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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

リアクション

「さあて……? いずれにせよ、真の悪人じゃなそうだね」
 虎蔵は、握っていた拳大の石を投げ捨てた。賢志郎を殴るのに使ったものだ。
「ここにいたか」
 折良く真司が到着した。無論、桂輔とアルマも一緒だ。
 虎蔵は不審がったが、「味方です」とリーラは説いて彼らと合流した。
「おっ、その子がチヨちゃん? 可愛いね〜」
 桂輔が話しかける。これにて一件落着……と思いきや。
「簡単には脱出できないようだね」
 虎蔵が肩をすくめたのである。
 この小屋は離れであり、本邸、すなわち賭場のほうからわらわらと、それこそ燻されて出てきたかのように新手が現れたのだ。何人隠れていたのか、人目では把握できないほどの数である。どの暴力団員も殺気立っている。長ドス、銃で武装している者もあった。
 眼鏡をかけた小柄な男が進み出ていた。どうやら大陸系の実力者らしい、ややひっかかるような発言で男は淡々と言った。
「ここが落とされた、ってワケにはできないのです。全員、命をもらいます。はい、そのガキも含めて、です」
 激昂するでもない、きわめて平素な口調であるが、それだけに、必ず実行するという気迫が感じられようか。
 じわり、と包囲の輪が狭まった。小男が合図すれば、すぐにでも襲いかかってくるだろう。
 だがこのとき突然、桂輔が高らかに叫んだのだった。
「せえの……『気合いだ!』
おお!
 突然、組員の一人が拳を、味方のはずの新竜組員にふるった。その強いこと、拳は相手の顔面にめり込み、組員の体は紙細工のように吹っ飛んだのだ。
 いきなり寝返った組員は、太い眉毛に雄雄しき瞳――夜刀神甚五郎であることは言うまでもない。彼は首尾良く組みに入り込み、手下の一人としてここの警護に組み入れられていたのである。
「当機ブリジットも参戦します」
 どこかから声がする。光学迷彩で姿を消したブリジット・コイルだった。
 これで怯んだ組員めがけ、暴れ牛のごとく甚五郎は突進した。
「気合いが足りないなぁ! 気合いがぁ!」
 殴る。蹴る。これだけの攻撃なのだが、甚五郎のたくましい四肢から放たれるのだから爆発的な威力だ。
「こいつら数は多いが、その大半がここ数日にかき集められた烏合の衆だ。恐れることはない!」
 と叫んだ甚五郎に、すぐさま真司も乗る。
「よし、掃討するぞ。ただし命までは取るな!」
 彼がすぐさま、肘打ちで眼前の暴力団員を倒すと、
「わかってるって!」
 リーラがぴったりの呼吸で飛びだし、足払いで邪魔な相手を転倒させた。加えて、
「ふぅ、怖いお兄さんが一杯だね。でも、こっちのお兄さんはもっと怖いかもよ♪ 怪人『白ドクロ』カモーン!」
「だから怪人ではなく通りすがりのヒーローだと言ってるんだがな……どうも怪人のほうが受けがいいようだ」
 秋月葵、そして『白ドクロ』こと柊恭也が参戦する。
 さらに別の方向からは、六本木優希、姫宮みことと早乙女蘭丸の登場だ。
「一般人だと、槍で突いちゃうと死んじゃいますからね」
 バーニングダッシュで駈け込んできた優希は、愛用の盾と、鉄製のカメラケースで武装している。重くて黒い鉄ケースを、ブンブン振り回すとそれだけで恐るべき兵器となるのだ。
 死角から一撃され、暴力団員は悶絶した。
「いたいけな女の子を誘拐するなんて……覚悟しなさいよ!」
 これは蘭丸の一撃だった。
「え? 不思議な術? や〜ね〜、ただの忍者かぶれよ♪」
 と笑う蘭丸に、みこともペースを合わせて拳を振るう。
「肉弾戦は決して得意ではありませんが、一般の人が相手ならボクでも十分のはずです」
 まるで舞うよう、優雅にしかし鋭く、巫女服で戦うみことなのだ。
 眼前で繰り広げられる戦闘絵巻に、チヨはたじたじになって数歩後退した。
 その背が、高級スーツに触れた。
「おっと、君がチヨちゃんだよね? 俺たちも味方だよ」
 エース・ラグランツである。彼はチヨを自分の背の後ろにかばった。
「まあ、人身売買をしに来た不逞外国人なんですけどね……やだなあ、エース、冗談だよ冗談」
 メシエ・ヒューヴェリアルも一緒だ。皮肉な笑みを浮かべつつも¥協力する。
 やがてヤクザたちは、自分たちが包囲したつもりが、逆に包囲されていることを知った。
 後方からは土方伊月、そして涼介・フォレストが出現し、こう告げたのだった。
「逃げ道は塞がせてもらった。いたいけな子どもを掠うド外道、観念のしどころだぜ」
「投降すれば悪いようにはしません。拒否するのなら……わかりますね」
 ところがこの戦いは、意外な形で水入りとなったのである。
「軍警察……か」
 賢志郎は意識を取り戻し、まだズキズキとする頭で英語訛りの声を聞いていた。
「MPというわけだな。面倒なことになった……どうやら退き時らしい」
 賢志郎は敷地の塀に取りつき、なかば破壊するようにしてこれを乗り越え、逃げていった。
 優希は正門を見下ろした。敷地内に乗り入れてきたのは進駐軍のジープだ。そこから次々と、白文字で『MP』と書かれたヘルメットを被る米兵が降りてくる。
「まずいですね……」
「俺たちも逃げたほうがよさそうだ。捕まったらまた面倒なことになりかねない」
 伊月が言った。躊躇する者はいない。
「そうしよう。遠慮はもう、不要だな」
 真司は振り返ると、スタンガンのナイフ部分を用いて塀に斬りつけた。三度、斬りつけて石壁をまるで発泡スチロールのように裁断する。最後に彼が軽く壁を蹴ると、ちょうど脱出路程度の大きさの口が開いた。
「ここから出ていくとしよう。急ぐんだ」
「待て、俺たちも行く」
 そこに声が聞こえた。八神誠一だ。彼は多数の少年少女を連れていた。
「邸宅のほうにも子どもがいたのですわ」
 崩城亜璃珠の姿もある。一行は一団となると、順序よく穴から外へと出て行った。