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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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 約束の盃
 
 
 
 夏に帰省したから、実家を離れていたのはたかだか半年。けれど、その半年がえらく長く感じる。そんな風に思っていた篠宮 悠(しのみや・ゆう)の気持ちを代弁するように、姉の篠宮 真奈(しのみや・まな)が実家を眺めてふぅと息を吐く。
「久々に実家見る気がするわね」
「何だ、姉貴もそう思う……ごふっ!?」
 言いかけたところを妹の篠宮 澪に跳ね飛ばされて、悠は呻いた。
「お姉ちゃんお帰りーーー!」
 澪はそんな悠など一瞥もくれずに、真奈に抱きつく。
「新年あけましておめでとう!」
「おっと! 澪っちただいま」
 澪と真奈のやりとりだけを見ていれば非常に微笑ましいのだけれど……冷たい地面に尻餅をついた状態の悠としては、何か忘れていないかと言いたくもなる。
「くそ澪……せめて前見てから飛び出せよ。別の客だったらどうすんだ」
 代わりにそう注意してみると、澪は今初めて気づいたような視線を悠にあてた。
「あ、バカ兄も帰ってた? まぁいいわ」
 それだけ言うと、またすぐに澪の意識は真奈だけに行ってしまう。
「お姉ちゃん、お母さんと一緒におせち料理作ったの。早く入って!」
「こらこら引っ張らないの」
 澪に引っ張られた真奈が家に入り、玄関がぴしゃりと閉められる。
「……おい」
 寂しくひとり閉め出された悠は、玄関の戸を見ながら呟くのだった。
 
 
 気を取り直した悠が2人の後を追ってゆくと、今にいた母の篠宮 佳枝が、
「あら帰ってきたのね。2人とも随分たくましくなって」
 と笑顔で迎えてくれた。
「ただいま」
「よぉ親父にお袋、戻ったぜ」
 真奈と悠が挨拶すると、父の篠宮 晋太郎が顎をしゃくる。
「おう帰ったか、まぁ2人とも座んな」
 自営で大工職人を生業としている晋太郎は上機嫌で2人に席を勧めると、カーチャンも、と言いかけてその前にと付け加える。
「座る前に酒を頼むわ」
「もうお父さん、お医者さんにお酒は控えるよう言われてるでしょ。今日は休肝日」
 佳枝は笑って受け流す。
「正月に休肝日もクソもあるか……」
 晋太郎が、あるかい、まで言い終えないうちに、佳枝が威嚇するように身を乗り出した。
「大ありです。お父さんが飲み始めると大酒飲みで家計が大変なんだから!」
 どうやらさっきのは建前でこっちが本音らしい。
「……へい」
 大人しく引き下がった晋太郎に満足すると、佳枝は澪に呼びかけた。
「澪、お料理運ぶからちょっと手伝って」
「はーい。お姉ちゃん、おせち楽しみにしててね」
 母と妹がキッチンに行き、父と真奈と自分の3人になるのを見計らい、悠は晋太郎の前で居住まいを正した。
「親父……あっちじゃ、落ち着いたこと、これから波乱を迎えること、色々だ。俺は今マホロバって国で動いてるけどよ、国の疲弊に侵略の危機、そもそもの存在の岐路……えらいことになってる」
「随分大変な世界のようじゃねぇか」
「ああ。親父、もしかしたら帰るのはこれが最後になるかもしれねぇ……もしもの覚悟はしておいてくれ」
 次の帰省が出来るかどうかは解らない。そのことを父にはきちんと話しておかなければならなかった。
「こっちでは皆何事もなく過ごしてるみたいで安心したわ。パラミタの上だけの騒ぎだけかと思えば、地球でも鏖殺寺院が増長してるって言うじゃない。何だかんだで気が気じゃないわ……父さんたちも気をつけて」
 真奈はいつに変わらぬ家を慈しむように見渡した。
 そんな2人に晋太郎の怒声が飛ぶ。
「このドラ息子! ここはおめぇの家だろうが。最後とかナマ言ってんじゃねぇよ! 真奈もだ! いざって時に家族守るのが一家の亭主ってモンだ! 余計な事気にしてんじゃねぇ!」
 そこまで一気にまくしたてると、ふと晋太郎は声のトーンを落とし。
「やりてぇように……やってきな」
「ありがとう親父……悪いな……結局親不孝しかできねぇよ」
 そう言って悠は荷物から土産の酒を出した。父が母に止められるのを見越して隠し持っていたのだ。
「バカ息子のわりに気が利くじゃねぇか。さ、辛気臭ぇ話は仕舞いだ! オウ真奈! 悠の酒注げ!」
「こら悠! 父さんも、さっき母さんが休肝って言ってたばかりでしょ」
 注意しつつも、まあ今日くらいはいいかと、真奈は酒を注いだ。
「父さんごめんね。でも、悪い話ばかりでもないわ。私にも沢山の友だちや相棒がいる……悠だってマホロバで将軍に認められた立場だしね」
 これからどうなるかなんて解らない。けれど、家族を悲しませるような結果にならないように、最大限努力してみせる。
 だから……これは別れの盃なんかじゃない。
 これは、またこうして笑い合う為の約束の盃なのだから――。