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こどもたちのおしょうがつ

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こどもたちのおしょうがつ
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リアクション

『森のおくにいったりゃだめなの? うん、わかったぁ』
 にぱっと笑って、大人達に素直にそう答えた外見5歳のすみれちゃん(茅野 菫(ちの・すみれ))は、まだ森の中にいた。
「おとなたちはいっつもたのしいこととかおもしろいことって、あたしぃたちにねりゅじかんとかだめとかすぐ言うんだからっ」
 お嬢様っぽい服装をしているけれど、中身のすみれちゃん自身は性格も言葉づかいも、乱暴だったり、がさつだったり、お嬢ちゃまには程遠い女の子だ。
「でも、あたしぃはだまされたりしにゃいんだからっ」
 大人達の目を盗んで森の中に入ったすみれちゃんは、迷子になることも、野獣と合うことも全く怖がりはしなかった。
 猫や兎がいるという話は、聞いていた。奥に行ったら、もっと大きな動物もいるんだろうな、と、心を躍らせながら、すみれちゃんは進んでいた。
「こけつにいらずんばこじをえずなのよ」
 遠くの方から、同じように森に入り込んだ子供達が騒いだり、叫んだりしている声が聞こえても、すみれちゃんは怖がることなく、ずんずんと森の中を歩いていく。
「そこで何をしているのです?」
 突然、声をかけられてすみれちゃんは嫌そうな顔で振り向く。
 大人が連れ戻しに来たのかと思って。
 だけれど、声の主は大人ではなくてすみれちゃんより少し年上の、女の子だった。
「これより先はドラゴンのすみかがあります。大人用の道です」
 そうすみれちゃんに言うのは、ザミエルちゃんだ。
 ザミエルちゃんは、散々滑って転んだり、獣に追い掛け回されたりしたらしく、体は雪まみれで、息を切らしていた。
「ザミエルだって、こどもなのにおくいってたんでしょぉ? あたしぃだって、いけりゅんだからっ」
「そうですか。ではこっちです。こうかいしますよ」
 ザミエルちゃんはすみれちゃんの手を引いて、ずんずん進むことにする。
 ずんずんずんずん2人は同じような景色の中を歩いていく。
 ……と。
「うー……」
 声と共に2人の前に現れたのは、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)のパートナーの、スプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)だ。
 獣人であるスプリングロンドは、言葉をしゃべらず唸り声だけ上げている。
「うわあ……っ」
 スプリングロンドの姿を見たすみれちゃんは、目をキラキラと輝かせた。
 スプリングロンドは狼の獣人だ。今日は子供達の世話をするために、狼の姿をしている。
「おおかみさんだぁ。もふもふ〜」
 すみれちゃんは転びそうになりながらスプリングロンドに駆け寄ってぎゅっと抱き着いて、もふもふしていく。
「おうまさん、おうまさん〜」
 スプリングロンドはやはり言葉を話さず、ただ尻尾を振っている。
「ごっこしよぉ、ごっこ」
 もふもふを楽しんだ後、すみれちゃんは許可を得るより早く、スプリングロンドの背にまたがった。
「しゅっぱーつ! おうまさんしゅっぱぁつぅ」
 すみれちゃんは、スプリングロンドの背をぎゅっと抱きしめる。
 スプリングロンドはすみれちゃんを落とさないように気を付けながら、歩きはじめる。
「お嬢ちゃんも一緒に戻ろうな。ここまで、この子を連れてきてくれたんだろ?」
 そして、ザミエルちゃんに小さな声で話しかけた。
「おくに進んでいただけです。どうやら方向をまちがえたようですね。仕方ない、ごはんです。ごはんを食べるのです!」
 スプリングロンドの言葉に、ザミエルちゃんが独り言のようにそう答える。そして、今度はずんずんログハウスの方に進んでいく。
「もふもふ、もふもふぅ〜。ぱっぱかぱっぱか〜」
 すみれちゃんは、大きな狼の姿のスプリングロンドの背で、とっても楽しそうにはしゃいでいた。
 面倒見のいいスプリングロンドは、すみれちゃんが満足するまで、ログハウスの傍で遊んであげていた。

 すみれちゃんは、遊び疲れてスプリングロンドに抱き着いたまま眠ってしまい、そのまま子供達用の寝室に運ばれた。
「夢の中でも沢山遊ぶといい」
 スプリングロンドはそんな彼女の枕代わりになってあげた。
「そこだ、いけ……」
「ぼくの、ゆきだるま……」
 子供達は寝言を発したり、布団から飛び出してごろごろ転がったりしている。
 夢の中でも皆元気に遊んでいるようだ。
「風邪、引かないようにな。いや、引かせないようにしないとな」
 スプリングロンドはすみれちゃんだけではなく、眠っている子供達をほほえましげに眺め、布団を蹴ってしまった子には、尻尾で布団をかけ直してあげた。