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●蓮見家の新年会 その2

 外は暗くなっていた。和室に全員が顔を揃え、いよいよ新年会の始まりだ。
「今日は、蓮見家新年会へようこそ。たくさんの人に来てもらえて嬉しいよ」
 振袖姿に着替え、朱里が蓮見家を代表して挨拶した。
「そして今日は、私事だけどアインの誕生日でもあるんだよ。アイン、挨拶と乾杯の音頭を頼んでいい?」
「急な話だな。しまった、何も考えていなかった……」
 やや困り顔のアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)の前に、
「おめでとう、パパ〜」
 隣の部屋に隠していたロウソクつきのケーキを、ピュリアが運んできた。
「すまない。ありがとう」
 アインは胸の奥に灯のような温かみを覚えていた。彼にとってこの誕生日は、正確には『内部記録に残っていた製造日時』であり、それ以上の意味も実感もないのだが、それでも祝ってくれることは素直に嬉しかった。
「ではその、ケーキのロウソク点灯は後にすることにして、簡単ながら一言。あけましておめでとう、こうして友人が増えたことは僕にとって大きな喜びだ。皆にとってもそうであってほしいと思う。2021年の皆の健康と幸せを願って……」
 アインはグラスを持ちあげた。朱里も、鴉も、つぐむも、すべてのパートナーもこれに倣った。
「乾杯!」
 たちまち賑やかな宴が始まったのである。朱里は最初に告げた。
「今日は初対面の人が多いと思うので、それぞれ自己紹介をしようね。私は蓮見朱里、えーと、ちょっと気恥ずかしいんだけど、アインの妻でこの家の『お母さん』なんだよ」
 ピュリア、健勇の二人は法的にも彼女とアインの養子ゆえこれは書類上でも事実だ。若いお母さんなのである。アインは繰り返しになるから、と軽く名乗るにとどめ、ピュリアが続いた。
「ピュリア・アルブムだよ。この家の長女なの! ピュリア、去年の春に今のママたちと出会ったから、こうしてみんなでお正月をお祝いするのって初めてなんだ。お正月のお祝いって楽しいねっ。よろしくね〜。……ねえねえ、お兄ちゃんが次だよね?」
 ピュリアが背中を押し、おっとと、と健勇は一歩前に出た。
「よっしゃあ! 期待の新星ここに参上!! ……ごめん、ここは笑って聞き流してくれ☆」と、さっそく場を軽く湧かせて彼は続けた。「俺はここの長男、ピュリアのアニキなんだぜ。えーと、父ちゃん(アイン)が、あまりにもかっけー姿だったんで押しかけてここの家族の一員にしてもらったんだ。将来の夢は正義のヒーロー、へへへ、よろしくな−!」
 わんぱく息子と可愛い娘、なかなか理想的な蓮見家のようである。彼らが喝采を受けた後、
「時計回りで行くと次は俺だな」鴉は、並みいる面々を見渡して告げた。「夜月鴉という。趣味は音楽鑑賞……あとは、まあ、寝ることかな。見た目、とっつき悪そうかもしれないが……悪い人間ではない、つもりだ。どうも自己紹介は苦手だな……すまん。以後よろしく」
 暖かな拍手が彼を包んだ。次はアルティナ・ヴァンス(あるてぃな・う゛ぁんす)の番だ。
「私はアルティナ・ヴァンス、良ければ『ティナ』と呼んで下さい……」
 アルティナは元来表情が乏しい。今も、口を閉ざすと人形のような面持ちになる。ただしそれは自覚しているので、できるだけ親しみやすい(と、自分が思う)口調で話すようにした。
「知らないことが多いので、教えてくれると嬉しいです。あと、たまにですが、仕草が猫っぽいと言われます」
 緊張しているのか後半、やや早口になってアルティナは拍手を受けた。淡いプラチナ色の頭をぺこりと下げる。
 銀色の髪の少女、ユベール トゥーナ(ゆべーる・とぅーな)はティナとはまるで正反対のハキハキとした口調だった。
「ユベール・トゥーナよ。正義感はわりと強い方っ! えっと、今日はみんなと知り合えて、年始早々ラッキーだと思ってるわ。よろしく!」
 鴉一行の最後を務めるのは、ドラゴニュートの少女ユフィンリー・ディズ・ヴェルデ(ゆふぃんりー・でぃずう゛ぇるで)だ。といってもある呪いによって、彼女の姿は人間そのものに見える。炎のような髪を揺らしてユフィンリーは名乗った。
「私はユフィンリー・ディズ・ヴェルデ、単に『ユフィ』と呼んでくれればいい。趣味は音楽だな。ピアノを弾きながら歌うのが好きだ。多少だが作曲もする」
 多少、と彼女は謙遜して言っているものの、かつてユフィのペンによる楽曲は、命に結末を与えるほどの美しき魔力を持っていたという。だが現在ではそれを封印し、事実について本人は、何も語らないようにしている。
 つぐむが立ち上がった。
「十田島つぐむだ、よろしく。代々技術者とか研究者の家系で、俺にもその血は濃く流れているらしく機械いじりや整備、設計が好きだ。機晶姫の修理はもちろん、家の電子レンジやトースターを直すことも日常的にやってるから、機械のことで困ったらいつでも声をかけてくれ」
 そしてミゼ、こたつから立つと、やはりあの刺激的すぎる服装のミゼである。
「お恥ずかしながら……つぐむの奴隷のミゼです」
「おい、誤解を招くようなことを言うなっ。俺はたまたま、先祖から受け継いだお前を修理しているだけだろっ!」
「と、つぐむ様は申し上げておりますが、本当は毎夜毎夜、ワタシを玩具にして口には出せないようなことをしているのです。はぁ……思い出すだけで体が疼いて……」
「嘘を言うな嘘を! ほら、座ってこたつに入ってろ、子どもも見てるんだから首と手以外出すんじゃない!」
 つぐむは慌ててミゼの腕を引っ張り、こたつに押し込んだのである。彼の主張の方が事実らしい。つぐむの顔は紅潮していた。
(「こんなM体質の機晶姫と知っていたら再起動させるんじゃなかったな……」)
 と思いつつ、つぐむはガランを促した。
「連れが失礼した……。オレはガラン・ドゥロスト、スクラップ状態で破棄されていたのを、つぐむが修理して蘇らせてくれたので彼に仕えている。ほぼ全機能は復活したが、まだ左腕だけは付かない。それでも箸は使えるし食事も可能なので、気を遣わないでほしい」
 丁重に頭を下げるガランであった。そして最後が真珠だ。
「えーと、つぐむちゃんの幼なじみで今はパートナーの竹野夜真珠だよ。つぐむちゃんのために家事をしたり、ちっちゃい子と遊ぶのが趣味。仲良くしてね」
 ピュリアと健勇は声を上げた。二人はすでに、全員の準備ができるまでの短い時間で真珠と仲良くなっていたのであった。