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マレーナさんと僕(1回目/全3回)

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マレーナさんと僕(1回目/全3回)

リアクション

 
 ■
 
「まあ、邦彦さん」
 斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)が廊下を通りかかった。
 片手に、買い物袋。
 片手に首根っこを掴まれて、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)がいる。
「ちょっと、愛の伝道をですね。あははは……」
「という名目で、床に穴を開けてのぞきをもくろんでおったのだ」
 はぁ、と額に手を当てて、大きく溜め息。
 だがキヨシに笑いかけると、エッツェルは。
「君も、『愛の伝道師』に弟子入りしません?」
「……懲りない奴だな、お前も」
 キヨシはマレーナから、邦彦について説明を受けた。
 受験生ではないが、マレーナの補佐兼警備をしているということだった。
「彼は紳士なのですよ。
 それに、給料はいらない、部屋を融通してくれればいい、と。
 熱心に頼みこまれてしまってはね」
「ついでに、夜食も作るぞ!」
 買い物袋を掲げる。
「マレーナさんのリクエストがあればだが」
「邦彦さんの料理は巧いのですよ。
 私は彼の好意に甘えてばかりで……」
 ふふっと、マレーナはなぜか恥ずかしそうに笑う。
「私がお作り出来ればよかったのですけれど……」
「? 管理人さん、それはどういう意味で……」
 
 どどお――んっ!
 
 轟音と共に、下宿が揺らいだ。
 何だ、何だ!
 4名は慌てて廊下の窓から音の方を眺める。
「またか……」
 邦彦は眉をひそめて、玄関に目を向ける。
 軍用バイクに乗った月詠 司(つくよみ・つかさ)パラケルスス・ボムバストゥス(ぱらけるすす・ぼむばすとぅす)が倒れている。
 勢い余って、玄関に突っ込んだらしい。
「まぁ、大変! お医者様が……」
 パタパタとマレーナが走って行く。
 邦彦は両手を腰に当てて大仰に溜め息をつくと、キヨシに向かっては。
「この下宿は一筋縄ではいかんからな。
 気を引き締めるだぞ、青年」
 201号室の位置を説明すると、マレーナの後を追いかけて行った。
 家賃無料と美人管理人の謳い文句につられて決めた下宿ではあったが。
 これは想像以上に、大変なところに来てしまったようだ。

 そして、邦彦の言は現実のものとなる。
 2階について間もなくの事――。
 
「まぁ、そんなに固いこと言わないで下さいねぇ。
 あちきは挨拶回り行くだけですから、ミスティ」
 ふらふらと、ベビードールのお姉さんがこちらにやってくる。
 
(わっ! こいつも受験生かよっ!!)

 キヨシは慌てて避けようとしたが、後ろは階段。
 ドンッとぶつかって、モロに体当たりされてしまった。
 肩口からベビードールがはだける。
「あら、見えちゃったですかねぇ? よいしょっと」
「よいしょっと、じゃないですよ? レティ」
 ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)に上着を強制的にかぶせる。
 あれっと、階段をみた。
 そろそろと階下をのぞく。
 鼻血を出して、仰向けにひっくりかえるキヨシの姿がある。
 傍でマレーナがさして慌てもせずに。
「まあ、大変!
 お医者様を呼ばなくては。
 けれどそこは、『受験地獄』の中にいらっしゃるお方。
 階段落ちなど、瑣末な日常の一幕ですわね?」