中を叩いて、隣を歩かせる。
「くっ、予想以上に……この暑さは……」
グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は、思わず膝をつく。
「いけない。エンド、やはり飛空艇で休んでください。【アルバトロス】を持ちこめてよかった」
と、ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)がグラキエスの肩を支える。
氷属性が強いため、暑さに極端に弱いグラキエス。
まだ遺跡に入ったばかりだというのに、彼の体力の削られ方は他のメンバーの比ではない。
しかし、グラキエスは自分を支えるロアの腕に手を添え、
「無論、無理はしない……だが、何もしないうちから、手を抜くわけにはいか、ない……」
と、殊勝にも立ち上がろうとする。
「グラキエス、無理はいかん。貴公は動くべき時に動けばよいのだ。まずは我とキースに任せよ」
ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)も、グラキエスに休むよう進言する。
火竜である彼には、この遺跡の環境は心地良さそうで、グラキエスとは打って変わって景色を楽しんでいる。
「どの面を下げて来たかと思えば、よいザマだのう」
と、アルテミスが目の前でグラキエスを見下ろしている。
彼女がグラキエスに怒りの目を向けるのにはわけがある。
ニルヴァーナへダイダル 卿(だいだる・きょう)の本体蒼空の城ラピュマルに乗って宇宙を飛行していた際、グラキエスはニルヴァーナ捜索隊の後続部隊と勘違いして、補給のつもりで物資をかっさらってしまった。
それが決定打となってアルテミスのバリアが解け、ダークサイズはこの上ない危機を迎えたわけだが、アルテミスがグラキエスの顔を見た時、その怒りが蘇ってきたというわけだ。
グラキエスはアルテミスに顔を上げる。
全く偶然なのだが、その画は女神にひれ伏す、傷ついたイケメン戦士、といったところ。
「あなたは、アルテミス、だったな……その節は世話になった」
「ふん、どうしたその情けない姿は。見るに、属性が環境に追いつかぬようだな」
「フ……そんなことは問題じゃない。あの時、ブラッディ・ディバインを追い払うことができたのは、あなたたち後続部隊の補給のおかげでもある。その部隊が遺跡探索をするというのなら、その手助けをするのは……俺にとって礼の一つにすぎない」
「ふむ……?」
グラキエスをてっきり盗人だと思っていたアルテミスは、彼の言葉を聞いて、首をかしげる。
グラキエスと同じく、ダークサイズをニルヴァーナ捜索隊の後続部隊といまだに思いこんでいるロアも、
「本来、味方の一部隊にそこまでする必要はないでしょう。私は、エンドが礼をしたいと言うなら、それを手伝うまで。わざわざこの環境に身を置くほど、彼がどこまで義理を感じているのか、私は聞きませんが」
「……」
ダークサイズをピンチに陥れたとはいえ、思っていたのとは全く違う考えを聞いてしまったアルテミスは、
「ふん……」
と、右手から魔力を凝縮した球を生み、グラキエスに飛ばす。
すると、ラピュマルを覆っていた時のような半透明のバリアのようなもの(アルテミスの加護)が、グラキエスの身体を包む。
グラキエスは身体の異変に気付き、
「暑さが……消えた?」
「言っておくが長時間とはいかぬぞ。おぬしごときに空腹に悩まされる気はない」
立ち上がったグラキエスに背を向け、
「せいぜい礼とやらをしてもらおう。ダイソウトウさまのために」
と、アルテミスは去ってゆく。
事情を知らず会話を聞いていたゴルガイスだが、微妙な噛み合わなさとアルテミスの態度の変化を見て、ロアに成り行きを聞く。
ゴルガイスは腕を組み、
「なるほど。我が見るに……貴公らがやったことは、立派な窃盗行為であろう」
『なん……だと……?』
第三者目線のゴルガイスの言葉を受け、衝撃を受けるグラキエスとロア。
「やれやれ。後で礼と共に、詫びも言わねばならぬな……」
義理がたいゴルガイスは、ダイソウを追っていった。
☆★☆★☆
「これは……住宅街の跡、か?」
猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)が、経年でひどく朽ちた石の壁を撫でる。
ダイソウたちより一足先に住宅街跡に到着した彼は、どこにいるとも限らないモンスターの警戒を含め、街の通りを歩いている。
勇平の隣には、まだ呆れ顔の残るウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)とウルスラグナ・ワルフラーン(うるすらぐな・わるふらーん)が歩く。
すぐ近くには、暑さからの退避場所を探すアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)と、マッピングしながら歩くルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)もいる。
「勇平くん……この秘密結社に協力することは、巡り巡ってニルヴァーナ捜索隊の助けになりますから目をつぶるとして……率先して斥候のまねごとをする必要がありますの……?」
ウイシアの穏やかな声からは、勇平へのそれとないプレッシャーを感じる。
それを敏感に察知した勇平は、
「だ、だから言っただろウイシア! 捜索隊だけでは情報収集に限界がある。ダークサイズ経由で得られる情報を持ち帰るのが今回の目的だ。これはイコン戦で共闘した俺達だからこそできる仕事だ」
「困った人ですわ……」
「あっははー。まあまあ、そういう堅苦しいのはいいじゃーん。楽しくなければダークサイズじゃないじゃーん」
アキラが親しげにウイシアの肩を叩く。
ウイシアはため息をつき、
「なるほどのう、ダークサイズとはこういうものなのか」
「そうそう、ノリでざっくりいったら大体何とかなるから」
ウルスラグナの言葉に、アキラが大雑把に説明し、さらに、
「【氷術】でガンガンクーラーかけれる家ないかなーって探してたら、大体都合よく現れてくれるんだけどねぇ」
「アキラ、それは言いすぎじゃろうて……」
さすがにルシェイメアが止める。
「ふむ……だが、ニルヴァーナが何故滅んだのか、誰が滅ぼしたのか? フレイムたんからその歴史を引き出せぬ以上、朽ち果てた石壁から何か分かるとは思えんがのう」
ウルスラグナは、一件の住宅跡を覗きこむ。
勇平も頭をかき、
「そうなんだよなぁ。一応、さっきダイソウトウと話して情報の共有は約束してもらったけど……」
「秘密結社ともあろう者が、情報の提供を約束するとは……さきほどは山羊に優しくしておったし、秘密でも悪でも何でもないではないか。彼らは組織名を間違えておらぬか?」
「あっはは、それは言えてる」
ウルスラグナの言葉を聞いて、アキラは笑いながら吹き出す汗をぬぐう。
「あっちいなぁ〜。なんだよこれぇ……休めるとこないかな……」
アキラは手ごろな家がないか、路地沿いに立つ家々を見回る。
ルシェイメアが景色を見てマッピングをしつつ、
「こんな火山帯によくも街なんぞ作ろうと思ったものじゃ。ニルヴァーナ人の気が知れん」
「どうでもいいけど、家全部壊れちゃってんじゃん……」
アキラはがっかりしながら、石造りの住宅街を見渡す。
試しに一件の家に入ってみるが、長い歴史の影響か、石壁はくずれ、屋根も落ち、おそらく二階もあったのだろう、階段と思われる方形の石材も原型も分からぬほど崩れて散乱している。
ルシェイメアは首をひねる。
「経年劣化にしては、岩石質の部分ばかりがやたら破損しておるのう」
「だー! こんな空気ダダ漏れじゃあ、【氷術】使っても意味ねー! しょうがないや、水水! ルーシェ、水道は?」
「あるようじゃが、言わずもがな干上がっとるぞ」
「まじかー!」
「水道も石造りか。この暑さでは鉄のパイプでは持たぬしのう……ニルヴァーナだというのに、この街は原始的な作りが多いわい」
「これは……本棚、かしら?」
ウイシアが壁沿いにある木製と思われる枠を見る。
木枠の中には、完全にただの石板となった機晶端末がころがっている。
ウイシアが手で触れてみると、木枠は大きな音を立てて崩れ落ちた。
「きゃっ」
「大丈夫か、ウイシア?」
「ええ。勇平くん、これは書籍でしょうか?」
ウイシアは、崩れ落ちた木枠から、端末を一つ拾い上げる。
機晶端末は、地球で言うタブレット端末のように形が整えられており、表面にビジョンが映し出される仕様のようだ。
勇平はかすれきった端末の裏面に目を凝らし、文字は分からないものの描かれたイラストを丁寧に見る。
「これは……料理本か?」
勇平は、表面のススを手で払いながら、
「へえー。ニルヴァーナ人ってどんなもの食べてたんだろ? エネルギーは……当然残ってないよな……」
とはいえ、修理をして機晶技術を適応させて解析をすれば、ニルヴァーナ人の食の歴史を紐解けそうである。
「ゆ、勇平殿! 勇平殿―!」
「どうしたっ、モンスターか!?」
アキラの切迫した声を聞き、勇平は走る。
勇平が奥の部屋に行くと、アキラは何故か這いつくばってベッドの下を覗いてみる。
「勇平殿っ、見てくれ! これはもしや……」
「な、なんだ?」
勇平がアキラの指すベッド下を覗くと、奥の方にまたしても端末の板を見つける。
黙り込んで、目を合わせる二人。
「勇平殿、ニルヴァーナ人の思春期の謎を、解いてみたいと思わないか?」
「そ、そうだな……ニルヴァーナ人の生活を知る、重要な手掛かりに違いない」
「勇平くん? 何を見つけたのです?」
そこに、ウイシアが後ろから声をかける。
勇平は動揺しながら振り返り、
「えっ!? いや、別に……!」
「すげええ! これがニルヴァーナ青少年のロマン、エロ本! つーか端末で見て楽しいのか?」
「しーっ! アキラしーっ!」
興奮して本を引っ張り出すアキラの口を、勇平が慌てて塞ぐが時すでに遅し。
ウイシアの背後には歪んだオーラが漂い始める。
「ふうん、そういうことですの……勇平くん? ちょっと外でお話しがあるのですけど」
「違う! これはホントに違うんだあ!」
ウイシアの背筋も凍るオーラが家を覆い始めた時、突然低いうなり声と、猛烈な熱気が漂ってくる。
「まさか、来おったか?」
ウルスラグナとルシェイメアは、フレイムたんが言ったモンスターの出現を知覚した。
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