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リアクション
アナザーの戦い 2
アナザー千代田基地から離れた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)達は、幾度かの遭遇戦を切り抜けてきていた。
「これ以上進むのは、危険だろうな」
偵察に出ていたイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)は、瓦礫の山をひょいひょいと乗り越えながら戻ってきた。
「危険、でありますか」
今まで、どう動くかとか、敵の位置とかを的確に伝えてきていたイングラハムがこう言うのだ、間違いは無いのだろう。
「どんな風に危険なのだ?」
鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)が尋ねる。
「見渡すだけで、残っていた建造物を補強し、要塞のようなものが三つはあったな。敵の密度も、今までとは違う。はっきりとした境界線はわからないが、この辺りが敵陣と味方の分かれ目だろうな」
「それと、気になるものを見つけたであります」
一緒に偵察に出ていたベスティア・ヴィルトコーゲル(べすてぃあ・びるとこーげる)が告げる。
「気になるもの、でありますか」
「はい。巨大な黒い樹木のようなものが、目測ですが、松戸市の辺りに根を下ろしていると思われるであります」
「ここからは見えないのだが?」
「結界というべきかはわかりませんが、遠くからは見えないように細工がされているものかと。空に届くぐらいに巨大で、そうですね、まるで世界樹のようであります。ただ、あるのは幹だけで、葉はなく枯れ木のようでもありました」
「黒い樹木、か」
唐突に、吹雪のサングラス型通信機に着信が入る。基地での情報収集をしてくれているコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)からだ。
皆に聞こえるように、音声を最大にしておく。
「黒い木のこと、調べてみたわ」
「なんでその話を知ってるんだ?」
「なんでって、イングラハムから調べてって頼まれたからよ」
「コリマ達ならば何か知っていると思ってな」
視線を向けられたイングラハムが、当然のようにそう返す。
「……それで、何かわかったのか?」
「あれ、宇宙から降ってきたらしいわ」
「え、宇宙?」
「最後まで聞いて。今は木の形をしてるけど、最初は種のような感じであれに乗って、ダエーヴァは攻めてきたようよ。ロシアではあれを排除する事で、ダエーヴァ戦を優位に進めてるらしいわ」
「つまり、あれが本拠地で間違いないと」
「恐らく。千代田基地に集結した連合軍も、当初はあれを排除するために終結したらしいわ。ただ、天使に荒らされて、今は防衛も厳しい状況ということね」
「あれを排除できれば、戦況を覆せるってことなのだな」
「ええ、日本に飛来した種は一つ。それを破壊できれば、ダエーヴァの怪物の補充ができなくなるわ。あと、別の報告があるから替わるわね」
ごそごそとした音が聞こえたあとに、火天 アンタレス(かてんの・あんたれす)の声が聞こえてきた。
「聞こえるか? ―――よし、では話そう。こちらの地図と以前月で発見された黒いドームの内部の比較じゃが、違うものである可能性が高いとわかった」
アンタレスの方から、紙をめくるような音が聞こえてくる。
彼は大きな身体を活かして、基地での雑務を手伝いながら調査の進捗を待っていた。装備開発実験隊から派遣された人数は少ないため、分業である。
「黒いドームは、むしろオリジンの地球に近いようじゃのう。まだ分析の途中だが、アナザーとオリジンの決定的な違いがわかったぞ」
「それは何でありますか?」
「こっちには、パラミタ大陸は出現していない」
「広島は遠いねぇ」
瓦礫を乗り越えながら、桐生 円(きりゅう・まどか)は遠くの空を眺めた。
東京にあった首都機能やら人々は、その多くが広島に避難済みだという。あちらは在日米軍とか自衛隊などで完全防衛の構えをしているるという。
「けど、なんで広島なのかしらね?」
イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)は銃型HC・Nで倒れているゴブリンの黒砂汚染度を調べてみる。このゴブリンは彼女達が倒したものではなく、そこに転がっていたものだ。探さなくても、こういった骸は人もダエーヴァも関わらず見つける事ができる。
「汚染、やっぱり反応がでるわね」
数値は高くないが、ダエーヴァの怪物は黒砂汚染と同じ反応を示すようだ。ただ、黒砂汚染で目安になる戦闘能力は、怪物に対してだとあまり有用ではない。個々の能力がそれなりでも、そこに運用が加われば集団としての戦闘能力は跳ね上がるからだ。
「あ」
一番先頭を進んでいたジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)の声に、円が「なになに」と駆け寄る。
「女の子? こんなところに?」
ジヴァが見つけたのは、幼い女の子だった。歳は、七つか八つぐらいだろうか、女の子は様子を伺うように二人を見つめ、
「あ、逃げた」
「何してるのよ、おいかけないと、ここは危険地域よ」
まだ基地に近いが、怪物どもがうろうろしていないわけではない。避難しそこねた子だろうか。避難は既に行われているとはいっても、戦時中の行動で、取り残された人が居ないわけではない。それは、基地の周辺をうろついているだけでも理解できる。
追いかけっこは、あっという間に終わった。逃げ出しすぐ女の子は盛大にずっこけてしまったのだ。
「あちゃー、痛そう」
駆け寄ろうとしたイーリャと円を、ジヴァが捕まえて止める。
「何か、来るわ」
次の瞬間、上から何か巨大なものが落ちてきた。丁度、三人と女の子の間に降り立ったそれは、見上げるほどにでかく、そして金色だった。
「やれやれ、探したぞ。あまりこっちには行くなと言いつけてあったというのに……なんだ、こけたのか? 足腰を鍛えておかぬからだ、ほれ」
金色なのは、全身を覆う鎧が金色だからだ。金色に光鎧よりも、さらに眩しく光を反射させる金色のマントをつけている。シルエットこそ人間に近いが、この二メートル以上ある大きな何者かが、ダエーヴァに属するものであると、見るからに明らかだった。
金色の巨人は女の子をつまむようにして持ち上げる。
「なでぃあよ、怪我はないか?」
「……うん、平気。痛くないもん」
愛々と呼ばれた女の子は怖がる様子はなく、腕でごしごしと顔を拭う。その様子を、金色の巨人は満足そうに頷いて答えると、女の子を床に降ろした。
「ほうれ、見てみろ。職人に頼んでな、全身金色の鎧を仕立ててもらったのだ。これで我がどこにいるか、見失う事もあるまい。部下どもも羨ましがっておったぞ」
「うわぁ、ピカピカだぁ」
巨人は女の子の前で、色んなポーズを取ってみせた。金色が眩しい。
「え、なにこれ?」
呆然とする三人。その最中、イーリャの銃型HC・Nが見た事無い数値をたたき出していた。
「……さて、と」
金色の巨人は女の子をつまみあげると、自分の肩に乗せてから三人に向き直った。よく観察すると、肩には女の子が座るためとしか思えない窪みが用意されおり、手すりも用意されている。
「その様子を見るに、おぬし達はオリジンの者であるな。我の姿を見て、逃げぬとはそういう事であろう。ところで、コリマは元気にしておるかな?」
「コリマさんを知ってるの?」
「敵の将を知るのは当然であろう。おお、これは抜かった。おぬしらは我の事すら知らぬのであったな、まずは名乗るのが礼儀と言うもの。我が名は、ダルウィと申す。そちらの名は何と言う?」
三人はそれぞれ、手短に自分の名前を伝えた。
「ねぇ、聞かせて。なんで貴方達は、ここをアナザーと呼ぶの?」
会話ができるのなら、とイーリャは尋ねてみた。この世界をアナザー、契約者達の世界をオリジンと称するのは、ダエーヴァ達の流儀であり、人間達が考えた事ではないのだ。
ダルウィは顎の辺りを撫でた。それから口を開いた。
「それを我に尋ねるか……まぁよい。答えてやろう。この世界は、シャンバラへと辿る道を閉ざされたのよ。おぬしらの世界が、シャンバラと繋がったが故に、な。さて、では我は失礼させてもらおう」
「あれ? 戦わないの? 僕達は君たちにとっては敵だよね?」
「せっかく仕立てた鎧だ。お披露目するには、この場所は寂し過ぎるというものよ。なあに、安心せよ。戦の時は間もなくだ、せいぜい用心するようコリマに伝えておけ」
肩に愛々を乗せてるからだろう、ダルウィは歩いてその場を去っていった。
「この辺りが切り上げ時だな」
クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)が時計を見ると、午後四時を少し過ぎているところだった。アナザーに来てから、六時間程度経過した事になる。
「とりあえず、わかった事をまとめましょうか」
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)の提案を受けいれ、聞き込みや調査に出向いていたセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)と強盗 ヘル(ごうとう・へる)を呼び、伝令に託す資料を作る傍ら、それぞれの調査結果を検証する事になった。
この時間が調査を一旦締めるのは、夜戦を警戒してである。黒い肌のダエーヴァは夜闇に紛れるのに効果的であり、今までの戦いから夜戦を好む傾向があると知らされている。決戦は日が落ちてからになるのだろう。これまで、外で散発的な戦闘はあったが、敵が基地まで攻めよってこないのも、夜の戦いへ準備を整えているからだろう。
「まず、アナザーにはシャンバラが存在しない。これは確定している。故に、シャンバラとの交流によってもたらされた技術、知識などがこの世界には存在しない」
「ダエーヴァとの戦いに苦戦をし続けているのも、そのせいってのもあるな。道について調べている時に、イコンの話をしたら、それは一体何だ、って逆に質問攻めだ」
ヘルはやれやれといった様子で告げる。
「それ以外の点では、僕達の地球と違いはほとんどない。シャンバラが現れなかった。一番の違いはそこで、それに伴う変化がこっちでは起きてないわけだ。そのせいで、兵器や武器なんかは、オリジンと違って旧式のもののままってわけだ」
「それと、こちらでも何度か以前の東京の姿が目撃されているようだ。オリジン側で、自衛隊の壊滅の情報があったはずだが、全てが全てオリジンのものというわけではなく、こちらの戦闘が目撃されたものも混じってる可能性が高いな」
「そうですね。避難が行われた東京に配備されていた自衛隊はそんなに多く無かったはずです。日本が資料を出し惜しみしたのも、実際のところ資料そのものが発見できなかったからかもしれませんね」
「次にダエーヴァだが、これも少し気になる点があった」
「気になる点?」
「ああ、これまでの戦闘記録にできる限り目を通したが、ダエーヴァは通常兵器を多用しており、かつ各国の工業地帯などを最初に狙っている。そして、俺達が知る魔法をほとんど使ってきていない。考えるにこれは」
「魔法が使えない、という事ですね」
「ああ、そうに違いない。だからこそ、武器を製造し補充できる状況を確保したのだろう。ただ、ごく一部のダエーヴァは特殊な能力を使ってきたという記録もある。それと、こちらで現れる兵器の形をしたものは、元となる兵器にダエーヴァが寄生したもののようだ。ダエーヴァは、自分達で兵器を設計したりなどはしないようだ」
「次は道に関してですね。道についての細かい調査は鈴さんが進めてくれてます。なので、コリマさんに色々伺ってきました」
「こちらでもわかってない事が多いみたいだが、道を安定させるというのは、行き来を安定させる以上に、この世界を守る為に必要だって事らしい」
「どういう事だ?」
「コリマさんが言うには、天井が落ちないように柱を立てるようなもの、道を安定させる事で、この柱がしっかりとしたものになる、だそうです」
「よくわかんない話だな」
「ええ、今後何かわかってくれればいいんですけど、今の段階ではこれ以上はわかりそうにないですね。道の輸送の限界ですが、これは完成してみないとわからないそうです」
「わからない事の方が多いが、現状では仕方ないな」
道に関しては、これから第一号が繋がるかもしれない、といった状況だ。こちら側もあちら側も、実際にできてみないとどんなものになるかわからないのが実情なのだろう。
これらの資料をクローラはまとめて、コリマが用意した伝令に託した。鋼鉄の獅子との合同調査の結果は、オリジンに伝わったらすぐに多くの仲間が手にする事になるだろう。
また同程度の情報がジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)とサルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)の手によって、帝国にももたらされる事になる。
「こっちのコリマも、簡単に信用できる相手ではなさそうだな」
ジャジラッドはコリマと面会し、一筋縄でいくような相手でない事を感じ取った。
人間だけの社会を、ほとんど後ろ盾の無い状況で確固たる地位と権限に登りつめた状況と経験からか、コリマ校長よりも話術や態度、表情などが洗練されている。
「シャンバラが現れない影響は、想像以上に大きいのですわね」
シャンバラの機晶技術がもたらされなかった結果、地球では限りある資源を奪い合うための小競り合いが頻発していた。こういった社会情勢は、コリマが台頭できた要因の一つでもある。
「グランツ教は存在してないというのは、いい知らせかもしれんな。それに、この世界の全ての戦力をかき集めたとしても、オリジンとの戦争は勝ち目が無いだろう」
イコンをはじめとする兵器や、契約者達の個々の能力に、調べた限りではアナザーでは対抗できないのがジャジラッドの見通しだった。だがそれは、あくまで人間の戦力の話であって、ダエーヴァはその限りではない。
「あのコリマが腹の底に何か隠していないか、もうしばらく様子を見る必要があるな」
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