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リアクション
3 『草津』戦
遠くから、怒号のような叫び声が聞こえる。
それに呼応するように、フレイムたんが遠吠えを始めた。
「どうしたの、フレイムたん?」
向日葵がしゃがみこむ。
(誰かが「おもちゃ」を一つやっつけたみたいだよ)
「トウさんたちでしょうか? 早いですね……」
と、ダイソウたちと別れてフレイムたんについてきたキャノン ネネ(きゃのん・ねね)についてきたモモが、ダイソウたちが向かった方を見る。
「くっそー、こっちも負けてらんない!」
向日葵がしゃがんだまま拳を握る。
そこに菫が来て向日葵をポンと押しのけ、向日葵がころんと転がる。
菫はフレイムたんに、立ったままで言う。
「いい? フレイムたん。あのおじちゃんは、あんたと仲良くなるためにがんばってるの、分かるよね?」
フレイムたんはこくんこくんとうなずく。
「そして率先して結果を出してきたわ」
こくんこくん
「あの人は、有言実行のとっても偉いおじちゃんなのよ」
こくんこくん
「で、それを監視してるあたしは、おじちゃんより偉い人なのよ」
分かってるのか分かってないのか、フレイムたんの瞳が輝く。
「だから、あんたはあたしの言うこと聞かないとだめよ?」
きらきら
「こほん。まずはその容姿ね。パピヨン犬よりフレンチブルドッグの方がかわいいから、それに変身して」
フレイムたんは菫を見つめたまま首をかしげる
順序立てて話しているようで、菫の結論は暴論である。
「ま、それは冗談として、ニルヴァーナ人のことも聞きたいけど、まずはそのダサいモヒカン何とかしてよね」
誰も突っ込まなかったが、いつの間にかフレイムたんの頭に取り付けられた【デラックスモヒカン】に目をやる。
「ヒャッハー! てめー、俺様とフレイムたんの友情の証にイチャモンつけんじゃねーぜ!」
フレイムたんにモヒカンをかぶせた犯人は、やはりゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)である。
「てめえが小賢しい事吹き込んでも、フレイムたんと第一の友情を結んだのは、俺様とすでに決まってるんだぜーっ!」
ゲブーが親指で自分の胸をトントン叩くと、フレイムたんは何故かテンションが上がって、
(ねーぜー、ねーぜー)
と、意味も分からずゲブーのオウム返しをする。
ゲブーの行動に珍しく喜ぶ向日葵。
「フレイムたんに唾ならぬモヒカンつけたんだね! ゲブーくん、お手柄!」
「がはははっ! おっぱい(向日葵)のために、今日は未だかつてない活躍をするぜ! 遺跡も華麗にダークサイズから奪ってやらあ。その暁にゃあ、おっぱい(向日葵)が俺様にメロメロなのは目に見えてるぜ!」
「あ、うん。それはないけどね」
「だーっははは! しょーがねえなぁおっぱい(向日葵)は。ま、ここまで一緒にやってきて、てめえの心理は分析済だぜ。原因は、俺様におっぱいされんのが人前じゃ恥ずかしいってこと。つまりてめえは、ただの奥ゆかしい照れ屋さんなんだぜ!」
これまたゲブーは暴論を展開して、向日葵を指さして決めつける。
菫はため息をつき、
「はーあ、ばっかばかしい……」
「なーるほど、てめえも照れ屋さんだな? 俺様がおっぱい揉みほぐして照れをとっぱらってやるぜ!」
「……じゃあこの子を」
ゲブーの相手をするのに疲れた菫は、いけにえにパビェーダを差し出す。
「ええええっ! ちょっと菫!?」
「色白メガネおっぱいちゃんか……悪くねえぜ」
ゲブーはおっぱい揉めれば誰でもいいのだろうか、パビェーダに狙いを定める。
「そそそ、そんなことより、サンフラワーちゃんには聞きたいことがあったんだけど!」
パビェーダは必死に話題を逸らし、
「私はダークサイズとサンフラワーちゃんの詳しいいきさつは知らないけど……あなたはダークサイズを倒すために、ニルヴァーナに来たのよね?」
「もっちろん! ニルヴァーナはパラミタを救うカギになるらしいからね。ダイソウトウがここで活躍しちゃったら、パラミタにどう反映されるか分かったもんじゃないわ」
「例えばここでダークサイズを倒したとして、帰りはどうするの?」
「……えっ?」
「ここにはダークサイズの宇宙船で来たんでしょう? 彼らがいなくては、サンフラワーちゃん帰れないんじゃない……?」
「……そそそそそ、そーだったああああ!」
パビェーダにそもそも論を聞かれ、突然向日葵は頭を抱えてしゃがみこむ。
それに、フレイムたんを誘い出してノーンと天音を交えて遊んでいた永谷が反応する。
フレイムたんを味方につけるための作戦としての行動と言っていたが、永谷が満面の笑みでフレイムたんにボールを投げるのを見ると、どうも疑わしい。
だが、チームサンフラワーを事実上指揮する一人として、永谷もこれには黙っていない。
「サンフラさん、心配ない。俺達の目的は秘密結社のダークサイズ壊滅であって、彼らを全員倒すことじゃない。戦力の差も考えると、現実的じゃないしね」
「どういうこと?」
「要はダイソウトウさえ倒せばいいんだ。そして……ダイダル卿を味方につければいい」
「な、なるほど!」
さらに涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が追加して、
「アルテミスは悲しみに暮れるだろうけど、ナラカに落ちたダイソウトウを救うから、と彼女とは契約関係を結んではどうだろう? これなら宇宙空間のバリアも心配ない」
「すごーい!」
「ただ、ここの敵はあのイレイザーだ。ダークサイズと共闘してイレイザーを倒し、恩を着せると同時に私たちの力を魅力として見せておくのも大事だな」
「はーっはっはっは! どーだー! あたしたちの計画は完璧なのだー」
一転してパビェーダに胸を張る向日葵。
納得しつつもあきれ顔のパビェーダ。
(ったく、しょーがねーおっぱいだぜ。その一喜一憂っぷりがかわいいがな!)
口に出して言わないあたり、ゲブーなりの思いやりだろうか。
というわけで、無計画だったチームサンフラワーに、「ダイダル卿懐柔作戦」という目的が生まれた。
☆★☆★☆
「あっはははは……うっふふふふ……」
目的を忘れてしまったかのように、フレイムたんと戯れるノーンと天音。
眉間にしわを寄せてため息をつくブルーズ。
そしてそれを岩陰から見る氷藍とクレナ。
「お、おのれー。俺達もフレイムたんと触れ合いたいぜ……」
「そういえば氷藍。私たち、どうして隠れてるんです?」
「……はっ、そういえば! 特にこそこそしてる理由なんてなかったぜ」
「そうですよ! スパイじゃあるまいし、堂々とフレイムたん保護をすればいいんです!」
「あら、そうでしたの? てっきりわたくしと同じ狙いかと思いましたわ」
『どきいっ!』
二人が振り返ると、同じ岩陰に、何故かネネがしゃがんでいる。
「び、びっくりした! あんたは、キャノンネネか」
「初めまして」
ネネは二人に何の警戒もなく笑顔を向ける。
「あの、どうしてここに? あなたこそ、こんなところに隠れる立場じゃないでしょう?」
ネネは人差し指を口に当て、反対の手で持っている紐を見せる。
彼女が持つ紐を目で追うと、その紐は岩から少し離れた所に立てている棒きれにつながっている。
そしてその棒は、逆さまにしたザルの一片を支えており、ザルの下にはお米が落ちている。
氷藍とクレナは思わず大きく口を開ける。
(こ、子鳥とかを捕まえるやつー!)
二人はあまりの意外さに、一瞬罠の名前が出てこない。
ふだんのネネからは想像もつかないが、彼女は少年のように目を光らせる。
「ね、ネネさん? どうしてそんな罠を!?」
「何故って? あれにフレイムたんが引っ掛かったら面白いではありませんか」
「何で? 何で? フレイムたんに罠とか意味なくない?」
「わたくしのささやかな趣味ですわ。小動物が籠で慌てふためく様は、とても愛でがいがありましてよ?」
(趣味悪いー!)
ネネの屈折した嗜虐性の表現に、二人はまた口を開ける。
「何なんだよその謎の趣味!?」
「で、でも氷藍。もしかしたら、私たちがフレイムたんと触れ合うチャンスかも!」
「いやでもそもそも、一応知性があるギフトだぜ? あんなくだらない罠に……」
(きゃんきゃん!)
「引っ掛かってるー!」
「おーほほほほ!」
予想外の結果に驚く氷藍をよそに、ネネは高笑いをして立ち上がる。
そして、中でザルを引っかいたりがさごそ動いたりして脱出を試みるフレイムたんを見て、クレナの理性も崩壊。
「ああーん! ふ、フレイムたああああん!」
クレナがたまらず飛び出し、ザル越しのフレイムたんにとびきり萌える。
氷藍もフレイムたんの元へ走り、
「よしよし、フレイムたん。俺達は敵じゃないぞ」
と、ザルを取って抱き上げる。
ネネはちょっとがっかりしながら近寄り、
「あら、もう解放して差し上げますの? ここからしばらく観察するのが本番ですのに」
「つーかこれ、虐待だろ……」
「何を仰いますの。傷つけるようなことはしませんのに」
「お姉さま……どこへ行かれたかと思ったら、何をなさってるんですか……」
モモがネネを見つけてやってくる。
「だってモモさんったら、最近すっかりわたくしにかまってくださらないんですもの」
「え、いや、そんなことは……」
最近、ネネの世話を焼く頻度が下がっているモモ。
一応ネネも嫉妬を感じていたようで、モモにすねて見せる。
そしてちょうど、その原因がやってくる。
「さてさて〜、モモちゃん。今日もあちきと絆を深めましょうね〜」
レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)がモモと腕をからませ、それをミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が、今日もビデオ撮影している。
「レティ……ニルヴァーナに来てまで、こんなことするの?」
「何言ってるですかぁ、ミスティ! ニルヴァーナで公開いちゃいちゃなんて、宇宙を股にかける一大ラブロマンスじゃないですかぁ〜。探索デートはどこにしましょうかねぇ」
レティシアが顔をほころばせながら見渡していると、椿 椎名(つばき・しいな)がフレイムたんのもとへやってくる。
「なあフレイムたん、どこかお店が開けそうな所はないか? 『喫茶エニグマ』のニルヴァーナ出張所だぜ!……ってソーマ! じゃれてないで質問させろよ」
狼の獣人ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)。
ノーンや天音と違って、ソーマがフレイムたんと遊ぶ手段はじゃれあいである。
地面をはいずりまわりながら、お互いの身体を甘噛みしあっている。
(それなら、このすぐ先のお店屋さんの跡があるよ。『しょーてんがい』?)
「お、商業地域か! うってつけだぜ。できれば水源が確保できるところがいいんだが……」
(うん。お水を使う「おもちゃ」がいるから、だいじょーぶだと思うよ)
「おもちゃ……モンスターか。ってことは『草津』だな……」
「それは渡りに船ですね……これを使うまでもなさそうです」
椎名の隣で、ナギ・ラザフォード(なぎ・らざふぉーど)がL字の鉄棒をカバンにしまう。
ダウジングでも始めようとしていたらしい。
「お水ですかぁ〜。これはいい画が撮れそうですよぉ、ミスティ」
「レティ……放送できる範囲にしてくださいね」
レティシアはモモの腕をとって進み、
「フレイムたんは、私たちが守らなければ!」
クレナと氷藍も、フレイムたんを追う。
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