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【創世の絆】超巨大イレイザーを討伐せよ!

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【創世の絆】超巨大イレイザーを討伐せよ!

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小暮の試練

 大岡 永谷(おおおか・とと)は小暮が巨大インテグラルの体内に取り残されているという話を聞き、居ても立ってもいられず駆けつけてきた。動転している今、一匹狼的に突撃をしかねず危険であり、他のメンバーにも迷惑をかけると考えて、ヘビ型ギフトを探すという面々に同行させてもらうことにしていたのだ。
(ギフト? そんなものは欲しい人にくれてやる。俺が欲しいのは、小暮の無事だけだ。
 小暮が囚われているなら、俺が代わりになると申し出る。
 ……小暮がもし、儚くなってしまったとしたら……いやいやいや、そんなことを考えてはいけない!!
 もし、救出出来たらば、なんでこんな馬鹿なことをしたと殴りかかった上で心配だったと小暮に抱きつこう。
 俺は、お前が好きだと告白もしよう。とにかく全力を尽くすぜ)
そわそわと落ち着かない大岡の様子を見ていたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、小暮救出の一報を受け取った。彼女は小暮救出は教導団の手で行われなければならないと考えていたので、発見者のメンバーにクレアがいたことでホッと息をついた。
(いつも他校に足元を見られてばかりな教導団ではまずい。……とりあえずこれで体面は保たれたわね)
「どうしました?」
エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)がローザマリアの表情を見て訊ねる。
「小暮少尉が見つかったそうよ」
「ほ、本当でありますかっ!!」
大岡がローザマリアにしがみつかんばかりの勢いで瞬時にすぐそばまで飛んできた。
「え、ええ」
「それで、どこにっ!!」
トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)がはやる大岡をそっと押さえる。。
「ちょっと落ち着いて」
「……す、すみませんっ!」
慌てて深呼吸する大岡を見やり、トマスが言った。
「小暮少尉は、調子に乗りやすくて方向音痴かもしれませんが、情報分析力は確かです。
 イレイザーの核を破壊して倒すのが最終目的ですが、彼は先にイレイザーの中に入って迷い込んでいる。
 迷っているとはいえ、イレイザーの分析や弱点等についてもなんらかの考察は進められているのでは?
 ですのでまずは小暮少尉のところに行って、話しをすることが重要かと」
「あの人は戦闘向けじゃないけど、情報分析とか解析は得意なあんちゃんだからなぁ。
 少なくとも、彼が持ってるイレイザーの体内に関する情報はきちんと受け渡してもらおうぜ」
テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が頷く。ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)も深く頷く。エシクは黙ってローザに影のように従い、大岡は拝まんばかりだ。
「では行こうか」

 ローザマリア、大岡らが到着したとき、小暮はいくらか人心地がつき、壁にもたれて座っていた。回復スキルでできるだけの手当てはしたものの、本調子には程遠い。無理せずしばらく休ませた後、ここでの状況が落ち着き次第学校内の医療設備に搬送されることになっている。
「無事でよかったです、小……」
言いかけたエシクの言葉が凍りついた。弾丸のような勢いで大岡がすぐ脇を駆け抜け、小暮に力いっぱい抱きついたのだ。
「あ……え……あ??」
小暮が目を白黒させ、体を強張らせる。大岡は骨がきしむほどの力で、小暮を抱きしめると、絶叫した。
「生きてて良かったああ小暮!!!! 俺は、お前が好きだああああああああああああああ!!!!」
キーンとなったままの耳の奥、小暮の脳にようやくその言葉の意味が届くと、そのままフリーズした。子敬が小暮の目の前で手をひらひらさせるが、全くの無反応。
「……不慣れなことを聞いて、機能停止しましたね」
「小暮〜〜〜〜〜!!」
大岡ががくがくと揺さぶるが、小暮は固まったままだ。半錯乱状態と見て、イコナが大岡に呪縛封印を施し、大岡はぱたりと静かになった。
「……普段と違ったパターンが入力されて機能停止したのですから、普段のパターンをかぶせればよいのでは?
 彼を落ち着かせるには、情報の整理と分析、そして攻略方法を考えさせるのが良いでしょう」
ミカエラが静かに言った。トマスが頷いて呼びかける。
「小暮少尉、君の力が必要です。色んな事が重なって、貴君も今、上からの心証がはっきり言ってよくない。
 その雪辱のチャンスでもあるんですよ。僕達一人一人は小さな力に過ぎないけれどまとまれば大きな力となる。
 君も力を貸して下さい」
「あ……あ……」
かすかな反応が返る。子敬が説得口調で呼びかける。
「教導団員・軍人の本分を忘れてなければ、無為にイレイザーの中で救出を待つだけでなかったはず。
 体内の様子を観察し情報分析もしているだろう。汚名挽回の良い機会です。
 貴君の情報を元に『指揮』適宜攻撃の指示を出せれば成功間違いナシです。
 参謀の役割を実地で示してください」
「は……はい」
小暮の目の焦点が合ってきた。テノーリオが肩をドンと叩く。
「おい、しっかりしろ! ヘタレのままでいいのかよ?」
「い……いや……」
小暮はゆっくりと頭を振って座りなおした。
「核の破壊をすればイレイザーを倒す事ができるとのことですが……。
 それに伴いイレイザーの体組織全体が崩壊する可能性はありますか?」
ミカエラが訊ねる。
「それは……大丈夫だろうと思います。核は脳に近い器官のひとつというだけのことで、体組織には無関係です」
応える声はかすれ気味ではあるものの、しっかりしていた。
「核の弱点みたいなものはなにか知っていますか?」
エシクの問いかけに小暮は首を振った。
「かなりの耐衝撃性、環境変化への耐性はあるようです。
 恐ろしく長い期間稼動し続けていますし、激しい環境変化をくぐったにもかかわらず、正常に機能していますから。
 先核がこのイレイザー全体のコントロールを行う、原始的な脳のような役割を果たしているのは確かです。
 ただ……核のある手前の部屋にはヘビ型ギフトが多数のアヴァターラを従えて鎮座しています。まずはそれを凌がないと……」
「小暮少尉、同行できそうか?」
テノーリオの問いに、理沙が静かに答えた。
「身一つでここに長時間いたわけだし、凄まじい緊張もあって脱水と衰弱がひどいらしい。
 動かさない方が良いと思う。倒れかねないよ」
「……そうか。ではわれわれだけで向かおう。小暮少尉の面倒を頼む」
トマスが立ち上がった。ローザマリアは小暮の傍にひざまずき、なななの声を真似て囁きかけた。
「……小暮君らしくないよ」
「え? あ、あれは?」
宙に浮いた小暮の問い。ローザマリアは何事もなかったように背を向けて、トマスらとともに核とギフトの待つイレイザーの深部へと向かった。